ハチミツは1歳以上から

以前、味覚について書きましたが、人間は、五基本味の中でしょっぱい以外の味を赤ちゃんの頃から感じることができます。
甘味は大人でもそうであるように、赤ちゃんにとっても好ましい味です(*)。
*ただし、赤ちゃんの食事に、大人と同じように甘味やその他の味をつけるのは、成長してから濃い味を好むようになってしまうことがあるため、避けた方がいいと言われています。あくまでも薄味を心がけて・・。


甘味を加える調味料としては、砂糖やハチミツが思い浮かびます。ハチミツは自然なものというイメージがあり、赤ちゃんにいい調味料だと思っている人は少なくないかもしれません。
ですが、ハチミツは衛生面から、赤ちゃんに食べさせるのには注意が必要なものです。


その理由は・・
ハチミツにはボツリヌス菌という細菌が混入している場合があり、これを摂取した赤ちゃんは乳児ボツリヌス症にかかってしまうおそれがあるのです。


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【大人は食中毒】
ボツリヌス菌といえば、大人にとっても食中毒の原因として有名ですよね。ですが、こちらは乳児ボツリヌス症とは違うしくみで発症します。


ボツリヌス菌は土壌や海などの泥や砂の中に分布しており、これ自体に毒性はないのですが、食品中に混入し、生育に適した条件(温度3.3度、pH4.6以上、酸素がなく、水分や栄養分がある)におかれた場合、神経毒であるボツリヌス毒素を生成します。

この食中毒の原因食品としては、缶詰やビン詰め、自家製の「いずし」、ソーセージなどが報告されていますが、日本においてはニシン、ハタハタ、アユなどのいずしが大多数を占めています。
原因とされたものには、調理工程で加熱していない、自家製で長期保存されることが多いという特徴があります。

ボツリヌス毒素は熱に弱いため、食べる前に加熱すれば安全です(いずしは加熱するわけにはいきませんので、なるべく早いうちに食べるようにしましょう)。
また、ボツリヌス菌自体は120度4分間以上の加熱で死滅します。この点で、スーパーなどで販売されている缶詰やビン詰めの多くはしっかりとした加熱殺菌をしており、ボツリヌス菌が混入していることはほとんどありません。

細菌性食中毒の中では、ボツリヌス毒素の毒性は最強のレベルですが、発生数はごくわずかです。厚生労働省サイトによると、ここ五年間では平成18年度と19年度にそれぞれ1件(発生率は0.1%)が報告されていますが、それ以降は0件です。


【赤ちゃんは乳児ボツリヌス症】
というわけで・・
大人にとっては、ボツリヌス菌というよりむしろそれにより生成されるボツリヌス毒素が要注意の存在です。一方で、1歳未満の赤ちゃんにとってはボツリヌス菌自体にも気をつける必要があります。


乳児ボツリヌス症は、まだ腸内細菌が整っていない1歳未満の赤ちゃんがボツリヌス菌の混入する食品を食べ、大腸の中で菌が増殖しボツリヌス毒素が生産されることで引き起こされます。乳児ボツリヌス症にかかると、便秘や体の筋力が落ちるなどの症状が見られます。
1歳をこえると正常な腸内細菌の状態になるため、腸の中でのボツリヌス毒素の生産は阻害され、乳児ボツリヌス症を起こすことはありません。


乳児ボツリヌス症の原因食品として報告されているものには、ハチミツがあります。
ボツリヌス菌が存在する土壌で育った植物の花粉にはボツリヌス菌が混入していることがあります。そして、その花粉を集るミツバチが巣で作るハチミツにもまた、ボツリヌス菌が含まれることがあるのです。

もしハチミツの中にボツリヌス菌が含まれていても、ハチミツの水分量は少ないのでハチミツ内でボツリヌス毒素が生成されることはありません。


ところで、ハチミツには、どのくらいの頻度でボツリヌス菌が含まれているのでしょうか?
厚生労働省資料によると、販売されているハチミツがボツリヌス菌に汚染されている割合は、0〜6.7%とわずかだとのことです。

また、実際に乳児ボツリヌス症の報告例もごくわずかです。
しかし、乳児ボツリヌス症の原因食品として気をつけるべきはハチミツだけですし、1歳未満の赤ちゃんにはやはり食べさせない方がいいでしょう。
(甘味をつけるときは砂糖で!)