本の紹介「食のリスク学 氾濫する『安全・安心』をよみとく視点」

最近、リスクという言葉が色々な場面で聞かれるようになりました。

食の安全に関する政策を達成するためには、リスク評価の考えがなくてはなりません。なぜなら、安全とは相対的な概念であり、政策の場合では特に安全そのものを指標にすることは難しいからです。


今回ご紹介する本の著者である中西準子氏は、日本における化学物質のリスク評価研究の第一人者であられます。化学物質のリスク評価は、環境問題に対する政策において重要となりますが、これはまた食の安全問題とも密接に関係します。例えば、水銀、ダイオキシン、鉛などです。

本書「食のリスク学 氾濫する『安全・安心』をよみとく視点」(2010年 日本評論社、定価2,100円)では、話題になった様々な食の安全問題について、リスク評価の視点から解説がされています。



著者の中西氏によると(*)、リスク評価をすること自体は難しいのですが、そこにたって物事を考えることはできます。
*詳しくは以前開催された講演の傍聴記録を見てみてください。


リスク評価の中でポイントとなるリスク・トレードオフは、日常生活でよく起こります。
リスク・トレードオフが起こると、あることに対処しようとして行ったことが別のリスクを高めてしまうということがあります。
私たちはリスク・トレードオフを頭の片隅に置きながら生活をしているはずです。例えば、子どもたちと近い区民プールで遊ぶか、車で遠い海まで海水浴をしに出かけるか。区民プールは安いし楽だけど子どもたちが満足しないかもしれない、海水浴は高くつくけど夏の思い出になる・・というようなことで、全体として小さいリスクの方を選んでいます。


リスク・トレードオフを意識すると、食の安全問題についてもより冷静に判断できるようになるかと思います。

本書では、リスク・トレードオフを含めたリスク評価の基本的な考え方から、以前ご紹介した「フード・ファディズム」の高橋久仁子氏との対談、食に関する素朴な疑問(「国産の方が安全で、安心ですか?」、「食料自給率40%ではいけないのでしょうか?」など)、そして少し専門的な食の問題について収められています。


リスク評価に関しては多少難しい部分もありますが、実例を挙げながら解説されているので、丁寧に読めば理解しやすいかと思います。世間にあふれる食の安全問題に関する様々なニュースを自分なりによみとくための、指針となる一冊です。