第六回栄養成分表示検討会(消費者庁)

5月30日、消費者庁栄養成分表示検討会(*)の第六回が行われました。
*現在、日本では栄養成分表示は任意ですが、本検討会で今年の夏をめどに義務化の検討を含めた議論を行うことになっています。

以前の検討会の傍聴記録はこちら→第一回第二回第三回第四回第五回


本検討会は15名の委員で構成されており、今回は山根香織委員以外の14名の委員とオブザーバーとして独立行政法人国立健康・栄養研究所食品保健機能研究部長の石見佳子氏が出席しました。
配布資料は消費者庁サイトに掲載されています。


今回は論点整理のために、石見佳子氏より栄養成分表示の運用上の問題点について発表がありました。

発表の後、主に以下の点について議論が行われました。
●栄養成分表示の適用範囲はどうするか。(→生鮮食品や外食、中食は適用範囲外にした方がよいかどうか。)
●誤差範囲はどうするか。(→分析した場合と成分表から計算した場合で、値のばらつきはどのくらいあるか。表示値に対して上限値と下限値の両方を規制するか、どちらか一方を規制するか。)
●監視はどのように行うか。(→現在、東京都では保健所の栄養指導員が監視を行っている。栄養成分表示が義務化されたら、各自治体で実効性を担保することには色々な問題があると思われる。)


<傍聴した感想>
今回の会合で論点整理が終わりました。次回に報告書案が発表され、昨年12月から続いていた消費者庁での栄養成分表示に関する審議は、次々回で一区切りつくことになります。
審議が始まった当初は、トランス脂肪酸の表示を義務化するかどうか・・?ということが世間の話題になっており、そのような主張が一部の委員からも出ていました。しかし、ここ数回の会合を傍聴していると、決してそうではなく、国民の健康維持増進に役に立ちそうな栄養成分を優先度の高い順に表示していこう、という流れになっているように感じます(トランス脂肪酸の優先度はそんなに高くはない)。
今回、浜野委員からあった「表示した方がいい項目はいくらでもある」という発言には「確かにそうだ」と思いました。表示した方がいい項目はいくらでもあるかもしれません。しかし、現実的に可能かどうか(表示スペースやコストなどの問題)、決まりが守られていることを監視する体制は整備できるかなどの問題があります。多すぎる情報は、本当に必要な情報を見えにくくしてしまうことがあり、合理的な結論は消費者の健康のためにもなると思っています。


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消費者庁事務局による資料2の発表】
事務局より、資料2「栄養表示を義務化する諸外国の栄養表示の適用範囲について」に関する発表がありました。

●栄養表示を義務化している諸外国として、米国と韓国の例を挙げた。米国についてはウェブ検索で、韓国については浜野弘昭委員を介してILSI(特定非営利活動法人国際生命科学研究機構)より情報収集した。
●米国は、販売に供する食品に栄養表示が適用されており、外食や中食、生鮮食品(肉は2012年から義務)、乳児用食品などが適用範囲外になっている。ただし、強調表示(「カルシウム入り」「塩分控えめ」といった表示)をする場合は栄養表示が義務になる。
韓国は、レトルト食品、菓子、パン、麺、飲料、海苔巻き、ハンバーガーなど、適用範囲の食品が細かく決められている。適用範囲外は、生鮮食品、中食、外食である。ただし、米国と同様、強調表示をする場合は栄養表示が義務になる。
米国は、年総売上が50万ドル以下あるいは事業規模が5万ドル以下の場合は適用範囲外となり、過去一年間において社員100人以下で販売数が10万以下の場合は12ヵ月間例外措置になるなどの決まりがある。韓国では、こうした事業規模による表示免除の決まりはないが、対面販売および店頭で製造加工する場合は適用範囲外になる。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(浜野弘明委員)韓国が特徴的なのは、栄養表示の該当食品が限定されていること。なぜこうした食品が選ばれたのかは正確には分からなかったが、2009年に制定された「子ども食生活安全管理」の食品分類とリンクしているのではないかと思う。義務化に際しては、子どもを対象にするという意識が高かったのだと思う。韓国のように、目的を決め、目的別に決めていく、というのもいいのではないか。
→(畝山智香子委員)韓国には低栄養で高カロリーな子ども嗜好食品というものがあり、それに分類される製品にはマークを付けなければならない。
→(飛田恵理子委員)消費者には様々な人がいるので、どの年代でも使えるような表示がいいと思う。日本では外食や中食の比重が大きくなってきているので、これらも含めてできる限り広い範囲で表示した方がいい。
→(蒲生恵美委員)栄養政策にリンクした表示をするべきだ。目的が日本人の健康維持増進であるのなら、その目的に合うような栄養表示を考える。

