消費者庁、トランス脂肪酸の表示を検討

福島消費者担当相は24日、トランス脂肪酸の含有量表示を義務にするための検討を消費者庁に指示したと発表しました。

健康食品の一件で消費者庁は動きが早いと言われていますが、今回はどうなるのでしょうか。私たち消費者は、まず「トランス脂肪酸とは?」という基礎的な事柄を知ることから始めてみませんか。

今回は主に次の情報源を参考にまとめました。
農林水産省「トランス脂肪酸に関する情報」
食品安全委員会「ファクトシート(科学的知見に基づく概要書)、トランス脂肪酸」
独立行政法人食品総合研究所「トランス脂肪酸ワーキンググループ」


トランス脂肪酸とは?】

トランス脂肪酸とは、トランス型二重結合という構造を持つ複数の不飽和脂肪酸の総称です。


トランス脂肪酸には、ふたつの由来があります。液体の油脂から半固体や固体の油脂に加工する際に生じるものと、反すう動物(牛や羊など)の体内で生じる天然のものです。例えば、前者はマーガリンやファットスプレッドショートニング、後者は乳製品や牛肉に含まれます。由来の違いによって健康への影響の大きさに違いがあるかどうかは、これまでの研究では明らかになっていません。


日本における1999年の調査研究によると、トランス脂肪酸の一日当たり平均摂取量の58.4%が硬化油(*1)、17.3%が乳および乳製品、16.0%が精製植物油、8.3%が牛肉に由来していました。
(*1:液体の油脂は水素添加をすることで固形化しますが、この水素添加を行った油のことを硬化油とよびます。)

油脂はケーキやクッキーなどのお菓子の原材料や揚げ油としても使われています。製造過程の違いによってトランス脂肪酸の含有量は大きく異なります。マーガリンとファットスプレッドを34種類調べたところ、トランス脂肪酸の含有量の平均値は7.00g/100gでしたが、最低値は0.36g/100gで最大値は13.5g/100gと、大きな幅がありました。



【摂取するとどうなる?】

トランス脂肪酸は、血中の悪玉コレステロール濃度を増加させ、善玉コレステロールを減少させる作用が示唆されています。また、過剰摂取を続けると動脈硬化による冠動脈性心疾患のリスクを高めることも示されています。


【国際機関では?】

2003年の「食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会合」の報告書において、心血管系を健康に保つため食事からの摂取を極めて低く抑えるべきであり、摂取量は最大でも一日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満とするようにとの記載があります。


また、コーデックス委員会食品表示部会では、任意または義務的に表示される栄養成分リストに関する栄養表示ガイドラインの改定作業が行われており、トランス脂肪酸についてもリストに加えるかどうか検討しています。


【海外では?】

デンマーク:2004年、油脂中のトランス脂肪酸の含有量を2%までとする規定が設けられました。ただし、動物由来の天然のトランス脂肪酸は対象外です。


アメリカ:2006年、加工食品の栄養成分表示において飽和脂肪酸コレステロールに加えてトランス脂肪酸の表示を義務化しました。また、ニューヨーク市では、市民が摂取する栄養の約1/3は外食からであることから、2008年より、飲食サービス業者は1人前当たり0.5 g以上のトランス脂肪酸を含む硬化油やショートニング、マーガリンを含む食品を保管、使用、提供してはならないという規制が行われています。



写真.アメリカ製のポテトチップスの栄養成分表示
上から、カロリー、脂質(飽和脂肪酸トランス脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸)、コレステロール、ナトリウム、カリウム、炭水化物(食物繊維、糖質)、たんぱく質の順に、含有量とその栄養素の一日の摂取量に占める割合(%)が記載。アメリカではトランス脂肪酸は一食分(serving size)当たり0.5g未満であれば0gと表示してよい。ちなみにこのポテトチップスでは、一食分が13枚分となっている。


●カナダ:2005年、原則として栄養成分表示においてトランス脂肪酸の表示を義務化しました。


●オーストラリア・ニュージーランド:両国においてトランス脂肪酸の摂取量が比較的少ないことにより規制は行っていません。ただし、非規制的な取り組みは行われており、2009年に行われる評価の結果、十分な進展がなければ規制を設けるとしています。


【日本では?】

現時点では、日本において食品中のトランス脂肪酸の表示義務や含有量の基準値はありません。


2009年6月19日に行われた第40回コーデックス連絡協議会の概要によると、コーデックス委員会の第37回食品表示部会において日本は次のようなスタンスを示しました(*2)。
(*2:コーデックス委員会とは国際食品規格の作成等を行っている国際政府間機関で、コーデックス連絡協議会とは農水省厚労省により設けられた場で、コーデックス委員会での日本の活動状況を一般に対して情報提供し意見を聴取しています。)


『任意又は義務的に常に表示される栄養成分リストに、トランス脂肪酸を追加することについての日本のスタンスを問われ、食品安全委員会のファクトシートにもあるように、日本人一人当たりのトランス脂肪酸摂取量は必ずしも多くはなく、欧米の食生活を基本に、現時点でリストに加えるのは時期尚早と考えている旨回答した。』



【日本人のトランス脂肪酸の摂取量は?】

農水省の平成17〜19年度の調査によると、トランス脂肪酸摂取量は、1日1人当たり平均0.92〜0.96 gと推定されました。これをエネルギー量に換算すると、日本人の平均総エネルギー摂取量 1900kcal/日の0.44〜0.47%になります。この以前にもいくつかの調査研究は行われていますが、もっとも大きく推定された結果で、一日一人当たりの平均摂取量は1.56g、総エネルギー摂取量の0.7%でした。


一方で、諸外国でのトランス脂肪酸の平均摂取量および総エネルギー摂取量にしめる割合はそれぞれ、アメリカでは成人平均5.8 g/日および2.6%、EUでは成人男性平均1.2〜6.7 g/日および0.5〜2.1%、成人女性平均1.7〜4.1 g/日および0.8〜1.9%、オーストラリアでは2歳以上平均1.4gおよび0.6%、ニュージーランドでは15歳以上平均1.7gおよび0.7%と報告されています。

日本人の平均摂取量は、国際機関が定めた摂取量の目標値(総エネルギー摂取量の1%未満)を満たしており、現状ではトランス脂肪酸による日本人の健康リスクは低いといえますが、この摂取量はあくまで日本人の平均値であり、偏った食生活をしている場合は平均値を大きく上回る可能性はあります。


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消費者庁は、平均的な日本人の健康リスクが少ないトランス脂肪酸の表示を検討していますが、現在日本で加工食品に表示が義務化されている栄養成分はありません。

日本人の伝統的な食生活から、諸外国と比較して摂取量が多く、過剰摂取による健康への悪影響がよく知られている塩分でさえ、加工食品の含有量の表示義務はありません。
(塩分摂取についてはこちらをご覧ください)