第三回栄養成分表示検討会(消費者庁)

2月23日、消費者庁栄養成分表示検討会(*1)の第三回が行われました。
*1:日本では栄養成分表示は任意ですが、本検討会で今年の夏をめどに義務化に向けた議論を行うことになっています。

以前の検討会の傍聴記録はこちら→第一回第二回


今回は論点整理のために、6委員より(*2)、栄養成分表示を使う側の視点からの講演が行われました。
*2:山根香織氏(主婦連合会会長)、飛田恵理子氏(特定非営利活動法人東京都地域婦人団体連盟生活環境部長)、蒲生恵美氏(社団法人日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会食生活特別委員会副委員長)、鬼武一夫氏(日本生活協同組合連合会組織推進本部安全政策推進室長)、山田和彦氏(女子栄養大学栄養学部教授)、赤松利恵氏(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科准教授)


本検討会は15名の委員で構成されており、今回は全ての委員が出席しました。
配布資料は消費者庁サイトに掲載されています。


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【山根氏による発表】
資料1「栄養成分表示について」
・消費者のニーズに応えて栄養成分表示ができてきたとされているが、消費者は表示の見方を十分理解していない。結果として、栄養成分表示は食生活の改善や病気の予防に効果をあげていないと思われる。
・既に多くの加工食品に栄養成分表示があり、また海外でも義務化が進んでいる。日本で表示義務化に移行しても事業者に過度の負担はないだろうと思われる。ただし、一部の事業者に対しては支援などを考えた方がよいだろう。
・栄養成分表示をするにあたっての分析試験や表示の方法にばらつきがある。信頼性向上のために、しっかりとルール化をすることが必要だ。
トランス脂肪酸に関しては日本人の食の欧米化からみて表示は必要だと思うが、飽和脂肪酸とのバランスなど、正しい情報提供の仕方については検討が必要だ。
・表示義務化と消費者教育はセットで進めるべきだ。


【飛田氏による発表】
資料2「消費者にわかりやすい栄養成分表示とは‐市販食品の表示点検より‐」
・当団体では、1973〜1998年に「お台所ダイヤル」で食生活情報の提供を行っていた。毎日市場に電話をして旬で手ごろな食材を聞き献立をたてるというもので、栄養に関する情報もあわせて提供をしていた。
・栄養成分表示の表示項目に、トランス脂肪酸葉酸を加え、ナトリウムには食塩相当量を併記するのがいいと思う。
・包装のないものや中食(惣菜など)、外食についても表示対象にした方がいい。
・2010年11月から無作為に食品を購入し、栄養成分表示をチェックする調査を行っている。現在120点を調査したところである。
・栄養成分含有量を調べる方法には、実際に食品を分析するほか食品成分表から計算するというやり方もあるが、できるだけ実際に分析をして欲しい。当団体が表示調査した食品には、栄養成分含有量をどのように調べたかを書いてあるものもあったが、書いていないものもあった。
・卵の表示調査を行った。可食部100gあたりの栄養成分が書かれていたが、1個あたりの表示が欲しい。
・はっ酵乳三種の表示調査を行った。乳脂肪分0.4%であれば「脂肪ゼロ」と表記できる。二種の栄養成分表示では小数点以下が省略され脂質0gと書かれていた。一種は小数点以下も省略されず脂質0.4gと書かれていた。ゼロ表示は消費者が優良誤認しやすいものであるので、栄養成分表示には小数点以下も省略せずに書いた方がよい。

<委員からの意見や質問(抜粋)>
・(迫和子氏)食品成分表からの計算値について消費者はどのように考えているか?
→(飛田氏)加工度の高い加工食品については、栄養成分含有量が実際にどのようになっているのか危惧が高い。できるだけ実態に即してもらいたいという意味で言った。


【蒲生氏による発表】
資料3「消費者の適切な食行動を助けるために〜栄養成分表示の活用と消費者の食行動」
●問題点‐フードファディズム情報
・栄養状態や活動状況は個人によっても、また同じ個人であっても時期などによって異なる。そのため、長い目で食事の栄養バランスを捉える必要がある。しかし、消費者からすると自分に必要、あるいは減らすべき栄養素が何かはあまりよく分かっていない。
フードファディズム情報は一般的に非常に分かりやすいものであるゆえ、消費者はそれに流されてしまいがちであるという問題点がある。
フードファディズムの例として、テレビの情報番組で「体によい食品、成分」が言われると、その食品が大量に売れるということがある。こうした情報は楽でお手軽なものだと言える。反対に、トータルの摂取量を減らす、運動量を増やすという情報は苦しいものだと言え、消費者になかなか伝わりづらいものである。
フードファディズムの問題は事業者規制だけでは不十分で、消費者教育を充実させていかなければならない。現在は、長い目で自分の栄養状態を正しく捉えるという「幹の情報」より、極めて重要度の低い「葉の情報」が注目されることが多い。こうした状況を正すような教育や制度の対応をしていく必要がある。
・国民の健康維持増進や生活習慣病予防という目的のためには様々なアプローチがあり、栄養成分表示はそのひとつである。

