第二回消費者委員会食品表示部会‐遺伝子組換えパパイヤの表示について‐

5月24日、消費者委員会食品表示部会の第二回目会合が行われました。
議題は複数ありましたが、ここでは当日の議論の中心になった遺伝子組換えパパイヤおよびその加工品の表示について、その中身をご紹介します。


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●遺伝子組換えパパイヤのこれまで

パパイヤに感染するウィルス(パパイヤリングスポットウィルス)に抵抗性を持った遺伝子組換えパパイヤは現在、アメリカで栽培されています。ハワイで栽培されるパパイヤの多くが遺伝子組換え体で、加工食品に用いるほか、生鮮食品としても食べられています。


そして、日本においては2009年7月、食品安全委員会(*)により、「食べてもヒトの健康を損なうおそれがない」という、食品としての安全性が認められました(環境への安全性については、食品安全委員会の審議の前に環境省により確認済み)。
食品安全委員会:食品について科学的に調査し、食べても安全かを評価する機関。遺伝子組換えのほかに、農薬や添加物、微生物・ウィルスなどの専門調査会があり、それぞれその分野の専門家で構成されている。


その後、議題は消費者庁に移され、遺伝子組換えパパイヤの表示をどのように行うかの審議が行われています。
消費者庁は2009年の9月に発足して以降、食品表示に関する業務を一括して行っています。食品表示に関する実際の審議は、消費者庁の下にある消費者委員会の食品表示部会で行われています。
遺伝子組換えパパイヤは、消費者庁が発足して初めての遺伝子組換え作物の案件であり、また、加工食品としてではなく生鮮食品として輸入される初めての遺伝子組換え作物なので、どのような議論が行われるのかが注目されています。


以前の記事にも書きましたが、遺伝子組換えに関する表示は、「遺伝子組換え」「遺伝子組換え不分別」「遺伝子組換え不使用(任意)」の三種類あります。遺伝子組換え不分別とは、遺伝子組換え作物とそうでない作物が混在しているということです。その他の二つの表示をする場合は、流通の間、「分別して管理した」という証明が必要です。こうした管理の方法はIPハンドリングと呼ばれ、当然その分だけコストはかかっています。

遺伝子組換えパパイヤおよびその加工品について、現在輸入されている他の遺伝子組換え作物と同様の表示ルールを適用するかどうか、この食品表示部会で話し合われます。



●前回(第一回目)の食品表示部会では

食品表示部会の第一回目は3月23日に行われました(配布資料や議事録はこちら)。

この日は、遺伝子組換えパパイヤの表示ルールについてだけではなく、そもそも遺伝子組換え作物の安全性はどうなのか?という声も一部の委員から出ました。
また、日本のパパイヤ輸入量やIPハンドリングのコスト、パパイヤ加工食品についてはDNAが検出できるのかといった実態を知ってから議論をしたいという意見が多く、それに関連するデータを揃えるということで、議論は次回の部会に持ち越すことになりました。


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●第二回目の食品表示部会の概要
配布資料や議事録はこちらで公開しています。


まず、田島部会長(実践女子大学生活科学部教授)より、「前回は安全性に関する質問があったが、それは既に食品安全委員会で審議が済んだことで、食品表示部会の委員にそれを議論できる専門性もないので、ここでは食品表示についてのみ議論する」旨の確認がありました。

次に、山浦委員(日本消費者連盟事務局長)より、遺伝子組換え作物の安全性を懸念する内容の文献を二つ紹介した意見書が提出されました。
この意見書について、食品安全委員会の遺伝子組換え食品等専門調査会の委員でもある手島委員(国立医薬品食品衛生研究所代謝生化学部部長)からコメントがありました。手島委員は、「一つ目の文献は、既に2月8日の食品安全委員会で議論されており、『特にヒトへの懸念はない』と結論づけられています。二つ目の文献は、遺伝子組換え作物に関するジェネラルな意見といった内容なので、食品安全委員会としては、個別の系統に関するデータが出されたときに議論します」という旨を回答しました。


消費者庁からの説明>
続いて、消費者庁食品表示課長の相本氏より、(1)パパイヤの世界およびアメリカの生産量と日本への輸入量、(2)日本での流通実態、(3)パパイヤ加工品に係るDNA検出法の検討状況などについて説明がありました。それぞれの概要は次の通りです。

(1)パパイヤの生産量などについて
2008年、世界の総生産量909tのうち、ハワイは1.5t。
2009年、ハワイのパパイヤの総栽培面積に占める遺伝子組換え体は77%。日本の総輸入量は3,817t、うちハワイからは889t、フィリピンからは2,918t。


(2)日本での流通実態
生果および加工品取り扱い業者(輸入、流通、加工、小売業者別)へのアンケート調査を行った。回答率は合計38%。
遺伝子組換えパパイヤの今後の取り扱い予定について、回答のあった93社のうち、取り扱う予定である・興味があると答えたのは9社、興味がない・取り扱う予定がないと答えたのは69社、輸入解禁を知らなかったと答えたのは33社。
IPハンドリングへの対応の可否について、回答のあった72社のうち、入出庫時に可能としたのは52社、不可は17社。保管時に可能としたのは60社、不可は11社。加工時に可能としたのは10社、不可は2社。以上より、全ての事業者がIPハンドリングを行えるわけではないということが明らかになった。


(3)パパイヤ加工品に係るDNA検出法
既存の分析法で検証したところ、非遺伝子組換えパパイヤを用いた加工品から非遺伝子組換えDNAが検出されない場合が、ドライフルーツやジャム、ジュースなど複数の製品であった(遺伝子組換えパパイヤ加工品を用いて検証していないのは、現在国内で遺伝子組換えパパイヤが流通していなく入手できないため)。
検出されない理由は、DNAを抽出する際に糖分と競合して収量が得られにくかったためと考えており、引き続き検出技術の改良を行っている。


<委員からの質問および意見>
主な論点となったのは、次の二点です。
・パパイヤ加工品のDNAを検出する技術がまだできていないのに、表示のルールを決められるものか
・遺伝子組換え不分別という表示は消費者にとって分かりにくいので、なくした方がよいのでは

前者の論点については、表示ルールが施行されるまでには技術の確立を目指すと消費者庁担当者が答えました。また、現在、遺伝子組換え作物を使用した加工食品を検査する場合は、DNA検査で「疑いがある」というものに対して、IPハンドリングの確認など事業者への調査を行っており、DNA検査だけで違反の有無が判断されることはない旨が説明されました。

後者については、遺伝子組換え不分別という表示をなくすことは、遺伝子組換えおよび遺伝子組換えでないという表示以外のパパイヤ、つまり、IPハンドリングをしていないパパイヤの表示は何なのかということへの答えがなくなってしまうことになります。アンケート調査の結果からもIPハンドリングができない事業者はおり、そういった場合は、遺伝子組換え不分別の表示が付けられることになる旨が説明されました。


<結論>
遺伝子組換えパパイヤは食品安全委員会で安全性は認められています。
表示ルールが定まらないまま加工食品の原材料として流通することを避けるため、なるべく早急に、従来の遺伝子組換え食品の表示ルールに則った形で遺伝子組換えパパイヤおよびその加工品に対しても課すということになりました。
今後は、国民からの意見を集めるパブリックコメントWTO通報を進め、国内での流通はその後になります。