食品安全委員会(第374回)‐放射性物質の指標値に関する食品健康影響評価(3)‐

3月28日、第374回の食品安全委員会が行われました。
厚生労働省から放射性物質の指標値に関する食品健康影響評価(リスク評価)の依頼があり、今回はそれに関する四回目の会合です。

前回の傍聴記録(*1)→二回目三回目
*1:一回目の会合の配布資料はこちらで公開されています。


議論のために、7名の委員のほか、13名の専門委員と4名の専門参考人が集まりました。

委員会の配布資料はこちらで見ることができます(机上配布のみのものもあります)。


今回具体的に決まったのは次の二点です。
ヨウ素131については、50mSvの甲状腺等価線量に基づく規制は相当な安全性を見込んでいることに合意。
セシウム134、137については、今回の議論を踏まえて次回、案を出す。


食品安全委員会の仕事は科学的にリスクを評価するまでです。リスク評価が終わったら次のステップとして、厚生労働省がその結果を踏まえて規制値を決めることになります。

次回の開催は3月29日の予定です。


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●傍聴記録
会の始まりに遠山専門委員から小泉委員長に報道に関する質問がありました。
●(遠山専門委員)3月26日の日経新聞朝刊に、「規制値は緩める方向になった」と小泉委員長が発言されたという記事があったが、事実関係はどうか?
→(小泉委員長)前回の会合の後に記者と話はしたが、審議途中であり結論が出たという話はしていない。


【資料1〜4について】
資料1〜4について食品安全委員会坂本評価課長から説明がありました。内容は、コーデックスの基準値の設定根拠と、自然放射の高い地域における住民の健康影響についてです。
世界の平均で年に2.4mSvの自然放射を受けています。この値には地域差が大きく、1mSvのところもあれば13mSvのところもあります。中国やインドには自然放射が高レベルの場所がありますが、こうしたところでも発がんのリスクは増えていないことが分かっています。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(津金専門委員)100mSv以上で発がんのリスクが増えることは分かっている。これは野菜不足や運動不足と大体同じくらいのリスクである。
→(遠山専門委員)100mSvという値は甲状腺がんも含んで全てのがんに対してか?また、一般的には発がんは閾値がないものとしてリスク評価をしてきたので、そのことを考えるのも必要になってくる。
→(津金氏)100mSvは全てのがんに対しての値だ。この値は閾値というわけではなく、がんは「ゼロでなければゼロにならない」といえる。

●(滝澤専門参考人)中国で3.5mSv/年の地域に16年間住んだ人の調査があるが、それによると放射による健康影響はなく、むしろ標準化死亡比(*2)は13%低かった。
*2:年齢構成の異なる集団の死亡率を比較する際に使う指標。
→(吉永専門委員)それは内部被ばくの影響も含んでいると考えてよいか?
→(滝澤氏)外部被ばくとともに、そこで採れた野菜なども食べていた。

●(菅谷専門参考人)発がんのメカニズムを考えると、遺伝子レベルでの変化により細胞ががんに対抗するようなことがある。自然放射が高い地域に住んでいる人だから、ということはないか?
→(津金氏)チェルノブイリ事故が起こった後、周辺のウクライナなどで調査をした結果によると、発がんのリスクの変化はなかった。


【参考資料1〜9について】
坂本評価課長から参考資料1〜9の説明がありました。内容は、とりまとめに用いるデータの参照元についてです。


【緊急とりまとめのたたき台について】
坂本評価課長から資料5「放射性物質に関する緊急とりまとめ(仮称)」の説明がありました。項目は次の8つに分かれています。
・項目1「要請の経緯」
・項目2「基本的考え方」‐今回は現時点で収集できた情報に基づいて極めて短時間のうちに緊急でとりまとめたものである。関係者は通常の状況を想定したものではないことに留意するべきである。
・項目3「対象物質の概要」‐チェルノブイリ事故の際には放射線の主な核種は、事故後60日間はヨウ素131、事故後一年間はセシウム134および137であった。また、今回の事案においてこれまでに農産物などから暫定規制値を超える放射能が検出されているのはヨウ素131とセシウム134および137である。この二種以外の核種については検査が実施されていないため、今後のモニタリング結果を待つ必要のある状況である。しかし、これまでの知見からまずはヨウ素セシウムを対象として検討を行い、緊急的にとりまとめを行うべきだと考えられた。
・項目4「人体影響に関連する情報」
・項目5「暫定規制値の背景」
・項目6「国際機関等の評価」
・項目7「緊急とりまとめ」‐ヨウ素131に関して、年間50mSvの甲状腺等価線量に基づいて規制を行うことについて、相当な安全性を見込んだものであると考えられ、適当である。セシウム134および137に関して、今回検討を行った資料からは低い線量における安全性の情報は十分得られておらず、今後、関連情報を収集した上でリスク評価を行う必要がある。二種類の核種に共通して、妊婦も含めできるだけ放射線への曝露を減らすように関係者は努力するべきである。
・項目8「今後の課題」‐今回は緊急的なとりまとめを行ったものであり、今後改めてリスク評価を行う必要がある。その際には既に評価要請がなされ、緊急とりまとめの対象とはしなかったウランならびにプルトニウム超ウラン元素のα核種の評価や、ヨウ素セシウムも含めた遺伝毒性発がんの詳細な評価などが必要である。

<質疑応答&議論(一部抜粋)>
●(滝澤氏)レムやシーベルト、また、ミリやマイクロなど単位の説明をどこかに入れて欲しい。
→(坂本氏)今回の資料には入れなかったが、最後に説明の資料をつけようと思っている。

●(圓藤専門委員)項目7「緊急とりまとめ」で、この規制値で防げるリスクを挙げてはどうか?
→(山添専門委員)規制値の元にした値は食品の安全のためのものではなく、介入レベルを定めるためのものなので、内容の不一致が起こるのではないか。
→(小泉氏)WHOでも介入レベルでのことしかでてこない。しかし、今回は緊急なので、あるデータでまとめるしかない。
→(坂本氏)Q&Aという形で情報提供をするという方法もある。

●(小泉氏)セシウム134および137について、どのくらいで安全が確保されるかなど、意見があるか?
→(山添氏)セシウムはどの臓器が対象になるかも分かっていない。今後さらに情報収集をして評価するとしか書けないのでは。
→(滝澤氏)ICRPやUNSCEARや科学的な評価を見ている限り、緊急の対策としては年間10〜20mSvに基づいて規制するのが妥当ではないか。
→(林専門委員)ICRPの値を基本としてすすめるのならば10mSvにするのもいいと思う。
→(熊谷委員)ICRPの値にするとしたら、セシウムだけで考えるというわけではないということか?
→(遠山氏)核種の複合的な曝露ということもあるので、熊谷委員の言うように個別の核種ではなく食品全体で考えた方がいいと思う。

●(小泉氏)項目8「今後の課題」について何か意見があるか?
→(菅谷氏)今回根拠としたデータの多くは外部被ばくに関するもの。内部被ばくによる発がんについてはよく分かっていないので、安全性を見込んだ今回の値でいいのではないかと思う。
→(津金氏)内部被ばくの方のリスクが高いということはない、という疫学データがある。課題としては、今回の被ばく者の長期モニタリングを行ってデータを蓄積するということも挙げられる。