●栄養成分表示ですべきこと
・栄養成分表示を議論する際にはっきりとさせておくべきことは、表示の目的、具体的なゴール、そのために誰を対象とするのか、どのように活用してもらうのか、ということである。アメリカで栄養成分表示を義務化したのに肥満の割合が減っていないという例があり、具体的で検証可能なゴールを設定し、段階的に栄養成分表示を改善していくことも必要である。
・栄養バランスは食品一品一品で考えるものではない。また、栄養成分表示のない食品を利用することも多く、表示数値の誤差というものもある。そのため、栄養成分表示はあくまでも目安と捉えるのが妥当である。
・表示項目としては、科学的根拠に則し、費用対効果や実効可能性を踏まえた上で多くの国民ニーズにあったものを優先すべきである。個別のデータではなく、国民全体における確率論的な視点が重要となる。
トランス脂肪酸については、国民にとって対策が必要であると言える科学的根拠がまだ不足しており、栄養成分表示で優先すべき項目だとは言えない。
・先日消費者庁が公開した「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」の中に、「トランス脂肪酸については、表示する際のルールが存在しないことから、食品事業者が積極的な情報開示に踏み切れなかったり・・」という記述があった。消費者庁トランス脂肪酸を積極的に表示した方がよいと考えているのか、その意味について消費者庁に説明をしてもらいたい。
・現在ある科学的知見をもとに判断するのがリスク管理である。今後も研究を進めながら、新たな知見が得られたときに必要に応じて制度を見直していく体制が重要である。
・栄養成分表示は、食事療法や食事制限を必要としない健康な人を対象とし、長い目で習慣的に活用してもらうべきである。そのため、簡単かつ大まかな傾向をつかめるような表示の見せ方を工夫することが求められる。この工夫については、本検討会で議論するだけではなく、消費者調査を行って検討することが重要である。
・各種調査から栄養成分表示への期待は大きいことが分かる。しかし、十分に活用されていないのは、現在の栄養成分表示の使いにくさ(基本単位、含有量の意味、表示の記載場所や文字の大きさなど)を示している。
・日本で優先して取り組むべきことは何かを考えることを基本とし、海外ではどのように表示しているのかに関する事例を集めて参考にすることが、国際的な整合性を考える点においても重要となる。


【鬼武氏による発表】
資料4「栄養成分表示の活用〜栄養成分表示と消費者の食行動〜」
・生協はサービスセンターで消費者からの問い合わせを受けている。2004〜2010年の問い合わせの年平均は45,000〜 50,000件である。
・栄養成分に関する問い合わせは総件数の2%前後である。成分別では、2010年度は脂質がもっとも多く153件、次いでナトリウムが138件、エネルギーが132件、リンが76件、カリウムが66件という順だった。また、栄養成分以外の成分ではカフェインについての問い合わせが多く115件あった。
・脂質に関する問い合わせのほとんどは、マーガリン、ショートニング、その他食品に含まれているトランス脂肪酸の含有量についてだった。ナトリウムに関してはナトリウムと食塩相当量の関係について、エネルギーに関しては炊いた後のお米のカロリーはどうなるか、納豆のカロリーについて(商品にはタレ、からし込のカロリーだったので納豆のみのカロリーを知りたい)などがあった。


【山田氏による発表】
資料5「栄養表示の社会的ニーズと食育実践への活用について‐アンケート調査を参考にして‐」
・二つの参考文献において、栄養成分表示について次のような要望や課題が示されている。
・現在、栄養成分表示は任意であり、表示されている食品が限られている。生鮮食品については技術的に難しいところがあるが、表示の方向で検討されることが望ましい。
・栄養成分表示は100gあたりの数値で示されていることが多く、消費者にとっては活用しにくい。一日の必要量の割合などを図やグラフなどで分かりやすく表示することが望まれる。ただし、必要量は年齢によって違うこともあるので、どの層を基準にするかは考えなくてはならない。
・消費者が栄養成分表示を適切に利用するためには消費者の判断力が必要である。行政、企業、学術団体などは消費者への啓もう活動や情報提供をするほか、学校教育や社会人教育も充実する必要がある。


【赤松氏による発表】
資料6「栄養成分表示の活用〜栄養成分表示と消費者の食行動」
・栄養成分表示利用に関するある概念的枠組みでは、消費者の商品選択の行動を次のステップに分けている。
(1)暴露(栄養成分表示が出回っているところにさらされている)
(2)認識(表示を見る)
(3)理解(この食品を食べたら何カロリーになるか?など)
(4)推論(このカロリーが自分にとって多いのか少ないのか?など)
(5)統合(値段や味などを考え合わせて判断する)
(6)評価
(7)決定
この枠組みの中で、栄養学的知識は理解と推論のステップに活用される。しかし、商品選択にはその前後のステップ(認識と統合)も重要である。人は嗜好品に対して甘く考えるという傾向があり、そうしたことも考えなければ栄養成分表示を本当に必要な人に使ってもらえない。
アメリカの成人を対象としたデータを解析したいくつかの文献によると、栄養成分表示の利用者には、女性・高学歴・高収入・白人・英語を母国語とする人、生活習慣病がある人、医療従事者に指導を受けた人といった特徴がある。また、栄養成分表示を利用している人は栄養摂取状況がよいという特徴もあったが、この因果関係は明らかではない。
・海外の先行研究によると、専門用語は理解されていない、「サービングサイズ」を理解することが難しいなどといったことが明らかになった。
・今後の議論においては、ターゲットとなる人はどのような食生活を送っているのかについて食行動レベルで考えること、目標を設定することの必要がある。
・目標は実態把握の結果をもとに設定し、以降の評価を考えたものにするべきである。目標には、数値の目標、学習レベルの目標、健康レベルの目標などがあるが、いずれも完璧に遂行しようとするのはリスクが大きいので段階的に達成していくというのもよいだろう。

