厚生労働省、薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会 乳肉水産食品部会(12月20日・生食用牛レバーの取扱いについて)

12月20日厚生労働省の薬事・食品衛生審議会が開催され、生食用牛レバーの取扱いについて審議されました。

今回は、参考人である岩手大学教授の品川邦汎氏から、牛レバー内部における腸管出血性大腸菌の汚染実態調査に関する発表がありました。
また、食肉に関する業界団体からは二名の参考人が出席し、意見陳述をしました。


次のようなポイントがありました。
●今回行なった汚染実態調査の速報値によると、牛肝臓内部の173検体中3検体で腸管出血性大腸菌が検出された。その内2検体がO157だった。また、腸管出血性大腸菌の遺伝子は牛肝臓内部の157検体中10検体で検出された。
●肝臓内部でO157が検出された牛は、健康な牛だった。
●業界団体としては、一方的な規制強化でなく、どのようにして安全に食べられるのかを検討していって欲しい。
●次回1月の審議会で規制の方向性を示す予定。

配布資料はこちらで公開されています。


<傍聴した感想>
今回、牛レバー内を173検体調査したところ、O157が2検体で検出されました。O157腸管出血性大腸菌のひとつで、感染力が強く、それによる食中毒は重篤な場合では死に至ります。
これまでもO157は家畜の糞便中に含まれることがあり、処理加工中に肉やレバーの表面などを汚染することは知られていました。ですが、レバーの内部でO157が確認されたのは今回の調査が初めてだそうです。
O157は食品の中心温度が75度以上で1分以上の加熱で死滅するため、肉やレバーはよく焼くことで食中毒の心配は少なくなります。しかし、ユッケやレバ刺しは当然のことながら、食べる部分を直接加熱するということはしていません。これだけリスクの高いものを、「加熱」という効果的な食中毒対策なしで体に取り入れていた・・今回ニュースなどで見聞きして初めて知ったという人も多いかもしれません。
ユッケやレバ刺しなどに対して、規制を強化することで食中毒のリスクはある程度小さくなるのでしょうが、人間にも個体差はあります。体が弱っている人や、高齢者、子どもが食べるときはよく焼いてから!常識的なことかもしれませんが、生食文化のある日本人としては、習慣として身につけたいことです。


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●傍聴記録
厚生労働省事務局からの説明】

厚生労働省事務局から、資料1「生食用牛レバーの取扱いについて」の説明がありました。

<これまでの経緯>
・平成10年、生食用食肉の衛生基準を設定。
・平成11年、生食用レバーから腸管出血性大腸菌が検出されたことを受け、関係業者や消費者に周知徹底。
・平成17年、牛レバー内部のカンピロバクター汚染に関する知見が得られたことを受け、抵抗力が弱い人は生肉を食べないよう周知徹底。
・平成18年、飲食店で起きた腸管出血性大腸菌による食中毒を受け、牛レバーを生食用として提供することはなるべく控えるよう飲食店に周知徹底。
・本年7月、牛レバーを生食用として提供しないよう関係事業者に指導を徹底。

<生食用牛レバーによる食中毒>
・食中毒統計によると、平成11-22年の牛レバーによる食中毒は116件(内、腸管出血性大腸菌は20件)。なお、同時期で生食用牛肉による食中毒は5件(内、腸管出血性大腸菌は1件)。


【品川邦汎参考人からの発表】
品川邦汎参考人から、資料2「牛レバー内部における腸管出血性大腸菌等の汚染実態調査(概要)」の発表がありました。

<調査概要>
・本年8-11月、全国16か所の食肉衛生検査所で調査を行なった。
・糞便、肝臓、胆汁について、腸管出血性大腸菌の分離培養と遺伝子検査を行なった。肝臓表面については拭き取り、内部については左葉を中心に採取した。左葉を対象としたのは、カンピロバクターが比較的検出しやすい部分であるため。

