第二回栄養成分表示検討会(消費者庁)

1月31日、消費者庁栄養成分表示検討会(*)の第二回が行われました。
*日本では栄養成分表示は任意ですが、本検討会で今年の夏をめどに義務化に向けた議論を行うことになっています。

第一回検討会の傍聴記録はこちらです。


今回は論点整理のために、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室長の畝山智香子氏と東京大学大学院医学系研究科教授の佐々木敏氏による講演および議論が行われました。
本検討会は15名の委員で構成されていますが、赤松利恵氏以外の14名の委員が出席しました。
配布資料は消費者庁サイトに掲載されています。


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【畝山氏による発表】
資料1「栄養成分表示検討のための背景〜食品によるリスクの視点から〜」

●基本的合意
・企業と消費者は対立するものといわれることがあるが、「人々の健康と福祉の向上」という目的は共通している。
・その目的のなかでは食品安全は一部に過ぎず、そのほかに医療や経済がある。
・同じ目的を達成するのであれば、規制や費用は少ない方がいい。
・政策の決定には最良の科学的根拠を用いるべきである。
・食品安全の確保にはリスク分析を活用する。

●食品のリスク評価
・リスクは有害影響と確率(摂取量など)を掛け合わせたものである。
・いわゆる健康食品のリスクは極めて大きく、基準値以内の食品添加物残留農薬のリスクは極めて小さい(実質的にはゼロ)。
・添加物や農薬のリスク評価では、有害影響の出ない量を決めることがおもな課題となる。摂取量がゼロにならなければリスクはゼロにならないと誤解されることがあるが、ほぼ全ての物質には毒性の出ない量がある。
・リスク評価に用いる科学的データが同じでも、それに掛けあわせる安全係数が異なると、目安量も異なってくる。目安量は基準値を設定するための「目安」であり、それを超えたら有害影響があるということではない。
・添加物や農薬は目安量を超えて摂取する人はほとんどいない。一方で、天然由来の汚染物質(カドミウムなど)や食品にもともと含まれる成分は目安量を超えることがある。食塩はほとんどの人で目安量を超えている。
・栄養素については摂取量が多い方と少ない方、ともにリスクがある。
・リスク評価の結果を踏まえてリスク管理を行う。栄養素の場合は過剰に摂取している集団の摂取量を減らすようなリスク管理がよいと思われ、栄養成分表示はこれを目指している。

●日本と欧米の違い
・食品の健康影響を調べた研究の多くは欧米人のデータであり、日本人のデータは少ない。
BMIと死亡率の関係は日本人と白人でほとんど変わらない(BMI23~25で最小)。しかし、日本人の肥満(BMI30以上)は欧米に比べて少ない。そして日本では女性の痩せ傾向が顕著であり、低体重出生児の増加が問題になっている。
・日本の医療統計などから推定すると、日本人にとってはナトリウムの過剰摂取が最大の健康上の問題であると思われる。
・欧米人のデータに引きずられてしまっては、日本人にとって優先順位の高い対策はなされないことがある。日本人は、メチル水銀ヒ素ヨウ素、オメガ3脂肪酸の摂取量が多く、脂肪、飽和脂肪酸、乳製品の摂取量が少ないと推定される。

●消費者教育や正確な情報提供の必要性
アメリカは世界で最も早く栄養成分表示を導入したにも関わらず、肥満は増加し続けている。アメリカにたくさんある「FAT FREE」(ただしカロリーが低いとは限らない)という表示は、量を多く食べてもいいと認識されている。
アメリカで妊婦や幼児にメチル水銀を多く含む魚の摂取量を制限するという対策をしたら、国民全体の魚の摂取量が減ってしまった。これによって心疾患が増加したのではないかとも言われている。
・産地表示が安全性に関係があると誤解されていることもあり、表示の意味を教育する必要がある。
・「○○酢は普通の酢の××倍のアミノ酸が入っています」といった広告をよく見かけるが、普通の牛乳はそれよりもずっと多くのアミノ酸が含まれている。常に全体像を提示する共通の「ものさし」を使う工夫が必要である。
・色々なものを食べることが健康のためには最も大切だ。小さなリスクを避けると選択肢が少なくなり、かえって全体のリスクを大きくしてしまう。

