消費者庁意見交換会「食品と放射能について、知りたいこと、伝えたいこと」(1)

8月28日、消費者庁による意見交換会「食品と放射能について、知りたいこと、伝えたいこと」が開催されました。
当日は、放射性物質による健康影響と消費者のリスク認知に関する講演、ディスカッションがありました。注目度の高いテーマであり、また、土曜日の開催ということもあってか、200〜300名と多くの参加者がいました。

今回は、放射性物質による健康影響を解説された放射線医学総合研究所の明石真言氏の講演内容をご紹介します。
京都大学農学研究科の新山陽子氏によるリスク認知に関する講演とパネルディスカッションの内容は、次のブログ記事でご紹介します。)


☆「放射性物質が健康に及ぼす影響」(独立行政法人放射線医学総合研究所理事、明石真言氏)
放射性物質とは】
放射線にはX線ガンマ線ベータ線、電子線、アルファ線など様々な種類があり、種類によって透過力が異なります。人間の身体を例にとってみると、アルファ線は皮ふで遮られ透過できませんが、ベータ線は皮ふを透過でき、ガンマ線は身体を透過できます。

放射線は自然界にも存在し、人間は宇宙や大地、食べ物などから被ばくをしています。自然放射線の年間平均は2.4mSvであるとされています。自然放射線の量は地域によって異なります。イランのラムサールは年間平均で10.2mSvという高線量です。
なぜ被ばくをしても大丈夫なのかというと、たぶんこの程度の線量に耐えられる生物しか地球上には存在していないからだろうと思います。
体重60kgの日本人は体内にカリウム40を4,000Bq、炭素14を2,500Bq、ルビジウムを500Bq、鉛・ポロニウムを20Bq含んでいます。何年か前にロシアのスパイがポロニウムで殺されたということがありましたが、そのくらい物騒なものも常に体内にあるのです。

病気の検査や診断で放射線を受けることもあります。例えば胃部X線は3.3mSv、上腹部X線CTは12.9mSvです。


【健康影響の考え方】
放射線による健康影響には、確定的影響と確率的影響があります。

●確定的影響・・・一度に大量の放射線を浴びた場合の影響で、急性障害(皮ふの紅斑、脱毛など)や白内障がある。遺伝はしない。ある一定の値(しきい値閾値)以下では症状は現れない。
●確率的影響・・・少量の放射線を浴びた場合の影響で、がんと遺伝病がある。がんは遺伝せず、遺伝病は人間では観察されていない。しきい値を持つかどうかは明らかでない。線量が多ければ多いほど症状が出る可能性が高くなるが、必ず出るというわけではない。

確定的影響や確率的影響の出方は、被ばくをした際にできたDNAの損傷が修復できるかどうかによります。一度に大量の放射線を受けるとDNA損傷により細胞死が起こり、確定的影響が出ます。それに対して、少量の放射線を受けてできたDNAの損傷は、修復できることもありますし、完全に修復できないこともあります。修復が完全にできなかった場合、がんの発生確率が高まることになります。
100mSvの被ばくでがんの発生確率は0.5%増加します。100mSv以上では、線量が多ければ多いほどがんの発生確率が高くなる線量-効果関係が実証されています。100mSv未満では、放射線による影響が小さく、他の要因による影響と区別がつかないため、線量-効果関係は実証されていません。
ただし、放射線防護上は、被ばく線量は少ない方がいいという考え方をします。


【食品を介した健康影響について】
放射性ヨウ素はほとんどが甲状腺に溜まります。1988年にWHOが甲状腺等価線量として50mSvという制限値をとるとの見解を出しました。今回はこの制限値に基づいて放射性ヨウ素の暫定規制値が設定されました。
放射性セシウムは全身に広がります。自然環境下において年間10mSvの被ばくがある地域が存在することもあり、10〜20mSv程度であれば健康影響は考えられません。こうしたことなどから、さらに安全側に立って、5mSvという制限値に基づいて放射性セシウムの暫定規制値が設定されました。

放射性物質はウイルスなどとは異なり、放っておくと減っていきます。半分の量になるまでにかかる時間を物理学的半減期といいます。また、体内に入った放射性物質は、代謝や排せつにより体外に出ていきます。体内で半分の量になるまでにかかる時間を生物学的半減期といいます。
物理学的半減期と生物学的半減期の二つを足した概念を実効半減期といいます。放射性ヨウ素の実効半減期は約7日で、放射性セシウムは約70日です。

食品に含まれる放射性物質はBq(ベクレル)という単位で表されますが、人間への影響はmSv(ミリシーベルト)という単位に換算して表します。換算をする際には実効線量係数(mSv/Bq)を用います。実効線量係数は年齢層ごとに設定されています。例えば、ヨウ素131の実効線量係数は成人で4.3×10^-4(10のマイナス4乗)、幼児で2.1×10^-3、乳児で3.7×10^-3です。
事故後一年間、流通している食品を摂取し、一日10時間外にいた場合の総放射線量を推定すると、東京在住者では0.5174mSv/年、京都在住者では0.2504mSv/年でした。


【リスクをどう捉えるか】
機能障害を示さないとされている放射線量は100mSv/年です。
日本の自然放射線量は平均1.55mSv/年、ブラジルのガラパリは平均5.5mSv/年です。また、欧州のパイロットが受ける放射線量は平均2mSv/年です。
ICRP放射線防護の基準では、平常時は1mSv/年、事故後の復旧時は1〜20mSv/年、緊急時は20〜100mSv/年と設定されています。

野菜の放射性セシウムの暫定規制値は500Bq/kgです。暫定規制値の放射性セシウムを含むキャベツを毎日2kg(中くらいの大きさの玉を二個分)食べ続けると、制限値である5mSvに達することになります。

事故の深刻さを表す尺度(INES)では、残念ながら福島第一原発事故チェルノブイリ原発事故と同じレベル7(「深刻な事故」)となっています。ただし、この尺度においてはレベル7までしか設定されていません。もし、レベル8というものがあるのなら、チェルノブイリ原発事故はレベル8に分類されているでしょう。
チェルノブイリでは原発の周囲60kmを超えた範囲でも強い汚染が確認されていますが、福島では確認されていません。