食品安全委員会(第375回)‐放射性物質の指標値に関する食品健康影響評価(4)‐

3月29日、第375回の食品安全委員会が行われました。
厚生労働省から放射性物質の指標値に関する食品健康影響評価(リスク評価)の依頼があり、今回はそれに関する五回目の会合です。

前回の傍聴記録(*1)→二回目三回目四回目
*1:一回目の会合の配布資料はこちらで公開されています。


今回の議論には7名の委員のほか、8名の専門委員と6名の専門参考人が参加しました。
配布資料はこちらで見ることができます。


今回の会合で緊急とりまとめが完成しました。ポイントは、
ヨウ素131については、50mSv/年の甲状腺等価線量に基づく規制は相当な安全性を見込んでいると考えられる。
セシウム134、137については、5mSv/年の実効線量に基づく規制はかなり安全性を見込んでいると考えられる。



このとりまとめ結果をもとに、厚生労働省リスク管理機関として規制値を定めることになります。


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●傍聴記録
前回の会合で委員等から出された意見を反映させたたたき台に基づいて議論が行われました。本日中に緊急とりまとめを仕上げるという予定にしたがい、二度の休憩時間を設け、その間に文章の修正が行われました。その結果、次のような緊急とりまとめが完成しました(*2)。
*2:今回は項目7「緊急とりまとめ」中の「放射性セシウム」について特に議論されました。

【緊急とりまとめについて】
・項目1「要請の経緯」
・項目2「基本的考え方」‐今回は現時点で収集できた情報に基づいて極めて短時間のうちに緊急でとりまとめたものである。関係者は通常の状況を想定したものではないことに留意するべきである。
・項目3「対象物質の概要」‐チェルノブイリ事故の際には放射線の主な核種は、事故後60日間はヨウ素131、事故後一年間はセシウム134および137であった。また、今回の事案においてこれまでに農産物などから暫定規制値を超える放射能が検出されているのはヨウ素131とセシウム134および137である。この二種以外の核種については検査が実施されていないため、今後のモニタリング結果を待つ必要のある状況である。しかし、これまでの知見からまずはヨウ素セシウムを対象として検討を行い、緊急的にとりまとめを行うべきだと考えられた。
・項目4「人体影響に関連する情報」
・項目5「暫定規制値の背景」
・項目6「国際機関等の評価」
・項目7「緊急とりまとめ」‐ヨウ素131に関して、年間50mSvの甲状腺等価線量に基づいて規制を行うことについて、食品由来の放射線被ばくを防ぐ上で相当な安全性を見込んだものであると考えられた。
セシウム134および137に関しては、今回検討を行った資料からは低い線量における安全性の情報は十分得られておらず、今後、関連情報を収集した上で詳細なリスク評価を行う必要がある。専門委員および専門参考人からは、10〜20mSvまでの放射線線量であれば特段の健康への影響は考えられない、ICRPにおける10mSvという介入レベルを代用できるのではないかなどという意見が出された。ICRP放射線の分野における国際的な組織でありその提言は一定の根拠を持つ。また、人が定住している自然環境においても10mSv程度の曝露がある地域がある。従って少なくとも放射性セシウムに関しては、実効線量5mSv/年は食品由来の放射線曝露を防ぐ上でかなり安全側にたったものであると考えられた。
二種類の核種に共通して、妊婦も含めできるだけ放射線への曝露を減らすように関係者は努力するべきである。また、リスクコミュニケーションなどにおいては、摂取制限により生じる健康リスクの影響についても適切に対応する必要がある。
・項目8「今後の課題」‐今回は緊急的なとりまとめを行ったものであり、今後改めてリスク評価を行う必要がある。その際には既に評価要請がなされ、緊急とりまとめの対象とはしなかったウランならびにプルトニウム超ウラン元素のα核種の評価や、ヨウ素セシウムも含めた遺伝毒性発がんの詳細な評価などが必要である。
放射性物質に関する緊急とりまとめに係る用語集
・(参考)放射能等の強さを示す単位について‐放射能の単位であるベクレルから生体影響の単位であるシーベルトに換算する際は実効線量係数をかける。原子力安全委員会が示す指針において実効線量係数は、セシウム137は1.3×10^-5、ヨウ素131は1.6×10^-5である。


<質疑応答&委員等からの意見(一部抜粋)>
●(圓藤専門委員)妊婦も含めてできるだけ放射線への曝露を減らすように、といった記述があるが、放射線曝露が少なければそれだけいいということではなく、それによって別のリスクが増えることもあるので、リスク全体として考えるべきだ。
→(津金専門委員)放射性物質を避けるあまりに野菜不足や脱水症状になってしまうということもある。そうしたことは明らかにエビデンスのあるリスクなので、リスクコミュニケーションでも対応してほしい。

●(小泉委員長)一般の方が心配されていることもあり、除染法について入れた方がいいという意見もあったがどう扱うか?
→(畑江委員)今回のとりまとめではなく別の場所で情報提供をする。

●(小泉氏)今回は緊急であるため、通常は行う30日間の国民からの意見募集は行わない。食品安全委員会はこのとりまとめ結果を速やかに厚生労働省に通達することとする。3月22日を第一回目としてこの議題について五回の会合を行った。これだけ活発に委員会を開催しことはかつてなかった。
国民に伝えたいことは、食品中の放射性ヨウ素放射性セシウムについては十分に安全側にたった規制であるということ。
食品安全委員会事務局は全員で情報収集や電話対応、文書作成などにあたり、倒れる人がでるほどの激務であった。しかし、被災者の方のことを考えれば、できるだけ早く結果をとりまとめることが責任であると思った。間違った風評被害に惑わされないようにしてほしい。