健康食品フォーラム「食の安全性と消費者庁発足」(2)

2月5日、(財)医療経済研究・社会保険福祉協会による第19回健康食品フォーラムが開催されました。

セミナーでは消費者・産・官・学の立場におられる四名から、健康食品の現状や課題に関する講演がありました。

【講演者】
消費者:全国消費者団体連絡会事務局長、阿南久氏
産:(財)日本健康・栄養食品協会理事長、林裕造氏
官:消費者庁食品表示課長、相本浩志氏
学:人間総合科学大学大学院教授、小林修平氏

今回は傍聴記録の後編として、小林氏と相本氏の講演、パネルディスカッションの一部をご紹介します。
前編はこちら


☆健康食品における今後の課題と展望(小林氏)
健康食品は元々、食品の第三の機能の研究というアカデミックなものから始まりました。

【健康食品の問題点】
その後、トクホ制度ができましたが、現時点では科学的データの不足や申請にかかる費用や時間などのコスト、明確な有効性表示ができないなどの課題があります。
また、縦割り行政といいますか、各行政機関はそれぞれの発想が違い、健康づくり行政での積極的な活用がみられないということもあります。

問題点としてはまず、食薬区分があいまいであるということがあります。安全性が高く有効性が低いものを食品、安全性が低く有効性が高いものを医薬品であるとすると、そのどちらも高いものは何になるのか?といったことです。

アメリカのFDAでは、科学的根拠が十分ではない場合において、消費者が製品を選ぶ際の参考になるように、次のような四段階のランクをつけるという案があり、これこそが科学的なアプローチであると思います。

Aランク:その表示について明確な科学的根拠がある
Bランク:良好な根拠はあるが完全には確定されない
Cランク:根拠はあるが限られたもので確定されていない
Dランク:その表示を支持する科学的根拠はほとんどない

こうしたランク付けでは、審査に通ったときはCでも販売中も努力を続けてBやAにランクを上げようとする姿勢が重要です。

また、リスクの大きさには幅があるということを消費者に理解してもらわなければいけないと思います。例えば、苦いものに砂糖を加えると、苦さはなくなるけど、加えすぎると砂糖の摂り過ぎになります。あるリスクは小さくなっても、それを減らすことでまた別のリスクが大きくなるということがあるのです。

【将来への展望】
こうしたことから、食薬区分の曖昧さへの対応や科学的データの蓄積と共有化とともに、食にかかわるレギュラトリーサイエンスの振興や、家政学から発展して「消費者科学」を展開していくことが、将来への展望としあります。


☆健康食品の表示をめぐる現状と課題(相本氏)
今回の相本氏の講演内容は消費者庁が作成した資料「健康食品の表示をめぐる現状」と関連していますので、そちらも合わせてご覧ください。

【日本の健康食品制度】
健康食品には、栄養機能食品と特定保健用食品(トクホ)、その他のものがあります。栄養機能食品は特定のビタミンやミネラルを強化したもので、栄養成分の機能の表示ができます(例:カルシウムは骨や歯の形成に必要な栄養素です)。特定保健用食品は保健の機能の表示ができます(例:おなかの調子を整えます)。その他のものはこうした表示はできません。
また、病者用や乳児用という特定のグループを対象にした特別用途食品というものがありますが、これは健康食品の枠からは外しています。

【健康食品の現状】
各調査により健康食品の現状は次の傾向があることが分かりました。

販売方法:通信販売が多い
利用状況:一般の人々の約半数がトクホ、約1/4が栄養機能食品を利用
情報源:テレビ・ラジオや新聞・雑誌・本といったマスメディア
目的:健康維持、体によさそうだからなんとなく

しかし、栄養成分の摂取状況としては、大部分が健康食品からではなく通常の食品から摂取されていることが分かっています。

【健康食品の表示の取り締まり】
平成15年の健康増進法の改正により、健康の保持増進の効果などについて虚偽・誇大な広告の表示をすることを禁止しています。例えば、ダイエットサプリメントで「飲むだけで誰でも必ず激やせします」といった広告がある場合、「誰でも必ず」という文言は食品の有効性について著しく誤認されるものであり、適当ではないとされます。
現在は、消費者庁と地方厚生局、都道府県が健康食品の表示の監視指導を行っています。

【国際的な健康食品制度】
健康強調表示の国際ルールについては、コーデックス(*)食品表示部会において議論され、2004年に「栄養及び健康強調表示の使用に関するガイドライン」が採択されました(ガイドラインには拘束力はありません)。

現在は、コーデックス栄養・特殊用途食品部会において、このガイドラインを補完する「健康強調表示の科学的実証に関する勧告案」が議論されています。例えば、健康強調表示をする際にはどの程度の科学的証拠に基づくべきか、新たな科学的証拠が生じた時の再評価についてなどが議題にあります。

*:FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)によって設立された国際機関で、消費者の健康保護と公正な食品貿易の確保を目的としている。2009年2月現在で181の国とECが参加している。基本的にはコーデックスで採択されたことにならって、国内の行政機関はルールを作ることとされている。

【諸外国の健康食品制度】
アメリカでは、1990年に制定された栄養表示教育法において12種類の健康強調表示が定められています。また、1994年に制定された栄養補助食品健康・教育法では、栄養補助食品の表示に関する事項が定められています。

EUでは、2007年から栄養及び健康強調表示の規則が始まりました。この規則において、健康強調表示をするには科学的根拠が必要であるとされ、現在欧州食品安全機関(EFSA)で評価が行われています。

こうした諸外国の制度を日本の制度に入れ込むかは、現在「健康食品の表示に関する検討会」で議論しています。ただし、注意しなくてはならないのは、国際ルールとの調和です(WTO世界保健機関)のTBT協定)。

この検討会では分かりやすい表示の仕方についても意見を聞きながら議論をしていきます。必要な情報と分かりやすさという二つの折り合いをつけていきたいと思います。メーカーの方も「行政で決められたことだから」というのではなく、それぞれ工夫していってほしいと思います。


☆パネルディスカッション(コーディネーター:東京海洋大学大学院、矢澤一良氏)
講演者全員が参加したパネルディスカッションの一部をご紹介します。

・消費者にとっては表示のどのあたりが分かりにくいのでしょうか?
(阿南氏):トクホというもの自体が分かりにくいのだと思います。分かっていれば、その他のいかがわしい健康食品を選んで健康被害が出たりすることはありません。手に入る製品の全てが安全ならばそういうことにはならないので、そういう市場を作ってほしいと思います。
(林氏):まさにその通りですが、それは難しいのです。
表示は小さいスペースなので、盛り込める情報はわずかです。例えばトクホの製品に盛り込む情報の基準を作る、それで足りないものは別紙に記載するなどという工夫が必要です。また、トクホなどのマークは、「その製品は妥当である」という印なのでそれを活かすことも大切です。


・食薬区分についてはどのようにお考えですか?
(小林氏):学術の立場からいうと、本当は分けたくないです。だけど、行政の法の問題で分けなくてはいけません。食品と医薬品の中間の区分のものがほしいです。
(林氏):私も中間の区分のものを作るのがひとつの解決策だと思います。海外ではそういったものがありますが、法的にはやはり食品に区分されています。
(相本氏):色々な課題がある中のひとつとして整理していきたいです。