●(渡部浩文委員)米国で適用範囲外になっている食品の理由は何か?
→(浜野氏)正確な根拠は持っていないが、栄養素が微量であるものや、他の法で制定されているものは除外されている。それほど重要な意味合いはなかったと思う。
→(迫和子委員)今後表示が義務になれば適用範囲外が重要になる。包装食品については義務を推進していくべきだと思う。生鮮食品は個体差が大きいので任意がいいと思う。任意表示の中から徐々に義務表示を増やしていき、最終的には義務表示の方が多くなるというのがいいのでは。
→(徳留信寛委員)義務化するか任意のままか、基本的なスタンスを審議する場が欲しい。外食や中食はいきなり義務化にするとかなり混乱するので、これまでやってきた包装食品に適用するのがいいと思う。また、生活習慣病は今後も増えると考えられるので、子どもの健康を主なターゲットにするのがいい。


【事務局による資料3の発表】
事務局より、資料3「栄養表示を義務化する諸外国の栄養表示に関する表示値の取扱いについて」に関する発表がありました。

日本では栄養表示は一定値表示あるいは上限値および下限値表示がされている。それに対して米国と韓国では一定値で表示されている。
●栄養表示が義務化されている米国、韓国ともに、分析は必須ではない。
●誤差の許容範囲について。米国は、強化食品などは表示と同等あるいはそれ以上、不足がちな栄養素(ビタミンやミネラルなど)は表示値の80%以上、摂り過ぎる栄養素(カロリーや糖類など)は表示値の120%未満であることとしている。
●韓国は、不足がちな栄養素は表示値の80%以上、摂り過ぎる栄養素は表示値の120%未満であることとしている。
●米国、韓国ともに、栄養素ごとに有効数字や丸め値の決まりがある。


【石見佳子氏による発表】
独立行政法人国立健康・栄養研究所食品保健機能研究部長の石見佳子氏により、資料4「栄養成分表示運用上の問題点〜試験機関の立場から〜」に関する発表がありました。

●栄養成分表示では、実際に分析した値、あるいは理論値を表示する。理論値とは、実際に分析は行わず、食品成分表などを用いた計算値のことである。いずれの場合も表示値は実測値の許容誤差範囲内である必要がある。
●例えば、ナトリウムの許容誤差範囲は-20%から+20%である。日本で「ナトリウム200mg/100g」と表示される場合は、「平均200mg」(160mg以下、240mg以上の両方を規制)という意味である。それに対して米国は、下限については製品間の誤差や分析の誤差などを勘案して規制は設けず、上限のみに規制を設ける「200mg以下」(240mg以上を規制、下限に対する規制はない)という意味である。ナトリウムは摂り過ぎが問題になっている栄養素であり、カルシウムなど不足が問題になっている栄養素は逆の考え方(上限に対する規制はない)になる。
●表示値を丸める(四捨五入する)と、許容誤差範囲を出てしまうことがある。例えば、表示値0.01g/1gのナトリウムの許容誤差範囲は0.008g~0.012gであるが、0.01gの四捨五入できる範囲は0.005g~0.01499gであり、許容誤差範囲を出てしまっている。この場合、四捨五入範囲の上限から+20%、下限から-20%を許容誤差範囲とするのがひとつの解決策となる。
栄養表示にかかわる栄養成分の分析には最低でも一件につき二万円がかかる。標準偏差を得るためには少なくとも3検体を分析しなくてはならず、実際の負担はかなり高くなる。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(鬼武一夫委員)許容誤差範囲について、日本の現行のやり方と米国のやり方ではどちらの方がいいか?
→(石見氏)目的による。栄養政策と結びつけた表示ということだと、ナトリウムは下限をしっかりと規制しなくても国民の健康には大きな影響がない。日本は正確な値を求めるやり方で、米国は正確ではなくて範囲を決めておいて、これ以上は健康によくないというポイントは押さえるやり方。

