天然であればよい食品?(後編)

【毒性がある=危険、ではない】

前編では、天然の植物が持つ自然毒による健康被害のリスクについて書きましたが、当然のことながら自然毒だけでなく人が作った農薬にも毒性はあります。

自然毒と農薬、リスクがより高いのはどちらだと思いますか?

化学合成されたものの方が危険だ、そう思う人もいるかもしれません。
ですが、この質問に答えるためには、リスクの考え方を理解していなければなりません。

すべてのものは潜在的に何らかの毒性(ハザード)を持っていますが、これらはその毒性の強弱と摂取する量によってリスクの大きさが決まります。

リスク=毒性×摂取する量

例えば、アルコールの毒性そのものはどのような人にとっても同じですが、普段どれくらいのお酒を飲んでいるかや体質で、そのリスクの大きさは人によって変わるといったことです。

毒性の強弱は、統計学的に動物の半数が死亡すると推定される投与量(mg)をその動物の体重(kg)で割った値、「急性毒性半数致死量(mg/kg)」であらわされ、LD50と呼ばれます。この値が小さいほど毒性は強いということになります。
各物質に含まれるLD50値は、食中毒を引き起こすボツリヌス毒素は0.00000032、フグ毒であるテトロドトキシンは0.0085、ニコチンは24、カプサイシンは60〜75、ジャガイモの芽に含まれるソラニンは450、食塩は3,000〜3,500です。農薬はLD50値が300以上である普通物(*)が多く、その毒性は食品に含まれている毒性物質と比べて概して小さいことが分かります(下表)。
(*:LD50値が30以下は毒物、30〜300は劇物、300以上は普通物)


表.各毒性物質のLD50(農薬工業会HPよりデータを引用し作成)

     

さらに、前編でご紹介した水産用医薬品と同様に、全ての農薬には使用量や使用方法などの基準が定められており、この基準が守られている限りは健康被害の心配はありません。こうしたリスクの管理ができるということは、人の手が介在することならではの利点です。

しかしながら、自分で採ったきのこや山菜を食べる、海のそばで釣りたての魚を食べるという楽しさは、何事にも代えられないよさがあることは確かです。

加えて、例えばワラビではあく抜きに炭や重曹を使ってプタキロサイド(発がん物質)を加水分解する、ジャガイモでは芽や緑色の皮の部分を取り除きソラニン(食中毒の原因となる)を避けるという調理法を身に付けることで、自然毒のリスクを回避し、楽しんで食べることができるのです。

また、今回挙げた野菜や果物、魚の他にも、スーパーには「天然」と名のつく食品が多種あります(天然塩、天然だし、天然酵母パン、天然水など)。こういったものについては、その「天然」が何(製造方法や原材料など)によるものなのかを考えてみることで、「天然」というイメージだけにとらわれない賢い買い物ができるでしょう。