原産地を判別する技術

多くの消費者にとって、その食品がどこで生産されたものなのかは、大きな関心ごとのひとつです。
先日、トレーサビリティについて書きましたが、このようにして食品の産地の表示の義務が拡大されるとさらに、「その製品の表示と中身が一致しているのか?」ということのチェックの重要性が増してきます。

現在は、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)において、消費者からの疑義情報などにより、食品表示の検査が行われています。この検査の結果、産地や品種などの偽装表示の疑いが生じた場合は、製造業者に対する立ち入り検査などを行っているそうです。

こうした検査のうち、今回は産地を判別する技術について一部をご紹介したいと思います。産地判別の技術のポイントは、同じ品種であっても、産地(育った環境)によって変わる要素は何か?ということです。


☆食品中の無機元素を調べる
土壌に含まれる無機元素(Na、Fe、P、Mgなど)は、その土地の環境によって異なります。
植物は土壌中の養分を吸って生長し、土壌中の無機元素も同時に取り込みます。つまり、植物に含まれる無機元素は生育地の土壌の性質を反映しており、同じ品種でも、植物個体に含まれる無機元素の組成は生育地によって異なると考えられます。
このことにより、野菜の無機元素を測定することで、その野菜がどの土壌で育ったか、つまり、産地の判別に応用することができます。
また、ウナギやアサリなどは、生育地の水質などの環境によって含まれる無機成分が異なるため、野菜と同じように、無機元素の分析による産地判別が可能となります。
この方法では、食品から抽出した10〜20種類の無機元素の濃度を測定し、その値を統計的に解析することで、産地判別図を作成します(図)。この図では、解析値が産地ごとにグループ分けされ、産地判別に利用することができるのです。



図.無機元素の分析による黒大豆の産地判別(FAMICの資料より)


例えば、黒大豆(丹波黒)は、日本と同じ品種が中国でも栽培され、流通中に国産のものの中に中国産のものが混入しやすいことがあり、正確な産地判別が望まれる食品のひとつです。こうした黒大豆では、無機元素の分析により一粒でも産地判別ができ、的中率が90%以上とされるマニュアルが開発されています。

FAMICでは、米をはじめとして、梅干しや塩蔵わかめなどでも産地判別技術が開発されており、大豆の他に、ネギやショウガ、ニンニクなどのマニュアルが一般に公開されています。


☆食品中の安定同位体比を調べる
自然界には、通常の元素の他に、質量が異なる「安定同位体」というものが存在します。
生き物に含まれる主な元素である水素や炭素、窒素、酸素にも、それぞれ安定同位体があります。植物や動物の体内で、この安定同位体の比は生育地によって異なると考えられています。たとえ同じ品種であっても、です。
その理由として、炭素や窒素は、餌や土壌肥料の成分が反映され、水素や酸素は生育地の水環境を反映するということが挙げられます。

このことにより、食品中の安定同位体比を測定することで、生育環境による違いが数値として表され、産地判別に用いることができるのです。米や牛肉などでは、複数の元素の安定同位体比を総合的に評価する判別技術の開発が行われており、今後の実用化に向けて大きな期待が寄せられています。