●(佐々木敏委員)注意したいのは、成分表に掲載されている値はあくまで代表値であり、基準に用いるものとして作られていないので、その時点で誤差が生じているということ。分析をしない場合の値の精度をどのように考えるのかを慎重に考え、色々な誤差を盛り込むことが必要となる。成分表の値をものさしのゼロ点に置くことには問題がある。
→(坂本元子座長)そうすると、必ず一回は分析をしなさいということになる?
→(佐々木氏)それでは運用上の問題点が出てくると思う。現実的には、成分表の目的限界を明記し、十分に考え、それを超えないように注意をする。その一方で、分析をする場合でも、方法によってはまた異なる誤差が生じることがある。そうした様々な誤差を考え、どの程度までなら許容できるのかを考える。
→(飛田氏)許容誤差範囲で、製品間の誤差や分析の誤差を勘案する場合と、上限値と下限値を規制する場合で、コストとしてはどのくらいの差が出るか?
→(石見氏)差については調べていないので分からないが、製品間の誤差などを調べるのにはそれなりのデータが必要なので相当なコストがかかると思う。
また、佐々木委員の意見について、分析値がばらついてしまう場合は幅表示でもいい。ただ、現在の日本には数式に基づいた幅表示の規定がないので、消費者にとっては一点表示の方が分かりやすい。そういう面から考えると、理論値であっても一点表示の方が消費者には分かりやすい。また、成分表でなくて自社のデータベースなどを用いて計算してもいいので、誤解のないようにしたい。
→(浜野氏)加工度の違いがあるのに、全部をまとめて栄養成分表の誤差を考えるのは難しい。例えば、チョコレートのメーカーは成分表を用いてチョコレートの栄養表示は作らないだろう。問題となるのは外食や中食だ。お弁当などの栄養表示が実測値とどれだけの差があるのかというデータはないと思う。この場合、データを出してから考えるというより、一種のキャンペーンのようにやりながら考えるというのもいいかと思う。


消費者庁事務局による資料5の発表】
消費者庁事務局より、資料5「栄養表示を義務化する諸外国の栄養表示精度の運用及び監視体制について」に関する発表がありました。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(坂本座長)日本ではどこが監視するのか?
→(迫氏)食品衛生監視員による収去検査と、栄養指導員による指導の二つがある。栄養指導員は保健所にいる管理栄養士が担当しており、実際に試買調査を行って不適正な栄養表示があった場合、自治体に通報し、その自治体の担当者が指導するという流れになっている。指導があればラベルの変更などが行われるので、厚生労働省に通報するようなものはほとんどなかった。
→(渡部氏)東京都は栄養指導員による事業者の指導がベースになっている。食品衛生法にかかわる部分は、食品衛生監視員の資格をとった栄養指導員にその資格を与えている。ほかの都道府県では、栄養表示が義務になった場合、栄養指導員の確保など、実効性の担保には色々な問題があるだろう。


消費者庁事務局による資料6の発表】
消費者庁事務局より、資料6「栄養表示を義務化する諸外国の栄養表示の表示方法について」に関する発表がありました。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(蒲生氏)自分がどんな摂り方をしているかというのが大まかに分かるような栄養表示にするために、細かい数字だけではなく、それが一日の必要量のどのくらいに当たるのかを判断できるようにしてほしい。そして、そうした情報は表面の分かりやすい位置での訴求が必要だ。また、一食当たりの表示は、人によって食べる量が違うので分かりにくいと思う。
→(坂本座長)米国では以前、年代別に分けて「この年代には必要量の何%」というように書いてあったと思う。その代わり、情報が多くなり見るのが大変だ。
→(飛田氏)表示するならできるだけ分かりやすい位置にするべき。年代別に考えるというのもひとつの方法だが、それが誰にとって必要な栄養素なのかが分かりにくくなってはいけない。
→(浜野氏)表示した方がいい項目はいくらでもあるので、やはり二段階、三段階にするしかないと思う。コアのものをどうするかということと、強調表示をする場合はどうするかという二段階。また、表示の順番はこのままでいいのかということも考える必要がある。

●(消費者庁事務局)次回は6月27日で、事務局で報告書案の発表を行う。
佐々木委員には国民栄養調査のさらなる再解析結果について発表してもらい、それに基づいて栄養表示の順番について議論してもらう。また、事務局で栄養表示の対象項目の選定案を発表するので、それについても議論してもらう。