<調査結果(速報値)>
腸管出血性大腸菌は分離培養によって、糞便では173検体中20検体(内O157は11検体)、胆汁では186検体中0検体、肝臓表面では193検体中13検体(内O157は5検体)、肝臓内部では173検体中3検体(内O157は2検体)が検出された。
・遺伝子検査によっては、糞便では155検体中64検体、胆汁では168検体中1検体、肝臓表面では178検体中35検体、肝臓内部では157検体中10検体が検出された。

<胆汁における腸管出血性大腸菌の増殖性>
・牛6頭分の胆汁(菌未発達)を用いて、腸管出血性大腸菌がどのように増殖するのか調べた。
・6頭分の胆汁を混合したプール胆汁に3種類の菌液(菌液A:O157VT1&2、菌液B:O157VT2、菌液C:O26VT1)を接種し、一晩培養した。また、胆汁ごとに菌液Aを接種し、一晩培養した。
・プール胆汁では、いずれの菌液の場合でも培養後の菌量は100万個以上であった。(スタート時菌量は、菌液A:1ml当たり190個、菌液B:230個、菌液C:150個)
・胆汁ごとで菌の増殖のしかたに差はなかった。

<文献調査>
・国内の食肉処理場での腸管出血性大腸菌の汚染実態については、次の5文献があった。
(1)胆汁548検体を用いて、菌株分離率は0%、遺伝子検出率は0.4%(2001年9月-2005年3月)
(2)胆汁119検体を用いて、菌株分離率は0%、遺伝子検出率は0.8%(2005年4月-2006年3月)
(3)肝臓中心部102検体を用いて、菌株分離率は3.9%、遺伝子検出率は4.9%(2005年5月-2006年1月)
(4)胆汁318検体を用いて、菌株分離率は0.3%(2004年6月-2007年1月)
(5)肝臓中心部165検体を用いて、菌株分離率は4.2%(2005年5月-2007年1月)
・国内の流通品の腸管出血性大腸菌の汚染実態については、次の9文献があった。
(1)肝臓(生食用)10検体を用いて、菌株分離率は10%(1994年6月7月9月)
(2)肝臓(生食用)24検体を用いて、菌株分離率は0%(1998年8-12月)
(3)肝臓(生食用)16検体を用いて、菌株分離率は0%(1998年度)
(4)肝臓(生食用)50検体を用いて、菌株分離率は0%(1999年9月-2000年1月)
(5)肝臓(生食用)10検体を用いて、菌株分離率は0%(1999年度)
(6)肝臓24検体を用いて、菌株分離率は8.3%(2000-2004年)
(7)肝臓15検体を用いて、菌株分離率は0%(2007年9-11月)
(8)肝臓15検体を用いて、菌株分離率は0%(2008年9月-2009年1月)
(9)肝臓36検体を用いて、菌株分離率は0%、遺伝子検出率は13.9%(2010年7-11月)
アメリカの食肉処理場2か所での調査(2005年5-7月)によると、直腸便(933検体)でO157が陽性だったのは7.1%、胆のう粘膜スワブ(933検体)では0.1%、胆のう粘膜組織(933検体)では0.4%だった。
・牛にO157を飲ませて感染させ、9日後・15日後・36日後の感染牛の糞便、第一胃、胆汁におけるO157の検査をした文献によると、9日後は8頭すべての部分において陽性だった。15日後は7頭の内、糞便は5頭、第一胃は4頭、胆汁は0頭で陽性だった。36日後は8頭の内、糞便は7頭、第一胃は2頭、胆汁は5頭で陽性だった。腸管内のO157が必ずしもすぐに胆汁中で増えるというわけではない。また、場合によっては腸管内(糞便)からは検出されなくても胆汁中から検出されるということもある。

