品種を判別する技術

昨日は、品種が同じであっても原産地が異なる食品の、原産地を判別する技術について書きました。
この技術では、育った環境によって変わる要素は何か、ということがポイントとなりましたね。

では、品種を判別したい場合はどうすればよいのでしょうか?
例えば、マグロの刺身があったとして、それがマグロの中で最高級のクロマグロ(通称:本マグロ)であるかどうかを目で見て判別することは普通は難しいと思います。



写真. この刺身、マグロはマグロだけど、品種は?


この場合は、DNAを分析することで品種を判別することができます。


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DNA分析の大まかな方法は次の通りです。

まず、ある種に固有のDNA配列を探し、その部分をPCR法(*1)で増幅させます。そして、増幅されたDNAを、特定の塩基配列で切断する制限酵素で処理します。最後に、その制限酵素で切断されたかどうかを、電気泳動法(*2)によって確認します。
*1:特定のDNA配列の部分を短時間で大量に増やす技術(1時間くらいで1千万倍にまで増やすことができる)。
この技術では、細胞が分裂時にDNAを複製するという生体内の反応と同じことを人工的に起こします。細胞が分裂するとき、二本の鎖でらせん構造をとっているDNAはほどけ、それぞれの鎖を鋳型にして、それぞれと対になる鎖が作られます。PCR法では、これと同じ反応を試験管の中で繰り返し行います。PCRによって大量に増幅するので、ごく微量のサンプル(例えば肉のかけら)でも分析することができます。
*2:DNAの断片を、分子量の大きさ(つまり、配列の長さ)や電気的な性質の違いなどにより分離する技術。


先ほどの例で言うと、クロマグロかそうでないかを調べたい場合、まず、クロマグロに固有のDNA配列が明らかになっているということが第一段階となります。
次に、手元にあるクロマグロかそうでないかを調べたいマグロのDNAを抽出し、上で説明したDNA分析の処理を行います。このとき、クロマグロのDNAも同時に分析します。
最後の電気泳動によって、制限酵素で切断されたパターンがクロマグロと同じであることが確認できたら、そのマグロはクロマグロであったということになります。確認できなかった場合は、それはクロマグロに固有のDNA配列を持っていなかったということ、つまり、クロマグロではなかったということになります。


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なんだか難しい感じがしますね・・
簡単にいうと、クロマグロや黒豚、あきたこまちなど、食品偽装されやすい食品に固有のDNA配列をそれぞれ明らかにしておいて、検査したい食品のDNA配列が、あらかじめ明らかにしたそのDNA配列と一致するかどうかを調べるということです。

このように、DNA分析は、それぞれの品種に固有のDNA配列を明らかにすることが第一段階としてありますし、実際に分析を行う上でも、実験のプロトコールや使用する試薬が異なります。例えば、マグロのマニュアルをそのままウナギに適用することはできないのです。

そのため、品種判別の優先度の高い食品から技術開発が進められ、マニュアルが順次整理されています。

DNA分析による品種判別は、黒豚や米、イチゴ、インゲン、ウナギで実用化されています。その他についても、マグロやスズキなどのマニュアルが完成しており、独立行政法人農林水産消費安全技術センターのHPで公開されています。

ところで、DNAは加熱されると分解してしまうのですが、加熱されたものや酢漬けの加工食品などについても、長さの短いDNA配列を用いて解析することで、DNA分析を行うことができるそうです。