食品安全委員会(第373回)‐放射性物質の指標値に関する食品健康影響評価(2)‐

3月25日、第373回の食品安全委員会が行われました。
厚生労働省から放射性物質の指標値に関する食品健康影響評価(リスク評価)の依頼があり、今回はそれに関する三回目の会合です。

二回目の会合の傍聴記録はこちらです(*1)。
*1:一回目の会合の配布資料はこちらで公開されています。


議論のために、7名の委員のほか、11名の専門委員と5名の専門参考人が集まりました。

委員会の配布資料はこちらで見ることができます(机上配布のみのものもあります)。


今回具体的に決まったのは次の二点です。
●単位はシーベルトでとりまとめる。
●とりまとめ文書のイメージは意見を踏まえて構成し直す。

また、この評価において何をエンドポイント(起こってほしくない状態)とするのかについても議論されました。

次回の開催は3月28日、その次は3月29日の予定です。


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●傍聴記録
【評価対象核種、チェルノブイリ事故について】
資料1〜3について食品安全委員会坂本評価課長から説明がありました。内容は、ヨウ素セシウムの概要と、チェルノブイリ事故での被ばくについてです。
続いて、資料4および5について秋田大学名誉教授の滝澤行雄氏から説明がありました。内容は主に、食品の放射能汚染と、チェルノブイリ事故での環境中の放射能濃度についてです。欧米人は牛乳や乳製品の摂取が多く、日本人は野菜や豆類の摂取が多いという違いがあり、摂取源の違いを意識することが国際比較においては必要だと話されました。


【国際機関の評価、放射性物質の毒性影響について】
坂本評価課長から資料6〜13の説明がありました。内容は主に、国際機関における評価と、毒性の発現する線量についてです。

<国際機関における評価について>
●調べた範囲では、国際機関において放射性ヨウ素および放射性セシウムに関する食品のリスク評価を行った結果は見当たらなかった。
放射線緊急時における公衆の防護のための介入についての検討はいくつか行われている。しかし、それは食品中の放射性物質が健康に悪影響を及ぼすかどうかを示す基準ではない。緊急時において食品の摂取制限措置を導入する際の目安とするための値である。
1984年の国際放射線防護委員会(ICRP)のPublicatin40では、事故後一年間において食品中の上限レベル50mSv、下限レベル5mSvが示されている。ここでいう上限は介入(食品の摂取制限)が必要なレベルであり、下限はそうした対策が正当化されないレベルである。
WHOは1988年に介入のレベルとしては5mSvが適当だとしているが、ヨウ素甲状腺に局所的に被ばくするので、甲状腺線量として50mSvを用いることとしている。
●1992年にICRPはPublication40を改定しPublication63を出した。この文書においては、ある食品に対して介入が正当化されるレベルを年間10mSvとしている。ただし、代替食品がない場合、あるいは住民が大きな混乱に陥りそうな状況では、これよりも高いレベルでの介入でもよいとしている。

<毒性の発現した線量について>
●調べた範囲では、放射性ヨウ素および放射性セシウムなど固有の物質のヒトに対する毒性量の値はなく、放射線量の記載しか見当たらなかった。
●例えば、一回の短時間被ばくで受ける線量として、骨髄の造血機能が低下する閾値は0.5Gy(*2)、視力障害が起きる閾値は5.0Gyである。
*2:物質が吸収する線量を示す単位。通常の被ばくでは大体1Gy=1Svとする。

