栄養成分表示の現在とこれから

皆さんは、加工食品のパッケージに記載されている栄養成分表示を見ていますか?



多くの加工食品でこのような栄養成分表示を目にすると思いますが、実はこの表示は、原材料名や保存方法などとは違い、義務のものではありません。


【現在の栄養成分表示】
栄養成分表示は、食品100g(または100ml)や一食分などの食品単位当たりの、熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウムの量(*1)のほか、栄養表示しようとする栄養成分(例えば、「カルシウム入り」の場合はカルシウム、「ビタミンC配合」の場合はビタミンC)の量を記載したものです。
*1:これらは必須項目

カルシウムのように、その欠乏が健康の保持増進に影響を与えるとされる栄養成分は、それを「補強できる」旨を表す表示があります。一方で、糖質やナトリウムのように、その過剰摂取が健康の保持増進に影響を与えるとされる栄養成分は、それを「含まない」「低減されている」旨の表示があります。

いずれにせよ、こうした栄養成分については、表示をする際の指針が作成されています。例えば、「糖質ゼロ」と表示できるのは、食品単位当たりの糖分が0.5g以下であること、などといった決まりです。
そのほかの決まりについては、厚生労働省のページをご覧ください。


【注目してほしいナトリウム】
栄養成分表示の中では、熱量や糖質に目がいきがちですが、ナトリウムにも注目をしてみてください。日本人は食生活の特徴から、塩分を摂り過ぎてしまう傾向がありますが、その過剰摂取は生活習慣病の原因になるとされているのです。
2010年版の栄養摂取基準では、以後五年間に達成したい食塩摂取の目標値として、成人男性9.0g/日未満、成人女性7.5g/日未満という値が設定されています。一方で、平成20年度の国民健康・栄養調査によると、実際の食塩摂取量は成人で平均10.9g/日です。

加工食品にはどのくらいの塩分が含まれているのかが気になるところですが、栄養成分表示の「ナトリウム」から食塩相当量が次の式により算出できます。

食塩相当量(g)=ナトリウム(g)×2.54


【栄養成分表示を義務化?】
冒頭でも書きましたが、現在、栄養成分表示は義務ではありません。
海外では義務にしている国が少なくありません。例えば、アメリカ、カナダ、韓国、中国、オーストラリアなどです。こうした国際的な状況とすり合わせるために、また、消費者の食品選択の参考に資するために、日本においても栄養成分表示の義務化への模索が始まりました。

2010年10月8日の岡崎内閣府特命担当大臣の記者会見によると、消費者庁では、トランス脂肪酸を含めた栄養成分表示の義務化について、来年の夏を目途に方向性をまとめるとしています。


トランス脂肪酸とは】
なぜ、トランス脂肪酸が取り上げられたのでしょうか?

トランス脂肪酸は、トランス型の二重結合を持つ不飽和脂肪酸です。
由来には二つあり、液体の油脂から固体や半固体の油脂を加工する際に生じるものと、微量ですが反すう動物の体内で自然に生じるものがあります。前者のものはマーガリンやファットスプレッド、そして、それらを原料にしたお菓子などに多く含まれます。

トランス脂肪酸の摂取は、悪玉コレステロールを増加させ、善玉コレステロールを減少させます。過剰摂取が続くと、冠動脈性心疾患のリスクが上昇すると言われています。
2003年の「食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会合」の報告書には、心血管系を健康に保つため、食事からの摂取量は最大でも一日当たりの総エネルギー量の1%未満とするようにとの記載があります。その後、最新の知見をもとにした2008年の報告書では、1%未満というレベルの見直しを課題として指摘しています。

日本人の平均的な食生活においては、トランス脂肪酸の摂取量は総エネルギー量の0.6%程度となっており、リスクは概して低いと言われています。


【栄養成分表示の今後】
現在、日本ではトランス脂肪酸は栄養成分表示の必須項目ではなく、トランス脂肪酸の表示をする際の指針も作成されていません。

トランス脂肪酸と同様に、飽和脂肪酸コレステロールも過剰摂取をすると心疾患のリスクを高めると言われていますが、これらについては表示の指針が既にあります。
マーガリンやファットスプレッドにはトランス脂肪酸が入っているからバターを使った方がいい、と思われる方がいるかもしれません。しかし、バターには飽和脂肪酸が含まれています。
大切なのは、トランス脂肪酸さえ摂らなければいい、ということではなく、食生活における脂肪全体の摂取に注意をすることだといえます。

栄養成分表示を義務化している国の中には、飽和脂肪酸とともにトランス脂肪酸を必須項目に含めているところもあります。例えば、カナダでは2005年より、アメリカでは2006年よりトランス脂肪酸の表示を義務にしています。
栄養成分表示の規制に関する各国の状況については、消費者庁が作成した資料(4ページ目)をご覧ください。


実は消費者庁では昨年から、トランス脂肪酸の表示の義務化について検討を続けていました(*2)。
*2: 2009年11月25日の記事「消費者庁、トランス脂肪酸の表示を検討」

しかし、日本人の平均的な食生活においてはトランス脂肪酸の摂取量は心配するほどのレベルに満たないということもあり、トランス脂肪酸の表示の義務化については、その費用対効果や、そもそも日本では栄養成分表示自体が義務ではないことなどから賛否両論がありました。

そうした中で、今回、消費者庁は栄養成分表示の義務化という枠組みの中で、トランス脂肪酸の表示の指針案を取りまとめ、検討を進めていくことにしました。
今後の流れとしてはまず、指針案についての意見を一般から集め(10月8日〜29日*3)、それをもとに検討会で議論を重ねるということになります。
*3:意見はこちらから

具体的な論点や方向性など、全ては今後の議論で固まっていきます。栄養成分表示を義務化にするのか、必須項目にはどの栄養成分を含めるのか、トランス脂肪酸はどうするのかなど・・今後が注目されるところです。