(独)国立健康・栄養研究所「栄養・食生活と『健康食品』」(1)

1月31日、独立行政法人国立健康・栄養研究所による一般公開セミナーが開催されました。

今回のテーマは「栄養・食生活と『健康食品』」ということで、基調講演は、同研究所の元理事長であり、現在は甲子園大学長、そして消費者庁の「健康食品の表示に関する検討会」の座長を務めておられる田中平三氏により行われました。


健康食品という言葉は、実は正式に定められたものではありません。

国が制度として機能の表示を認めているものは、「保健機能食品」と呼ばれます。これには、特定保健用食品(トクホ)と栄養機能食品があります。
実際には、保健機能食品ではないものがとても多いのですが、これらは「いわゆる健康食品」と呼ばれ、明確な定義はありません。

現在は、インターネットなど入手経路が多様化したこともあり、本当に様々な健康食品を手に入れることができます。
ですが、健康食品は玉石混淆だと言われます。間違った使い方をすると健康に良いどころか、悪い影響が出てしまうこともあるのです。

セミナーでは健康食品の正しい使い方についても触れられていましたので、後日ご紹介します。今回は傍聴記録の前半として、田中氏の基調講演をまとめたものを書きたいと思います。


☆現代の食生活と「健康食品」(甲子園大学長、田中平三氏)

【日本の健康食品の傾向】
日本の死亡原因の上位三位は、癌、心疾患、脳卒中です。
国民全員が禁煙をすると30%ほど癌が減ると言われていますが、実はそれ以上に食生活が大切だということが分かっています。

現代では肥満の人が増えている一方で、特に若い女性では痩せの人も増えています。このような傾向はおそらく世界中で日本だけかもしれません。

個人のQOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)の多様化とともに、それに寄与するための食品のひとつとして健康食品が登場しました。
健康食品は「健康で長寿を全うしたい」という思いの高まりや研究の進歩によって生み出されたのです。

日本の健康食品の特徴は、95%以上が食品の形態をしているということです。アメリカなどでは健康食品のほとんどがサプリメントの形態です。


【体験談、専門家のコメント、学会発表、論文、どれが信じられる?】
健康食品の有効性をどのように判断すればいいかというと、テレビや雑誌でよく見る体験談はほとんど信じてはいけません。
また、専門家のコメントというものが出ている場合もありますが、専門家は自分の研究をアピールすることが目的なので、これもあまり信じられません。
他に、「学会で発表された」といった類があります。一般的に学会は第三者からの審査がなく、一方通行の情報発信なので、科学的根拠にはならないでしょう。

残るは「論文として発表された」というものですが、これは論文が掲載された雑誌のレベル(インパクトファクター)に左右されます。学術雑誌でも、投稿された論文がほぼ全て掲載されるものもあれば、厳しい査読を経て掲載されるものもあるのです。また、無作為化比較試験(RCT)(*)をしているかどうかもポイントになります。RCTは億単位の費用がかかるものですが、トクホはこうした試験を少なくともひとつは行っていることとされています。このような論文の蓄積のみが科学的根拠につながるのです。

*:試験においてデータの偏りを少なくするために被験者をランダムに抽出し、投与するグループと対照のグループに分けて評価する試験。医薬品などの試験で一般的に行われる。例えば、血圧の高い人を、健康食品を与えるグループと健康食品に見せかけた食品(プラセボ)を与えるグループに分け、一定期間後に血圧を計測し、二つのグループの血圧の低下を比較するといったこと。


【トクホについて】
トクホの有効性は多分、「有効性が示唆される」か「おそらく有効である」のあたりだと思います。

健康食品には様々なものがあるので、国は企業の側にも消費者の側にも偏らない、科学的な情報を出す必要がありました。

国としてはトクホの摂取を積極的に勧めているわけではありません。しかし、様々な健康食品がある中で、トクホは現在の科学で一定のレベルで安全で有効だということが分かっているので、トクホ制度自体は必要であると思います。

トクホの販売後にRCTで再評価するのは莫大な費用がかかるので難しいと思います。必須栄養素であっても摂取し過ぎると健康に影響があることもあり、リスクがゼロであるということはないというのを知っていてほしいです。

また、健康になるためには食生活だけではなく、栄養や労働、運動、節酒、禁煙などの要素が大切です。

<続く>