<質疑応答および議論(一部抜粋)>
●(遠山専門委員)確定的な影響を問題にするのではなく、発がんなど確率的な影響を問題とするべきではないか(*3)?食品から普通に口に入るものについては確定的影響が出るわけではないので、次世代への影響を議論に含めるべきだ。
また、放射性物質の食品のリスク評価の結果がなかったということだが、コーデックスから概要が出ている。その前提となっているリスク評価の資料があるのでは?
*3:閾値がないものを確率的影響、閾値があるものを確定的影響という。放射線による健康影響は大きくこの二つに分けられる。
→(中川専門参考人)確定的影響が出るのは250mSv以上であるとされ、こういうレベルが食品に含まれることはない。したがって、発がんリスクのみを見るべきだ。
→(津金専門委員)100mSv以下のレベルでの発がんリスクは今のところあまり分かっていない。基本的には発がんリスクがないレベルで規制値をつくっているということを共通理解としておきたい。
→(小泉委員長)従来のリスク評価では発がんは閾値がないものとして議論してきたが、今回は緊急的なとりまとめであり特別な状況だ。発がんに関するデータを集め、しっかりとリスク評価をするのは時間的に難しい。また、資料13の確定的影響に関するデータは参考であり、ここから評価するというわけではない。
→(坂本氏)遺伝毒性のある発がんリスクについては今回のとりまとめの後に丁寧に評価してもらう。食品のリスク評価の資料は引き続き探すので、委員の方にもご協力いただきたい。

●(杉山専門参考人)健康影響としてがんの話が出ているが、甲状腺がんの情報があまり出ていない。
→(中川氏)甲状腺がんの五年生存率は98%程度。すい臓がんは1%未満。しかし、だからといって甲状腺がんが増えてもいいということはない。甲状腺がんを特別視するなど、そこに立ち入った話はしない方がいい。
→(菅野専門参考人チェルノブイリ事故で子どもの甲状腺がんが非常に増えた。治療できるのは確かだが、子どもが手術を受けることの心理的な影響もあるし、ほかに転移する場合もある。甲状腺がんだから大丈夫とするのはどうだろうか。

●(小泉氏)チェルノブイリ事故で催奇形性の影響はあったか?
→(菅谷氏)動物ではあると聞いている。
→(中川氏)産科婦人科学会も文書を出しているが、胎児に対しては50mSvまでは安全だ。これを考えると、まず確定的影響を考える必要はなく、胎児を特別視しなくてもよいのではないか。

●(中川氏)3月21日にICRPから勧告が出された。公衆被ばくは年間1mSvまでという値を緊急時は上げて、状況が落ち着いたら元に戻すこととされている。こうした場合に、食品による健康影響はどのようになるのかということも考えてはどうか。
→(津金専門委員)ICRP63において、「重大な混乱に陥りそうな状況では」という表記があるが今はこの状況。少なくとも暫定規制値よりも厳しい値になるということはないだろう。

●(小泉氏)ベクレルという単位ではなくシーベルトあるいはグレイという単位を用いることはどうか?
→(滝澤氏)シーベルトが適切だ。国際的には外部被ばくも内部被ばくもシーベルトの単位を用いている。
→(中川氏)今の暫定規制値はベクレルだが、それをシーベルトにするということか?
→(坂本氏)食品の規制値にはリスク管理側が決めた単位を用いる。小泉委員長が言っているのは、リスク評価のとりまとめでの単位のこと。


【とりまとめの構成について】
坂本評価課長から資料14、参考1および2の説明がありました。内容は主に、とりまとめ文書の構成についてです。

<質疑応答および議論(一部抜粋)>
●(遠山氏)文書の中で、ウランなどの核種については触れないのか?
→(山添専門委員)国民が知りたいのは自分たちが安全かどうかだ。まとめで、現在置かれている状況として、ヨウ素セシウム以外の核種についても触れてみてはどうか。
→(坂本氏)まとめ方としては、なぜ今回はヨウ素セシウムを評価の対象としたのかという文言を入れることを考えている。そのほかの核種については今後議論するということも書く。

●(坂本氏)今回はICRPの値を前提としているが、ヨウ素についてはWHOでも出てきている。これについてはどうするか?
→(杉山氏)WHOの値のもととなっているのはICRPだろうが、WHOは権威があるので一緒に考え合わせた方がいいだろう。