<委員からの意見や質問(抜粋)>
・(蒲生氏)栄養成分表示に意識の低い人のモチベーションをあげるために表示でできることは何か?また、行動を評価することは難しいと思うが、どのくらいの期間で効果を見るのか?
→(赤松氏)モチベーションをあげるためには、表示をするだけではなくメディアや企業とともにプロモーションをするのがいいと思う。効果を評価する期間については、どの部分を評価するのかによって異なる。健康レベルで見るのであれば長い期間が必要であり、学習レベルであれば比較的短い期間でできる。


【全体の議論(抜粋)】
・(浜野弘昭氏)議論をまとめてやってしまうと錯綜するので、順番に進めていった方がよい。例えば、最初はどの表示項目が必要かについて、次に数値の誤差はどこまで認めるかといった科学的根拠について、次にどの食品を対象とするのかについて、次に消費者の理解をどのように高めるのかについて、最後はモニタリングや評価をどのように進めるのかについてなどである。
・(飛田氏)調味料では大さじ一杯あたりの含有量を記載していることが多く、乳飲料ではコップ一杯(200ml)あたりを記載していることが多い。実際にどのようなサービングサイズがあるのかを調べ、共通性の高い基準にできたらいいと思う。
・(迫氏)サービングサイズについては、どのようにその表示を使うのかによる。購入時に比較しやすくするのであれば、サービングサイズよりも共通するもの(100mlや100gなど)の方がいいかもしれない。
・(坂本元子氏・座長)どの栄養成分を表示項目に入れるのかについて、佐々木委員にお答えいただきたい。
→(佐々木敏氏)その前に、私たちは生鮮食品を中心に食べているということを忘れてはならない。消費者が不足している栄養成分が何か、そうした知識が不足していることをよしとして進めるかどうかも含めて考えることが必要だ。また、栄養成分表示を見たことがある人が50%以上いるということだったが、その人たちを対象とするのかそれ以外の人も対象とするのかについても考えなければならない。
記憶の範囲だが、目標値と実際の摂取量がもっとも離れているのはナトリウム、そして、カリウムと食物繊維がある。もうひとつ危ないのは飽和脂肪酸だが、生協への問い合わせには出てきていないようで不思議だった。
・(赤松氏)どの食品を対象とするのかを考えてから表示項目を考えてもよい。コンビニ弁当と調味料では、表示を見る場面が違う。ライフステージやライフスタイルを分けて、優先順位の高い層から対象としていくといいと思う。
・(畝山智香子氏)栄養成分表示は、日本人の栄養状態を長期に渡ってモニタリングしながらアップデートしていくべきだ。健康増進という目標のもと、科学的根拠があることが大切だということを、特に消費者団体に分かってもらいたい。
・(坂本氏・座長)栄養素と食事の距離が遠い。これが近くなることはないか?
→(佐々木氏)2005年の食事摂取基準に関する議論のときに同様の話になり、諸外国の研究をたくさん調べた。海外の事例を調査するチームを作ることの価値はある。
→(赤松氏)現在あるデータを再解析することはできる。


消費者庁による報告】
参考資料「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針について」
・(消費者庁トランス脂肪酸飽和脂肪酸コレステロールは任意で表示することになっている。
・(蒲生氏)積極的な情報開示が必要という記述について疑問だったが、あくまでもルールが必要だということか。
→(消費者庁消費者庁としては積極的に情報開示をして欲しい。今後の検討では、どのような栄養成分を表示の義務化にするのか、トランス脂肪酸をどうするのかということを議論してもらいたい。
→(蒲生氏)積極的な表示開示をすすめるとしたら、その根拠は何か。
→(消費者庁)海外状況と消費者の要求の二点がある。
→(鬼武氏)トランス脂肪酸に注目が集まるとトランス脂肪酸が減った分だけ飽和脂肪酸が増えてしまうことがある。トランス脂肪酸だけの問題ではないことは押さえてもらいたい。


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次回の検討会は3月29日です。
「事業者の栄養表示基準制度の活用状況」「自治体における栄養表示基準制度の運用の実際」「諸外国等における栄養成分表示制度の運用や研究の動向」をテーマとして、委員の塩谷茂氏、仲谷正員氏、渡部浩文氏、浜野氏による発表と、コンシューマーサイエンスについて名古屋文理大学教授の清水俊雄氏へのヒアリング、全体議論「制度の実効性を確保していくためにはどうあるべきか」を行う予定です。