安全な食品or安心な食品

みなさんは安全な食品と安心な食品、どちらを選びますか?

安全・安心というように、安全と安心はひとくくりにして使われることが多くあります。しかし本当は、この二つには意味の違いがあります。
普段のスーパーでの買い物や食事ではあまり気にすることがない「安全」と「安心」の違いですが、この違いを知っておくと、表示偽装や残留農薬の基準値超えなど、食の安全性に関するニュースや報道の見方が変わるかもしれません。

簡単にいうと、安全は科学的な根拠に基づくもの、安心は心理的な要因がからむものです。


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以前参加したセミナーで、食の信頼向上をめざす会会長の唐木英明氏は、食の安全と安心について、次のような説明をされていました。

『「安心」は「安全」に信頼が足されてできるものです。

安心=安全+信頼

安全は科学的根拠に基づいた規制を守ることで保たれます。ここでの問題点は、規制には広い安全域をとっているので、ある程度規制値を超えても健康に影響が出ないということを知られていないことです。
また、信頼はリスクコミュニケーションや宣伝広告、報道によって得られるものですが、悪い評判は良い評判よりもはるかに消費者への影響力が大きいという問題点があります。』


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例えば、昨年に大きく報道されたエコナ問題について(*1)。
*1:「体に脂肪が付きにくい」食用油としてトクホをとった花王株式会社のエコナに、精製過程で生じる発がん性物質になる可能性のあるグリシドール脂肪酸エステルが普通の油の約10倍含んでいることが分かり、今年の10月に花王自らがトクホの失効届けを出した。

これは、本当は安全だけれど安心できなくなってしまったという分かりやすい例になるかもしれません。
この問題に関連したセミナー(*2)で、科学ライターの松永和紀氏は次のように話されました。
*2:傍聴記録はこちら

花王はプレスリリース第1報で、エコナの安全性はくつがえされることはないが、消費者の安心のために販売を自粛するという文章を出しました。初めてこの文章を読んだ時は違和感がなかったけれど、一般の人と話したときに、安全と安心の違いを分かっていることを前提として話すことは、かえって混乱をまねくことに気づきました。』


特定保健用食品(トクホ)として認められるためには、有効性のほか、安全性についての試験も必要で、そうした試験のデータが科学的に評価されています。このとき問題になっていたエコナもそうした評価を経てトクホが認可されました。つまり、エコナは普通に摂取する限りは科学的に「安全」だとされていたということです(*3)。
*3:詳しくはこちら

しかし、当時は「発がん性物質が普通の油の約10倍含んでいる」などとメディアで大きく報道されました(詳細は上のリンクでご覧ください)。
もちろんそうした報道があった間も、花王食品安全委員会のHPなどでは、エコナの安全性に関する科学的な情報を出していました(もしかしたら、メディアの中にもそうした報道したところもあったのかもしれませんが)。
ですが、そうした情報は消費者の目に届きにくく、多くの消費者はエコナに「安心」できない状態になってしまったのではないでしょうか。


では、消費者はどうしたら安心することができたのか・・?
先に書いた唐木氏の発言から考えると、エコナの「安全」の部分は満たされていたとすると、「信頼」の部分を培うことが大切だったということになります。そして、繰り返しになりますが、信頼は宣伝広告や報道が大きな役割を果たしているのです。
ということは、やはり企業や報道が頑張らなければいけない・・ということになってしまいますね。


ですが、消費者にもできることはあります。

このような食品の問題に関するニュースや報道を見て不安に感じることがあったら、それが科学的根拠に基づく「安全」に関する問題なのか、そうではなく、信頼に基づく「安心」に関するものなのか、少しだけ意識してみてください。