<委員からの意見や質問(抜粋)>
・(蒲生恵美氏)何が必要な栄養素かは個人によって異なるが、メディアからの情報に引きずられるということがある。栄養成分表示だけでなく栄養指導や教育などを一緒にすすめていく必要がある。まずは食事摂取基準の結果とリンクさせて国民全体で広く共通するリスクを優先するべきである。スライドp.17にある「ものさし」とはどんなことか?
→(畝山氏)一日に必要な栄養素の何%に相当する、といった表記をすることなどがある。
・(鬼武一夫氏)同じ目的を達成するのであれば、規制や費用は少ない方がいいと言われたが、表示については現在これと逆の状況になっている。


【佐々木氏による発表】
資料2「各栄養成分と健康影響に関する考え方」

●基本的な考え方
・人間は食べ物の栄養を使って健康を保っているが、栄養は目に見えない。栄養成分表示は「栄養の可視化」の手段である。
・栄養素は不足した場合も過剰な場合も、影響があらわれるのには時間がかかる。そのため証拠がでにくい。
・栄養素と健康の関係については個人差が大きく、少数の証拠だけでは結論が出せない。
・ひとつの食品でも栄養素の含有量にかなり幅があり、それが表示をすることの難しさにつながる。
・栄養素の摂取量を推定することは難しい。
生活習慣病の原因は多数あるので、栄養素の影響や効果は検証しにくい。
・ある栄養素の摂取量をゼロにすることの意義は乏しい。
・今回は日本で摂取量が多いナトリウムと、多くの国では表示義務になっているけれど日本では任意表示の飽和脂肪酸トランス脂肪酸を例にとりあげる。あくまで例であり、これらについて今後議論したいということではない。

●食塩について
・日本人の35歳の男性が食塩を一日に14g摂取する場合と、7g摂取する場合を考える。それぞれその生活を続けると、30年後は後者の場合は前者と比較して13歳分の加齢(血圧上昇)を止めることになる。「一日に何g摂った」ではなく、「30年間で何kg摂った」という考え方を理解するべきである。
・高血圧学会が推奨している食塩の摂取量(6g/日未満)を達成している人はほぼいない。こうした場合は「減塩」というpopulation approach(集団への方策)が適しており、栄養成分表示はこのために不可欠なツールとなる。
・日本人の食塩摂取量は減ってきているが、薄味(1000kcalの食事に何gの食塩が含まれるか)にはなっていない。その理由に、日本人のエネルギー摂取量自体が少なくなってきているということがある。
アメリカは食塩の多くを食卓塩ではなく食品から摂取しており、食品生産者に負うところが大きい。それに対して日本は調味料類から摂取する場合が多く、食品生産者だけではなく消費者が決める部分も大きい。

飽和脂肪酸トランス脂肪酸について
飽和脂肪酸トランス脂肪酸心筋梗塞という共通の健康障害を持っており、常に双方のリスクの大きさを考えなければならない。
飽和脂肪酸トランス脂肪酸のどちらの影響が大きいのかについての答えはなく、個人が食べている量による。
・諸外国において、総脂質だけでなく飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸などと分けて表示されているのは、脂肪酸の種類によって健康影響が異なるからである。

●まとめ
・栄養成分表示は各種の栄養学研究(特に疫学調査)の成果に基づいて決められるべきである。
・栄養素による健康影響は「(食品A中の含有量×食品Aの摂取量)+(食品B中の含有量×食品Bの摂取量)+(食品C中の含有量×食品Cの摂取量)+・・・」である、ということを理解できて初めて栄養成分表示は意味をなす。

