食の信頼向上をめざす会「『不適切な報道』はなぜ起きたのか?」(2)

4月28日、食の信頼向上をめざす会によるメディアとの情報交換会が開催されました。

テーマは「不適切な報道」ということで、週刊誌に掲載された食品安全委員会での審議を非難する記事についてと、ある地方自治体主催の講演会についての二つの講演がありました。
前半部分の傍聴記録はこちらをご覧ください。

今回は後半の講演をかいつまんでご紹介します。講演では、枚方市が行った食品添加物をテーマとした講演会について、その内容の問題点と市の対応に関する情報提供がありました。


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☆ある自治体主催の講演会について(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授、長村洋一氏)

食品添加物へのバッシングはここ数年ひどくなっています。
その理由のひとつに安部司氏の著書(「食品の裏側」)があると思います。読者の中には、この本の内容を真実だと思いこんでいる人がいて、自治体でさえも安部氏を講演会の講師として招いているということがあります。
安部氏の問題はこれまでも様々な場所で指摘されています。そうしたこともあり、氏の論調は少しずつ変わり、最近は食文化論などを取り入れて話しているようです。


枚方市も安部氏を講師とした講演会を開きました。講演会は「加工食品の舞台裏を語る」と題したもので、それを告知するホームページ上では、次のような文章が掲載されていました。
食品添加物を利用することで『簡単』『便利』な生活をしていますが、その代償として何かを失っていませんか?『食』についてもう一度考えてみましょう。講演では、添加物だけでとんこつスープやお吸い物、無果汁ジュースなどをその場で実演します。」

途中まではそんなに違和感がありませんが、「講演では・・」の後から怪しい感じがします。

安部氏は講演会で、試薬ビンに入れて薬品のようにみせた粉末状の食品を混ぜ合わせ、「食品添加物でとんこつスープができました」というパフォーマンスをやっています。
しかし、実際はその粉末は豚骨エキスパウダーや食塩、うま味調味料、しょうゆ粉末、ガーリックパウダーなどです。
化学薬品として製薬会社から買うことができるのは、食塩、うま味調味料であるグルタミン酸ナトリウムや5’‐リボヌクレオチドナトリウム、酸味料であるリンゴ酸だけで、これらは全て体の中にも存在している重要な物質です。その他は、食品会社からしか購入できなく、一般飲食物食品添加物(*)が多いのです。
*一般的には食品だけど、添加物としても使われるもの。


しかし、知識を持ち合わせていない人がこのパフォーマンスを見たら、どう思うでしょうか?
とんこつスープは化学薬品でできていると受け取るに違いなく、明らかに消費者に対する欺瞞を行っていると思うのです。さらに安部氏は、「白い粉」「石油からできている」などという表現を使い、不安をあおっています。
こうしたパフォーマンスや言動は科学的ではありません。
なぜなら、毒性について話すとき、もっとも大切なのは量の概念だからです。どんな物質でも、量が多ければ毒性を示しますし、少なければ全く毒性の作用が認められなくなります。
食品添加物は、膨大な実験結果を根拠にして、一生の間毎日摂取しても健康に影響が出ない量(ADI)が定められ、食品への使用量などが決められているのです(実際にはADIよりもさらにずっと低い濃度で使われています)。


食品添加物を使用しない無添加思想は、大きなデメリットを持ち合わせています。
例えば、保存料を使用しない場合、食中毒が発生する可能性が高くなります。食品添加物によって健康に影響がでるということはありませんが、微生物による食中毒は、食の安全に求められるもっとも重大なことなのです。
また、保存料を使うと、消費期限や賞味期限が長くなるというメリットがあります。無意味なバッシングのせいで保存料を使用せず、食品廃棄を増やすことになるのはいいことでしょうか。


知人のA氏は、安部氏を講師として起用することについて、枚方市に疑問を投げかけました。
その回答によると、枚方市が安部氏を講師に選んだ理由は、氏のテレビ出演や講演実績、著書の内容などから判断したとのことでした。講演会の企画担当者は科学的な力量がないとも書いており、他の自治体で行われた大規模な講演会への出演実績があることがポイントになったようでした。
また、枚方市食品添加物は必要だということは認識しているが、知識や考え方が正しいかどうかではなく今回は食品表示に興味を持ってもらいたいと思っているとのことでした。


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食品表示に興味を持つことは大切ですが、そこにはあくまで正しい知識や考え方に基づいているという前提があるはずです。
著書が売れているということと、科学的に正しいかどうかということは必ずしも一致するわけではありません。むしろ、科学的に正しいものは多少なりとも難しく、決して多くの人にすぐに受け入られるわけではないのかもしれません。
さらに、人は本能として、安全だという情報より危険だという情報に大きな影響を受けると言われています。だからこそ、危険だという情報には慎重になって「本当にそうか?」と疑うといいのだと思います。


今回講演した長村氏は以前、社団法人健康食品管理士認定協会のHPでもこの問題について書いていますので、そちらも見てみてください。