<質疑応答(一部抜粋)>
・(野田衛委員)牛の個体のサンプリングはどのようにして行なったか?
→(品川参考人)検査に使ったのはほとんどが健康な牛だった。過去にO157を検出した農場のものを選んだが、分からないときは無作為に抽出した。
・(野田氏)胆汁よりも肝臓の検出率の方が高かったという結果だった。胆汁を検査することで肝臓全体の安全性を担保することはできないということか?
→(品川参考人)胆汁中からは検出しづらく、それは難しいと思う。
・(阿南久委員)肝臓表面から内部に菌が移行するということはあるか?
→(品川参考人腸管にいた菌が胆のうに行って胆汁中で増える場合もあるし、それが胆管を通って肝臓に行くこともある。
・(小西良子委員)O157は肝臓の三つの葉に均等にあるのか?
→(品川参考人カンピロバクターは少し差があるけど、O157は大体均等。
・(寺嶋淳委員)肝臓内部でO157が検出された牛はどういう状態だったか?
→(品川参考人一般に流通するような健康な牛だった。農場によって検出の頻度に差はある。
・(野田氏)調査結果で、分離培養で菌が検出されなくても遺伝子が検出される場合があったのはなぜか?
→(品川参考人)肝臓中では死んだ遺伝子も含まれているかもしれない。
→(甲斐明美委員)菌を分離することは難しい。100コロニーくらい調べなければ検出されない。必ずしも遺伝子が死んでいるということではなく、分離が難しかった、ということだと思う。


【業界団体からの意見陳述】
全国食肉事業協同組合連合会の小林喜一参考人と日本畜産副産物協会の野田富雄参考人から意見陳述がありました。

<小林喜一参考人の発表>
・この部会で検討する前に「レバー内にO157が存在するため厚生労働省が生食禁止の可能性」とのマスコミ報道があり、部会の検討の方向性を左右しかねない環境をつくることは遺憾に思う。
・食文化を否定する方向ではなく、いかにしたら生食が可能であるかの方向で検討して欲しい。
・牛レバーにO157が検出された場合、レバーの組織の中にまで浸潤しているのかどうかを確認したい。
・組織の中にまでO157が浸潤しているなら、レバーの外部から病変や機能低下が分かるかどうかを確認したい。
・レバーの処理加工工程は衛生的に行なっている。案内をするので委員にも現場を見てもらいたい。

<野田富雄参考人の発表>
・ユッケの食中毒事件以来、東京と大阪の市場においていずれもレバーの販売数量、価格ともに半減し、売れ残ったものは廃棄処分をしている。
・なぜ今規制強化を行う必要があるのか。根強い消費者の要望も多くあり、問答無用の一方的な規制強化には反対する。
・業界では、工場の認定基準制定や、ガイドライン制定、衛生的な内蔵処理機械の開発など、長年に渡って改善努力をしてきた。
・来年には、大学に委託して、効果的な処理手法の検討などをすることを考えている。

<質疑応答(一部抜粋)>
・(阿南氏)マスコミがどう報道しようと、この部会は事実に基づいて審議しているので、そのような言い方をされるのは心外だ。ユッケの集団食中毒事件の際に事業者を調査したら、基準に従っていたのは半分だけだった。業界ではこれまでどのように取り組んできたか?
→(小林参考人)事実としてマスコミ報道が先にあったことをおかしいと述べた。生の肉にはリスクがあるので、小売で生食は奨励できないとしている。協会ではお肉屋さんに対する講習会はやっているが、その先は難しいのでぜひ厚生労働省でやってもらいたい。
・(小西良子委員)レバーを全てPCRなどで検査をして、それにパスしたもののみ流通させるということは可能か?
→(小林参考人)それが容易ならばそうしたいが、難しいのでは。組織の中にまで入り込んでいる場合は洗浄などで除去することはできないので、フグ調理師のような制度が必要だと思う。
→(山本茂樹部会長)生食用牛肉の場合は、検査は25gの25検体が必要だった。レバー全てを検査してそれにパスしたもののみ流通、というのは難しいと思う。
→(野田参考人もうひとつの方法として、SPF豚のように川上で管理するということがある。農場によってO157の検出され具合に差があるということだったので、時間はかかるが、その方が良いと思う。
→(品川参考人)今回はと畜場に入ってきた牛を使って検査した。どのような生産がされ、どのようなと畜がされたのかは分からない。食べるものにこういうリスクがある、というデータを示しただけだ。食の安全は生産から消費者までの一貫した管理が必要だと思う。
・(山本部会長)次回の審議会で規制の方向性を示す。