<委員からの意見や質問(抜粋)>
・(蒲生氏)食塩のところで言っていた長い目で見られるような情報提供が大切ということには同感だ。表示はどういうことができるか?
→(佐々木氏)栄養成分表示から情報を入手するということが生活にしみつくことが大切だ。食育などの機会を使って浸透させていき、流行りで終わらせないようにする。
・(飛田恵理子氏)日本では消費者側が大切だということだったが、食塩ではないナトリウム(サプリメントアスコルビン酸ナトリウムなど)についてどのように考えたらよいか。
→(佐々木氏)生産者と消費者、それぞれ片方だけの問題ではない。口に入る段階でナトリウムであれば、アスコルビン酸ナトリウムなどであっても摂取量の中に入る。食塩量ではなく食塩「相当」量であるということは知っていて欲しい。


【全体の議論(抜粋)】
・(仲谷正員氏)高齢化社会が進むなかで、健康に影響のある栄養素の表示も効果がある栄養素の表示も必要だろう。また、ナトリウムについてはナトリウム量と食塩相当量どちらで表示するのかを考えなければならない。
・(浜野弘昭氏)栄養成分表示を誰のため、何のためにやるのかをはっきりとさせなければならない。消費者のためというのはもちろんのこと、栄養政策を実効させるということも大きい。
・(徳留信寛氏)食品はたくさん摂れば害になるし、摂らなさ過ぎても害になる。表示をして、それによって健康リスクが低減できるかどうかが大切だ。また、国民への教育や啓発もしっかりとしなければならない。
・(山根香織氏)今消費者のニーズがあり、企業がそれに応えているという事実がある。学者でもまだ意見が分かれているものもあり、そうしたものは避けられるように表示をするのが消費者の権利だ。
→(蒲生氏)アメリカのメチル水銀の魚の例もあり、消費者のニーズをどこに置くかが大切だ。また、「無添加」という表示によって逆にリスクが高まるということもある。
→(山根氏)過度に天然・自然を求めるのはどうかということはあるが、多様なニーズに応える表示であって欲しい。
・(塩谷茂氏)健康増進をするためには基準となる値があって、この食品にはその値の何%が入っている、という二つのステップがある。表示の工夫については三つ目のステップだ。
・(鬼武氏)栄養成分表示を義務化にした方がいいのかについてもう少し議論するべきだ。健康に役立つのであれば義務化もいいと思うが、このことが十分に話されていない。また、ナトリウムについては、食塩相当量ではなくナトリウム量で表記するのが国際的にも主流になっている。ナトリウム量を主役にして食塩相当量を併記するのがいいと思うが、国民がこのことを理解できるのかについても考えていかなければならない。
→(坂本元子氏・座長)消費者への情報提供や教育は必要だと思う。誰がどのようにやるのかについては、この議論が終わってから省庁が考える。
・(蒲生氏)栄養成分表示を義務化するかどうかについては柔軟であってもいいのではないか。義務化ありきではなく健康増進をするために何が必要かを考えてからがいいと思う。
・(仲谷氏)栄養素の摂取は加工食品からだけではない。また、表示をすることにはかなりのコストがかかるので、そのコンセンサスをとっていかなければならない。
・(迫和子氏)加工食品の栄養成分表示はぜひ義務化してほしい。
・(渡部浩文氏)どういう範囲のものを義務化して、どういうやり方でやるのかについても議論が必要。表示を義務化することによって健康増進のプラスになるものでなくてはならない。


消費者庁による報告】
参考資料「市販食品における栄養成分表示の実態調査」
消費者庁において、市販の食品(633品)の栄養成分表示の実態調査を行った。全体の約8割に一般表示事項(熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム)があった。
・栄養成分表示を「100mlあたり」や「100gあたり」など量あたりで表示していたのは全体の37%、一食分あたりで表示していたのは62%だった。
・ナトリウムについて、ナトリウム量を表示していたのは全体の54%、食塩相当量を併記していたのは46%だった。
・表示基準に定められていない成分を表示していたのは全体の13.1%だった。特にDHAとコラーゲンが多かった。


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次回の検討会は2月23日です。
「消費者は栄養成分表示をどう見ているのか」「栄養成分表示の活用と消費者の食行動との関連」「栄養表示の社会的ニーズと食育実践への活用について」をテーマとして、委員の飛田氏、山根氏、鬼武氏、蒲生氏、赤松氏、山田和彦氏による発表が行われる予定です。