厚生労働省、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会‐放射性物質を含む食品の規制について‐

4月4日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会が行われました。
放射性物質を含む食品の規制を議題とし、先日食品安全委員会で出された健康影響評価の緊急とりまとめを受けて規制値をどうするかが話し合われました(*1)。
*1:食品安全委員会での議論の傍聴記録はこちらです。


審議の結果、「食品中の放射性物質に関する当面の所見」が発表されました。

この所見のポイントは、
●現状においては暫定規制値(*2)を維持すべき。
●今後引き続き食品安全委員会によるリスク評価がなされた段階で、改めて見解をとりまとめる。
●国民の安全および安心を高めるために、検査・モニタリング体制の充実、きめ細かい規制の整備、リスクコミュニケーションの拡充などに努めることとする。

*2:暫定規制値は、放射性ヨウ素甲状腺等価線量で50mSv/年、放射性セシウムは実効線量で5mSv/年をもとにしています。


今回の議論には17名の委員のほか(*3)、2名の参考人が参加しました。
*3:委員名簿はこちらの資料の2ページ目と同様です。この内、今回は大澤真木子委員、鈴木豊委員、西内岳委員が欠席しました。


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●傍聴記録
【事務局の説明】
厚生労働省事務局から、食品中の放射性物質の規制、食品安全委員会から出された緊急とりまとめ、食品中の放射性物質の検査結果などについて説明がありました。
4月3日20:00の時点で検査件数は912であり、このうち137件が(暫定)規制値を超過していました。


【山口一郎参考人の発表】
国立保健医療科学院生活環境研究部上席主任研究官の山口一郎氏から、「飲食物摂取制限の考え方」と題した発表がありました。

放射性物質に関する知識>
放射性物質は身近な存在です。放射性ヨウ素放射性セシウム原子力発電所でうまれる人工の放射線ですが、放射性カリウムや放射性ポロニウムは自然の放射線です。
放射性物質の量はベクレル(Bq)という単位で表します。
それに対して、人体への影響はシーベルト(Sv)という単位で表します。シーベルトには等価線量と実効線量という概念があります。等価線量は甲状腺など各臓器の平均線量であり、実効線量は各臓器の等価線量の重みづけ平均をしたものです。


<外部被ばくと内部被ばく>
放射性物質による健康影響は、外部被ばくによるものと内部被ばくによるものがあります。
自然放射線は、日本は全体的に少ない方ですが地域差があります。自然放射線によって私たちは外部被ばくを受けています。また、放射性物質を含む食品や水を摂取する、あるいは空気を吸うと内部被ばくを受けることになります。
摂取した放射性物質の量から実効線量を計算する際には、放射性物質が各臓器にどれだけ集まるかを考えます。それは年齢や物質の化学的な性質に依存しています。また、生物学的半減期も考慮します。
各臓器の平均線量が等価線量となります。さらに、各臓器の等価線量の重みづけ平均をしたものが実効線量となります。


<公衆の飲食物摂取制限の考え方>
飲食物摂取制限は実効線量5mSv/年を超えないように設定されています。ただし、放射性ヨウ素は、甲状腺に特異的に集まりほかの臓器への線量が少ないので、甲状腺等価線量として50mSv/年を超えないように設定されています。また、国際放射線防護委員会(ICRP)の、実効線量10mSv/年にもとづく制限という考え方は考慮に値すると思われます。
5mSv/年のリスクは10^-4レベル(一万人に一人ががんになるレベル)です。年間での交通事故死亡リスクと同程度だと言われますが、実際にリスクがあるかどうかを疫学研究で確認するのは困難です。
5mSv/年が基準となっているのは、トレードオフの結果であるといえます。基準が高すぎるとリスクが大きくなり過ぎ、低すぎると社会に負担を与えることになります。基本は、対策の効果が不利益を上回るべきであるということです。この考え方の結果として5mSv/年が採用されました。

食品の区分ごとに限度線量を割り当てています。放射性ヨウ素甲状腺等価線量50mSv/年の三分の二を食品から摂取するとし、三区分(水、牛乳・乳製品、野菜)にさらに三分の一ずつ割り当てています。放射性セシウムは実効線量5mSv/年(放射性ストロンチウムからの線量も考慮)を食品の五区分(水、牛乳・乳製品、野菜、穀類、肉・卵・魚・その他)に五分の一ずつ割り当てています。

今回の事故は日本において過去最悪の原子力災害であるといえます。制御がまだ十分になされていない状況であり、このことについても考える必要があります。
放射線放射性物質は測定できるので、検査・モニタリング体制が重要であると思います。


【質疑応答&議論(一部抜粋)】
●(明石真言参考人)このことは一般の人に分かりにくいテーマであるがゆえ、怖がるべきものを怖がらず、怖がらなくていいものを怖がるという状況になっている。
放射性物質についていえば、例えば1.1と1.8という濃度の差はあまり意味がない。それよりも10^-5と10^-6など桁に注目してもらった方がいい。
また、発がんの問題が注目されている。自然放射線は避けられないものであり、そこに食品からの被ばくがどれだけあるのかについても理解してもらった方がいいと思う。

●(渡邉治雄委員)基準値には一年間だけでなく、短期間の曝露による健康影響の概念は入れてあるか?
→(明石氏)皮膚に大量の放射線を当てるとやけどするが、何回かに分けると確定的影響の症状は小さくなる。

●(石川広己委員)基準値は食品のことだけを考慮しているのか?
→(明石氏)今回、緊急時ということで作業員の被ばく線量の基準が上げられた。あれは外部被ばくと内部被ばくを合わせている。今現在では足して考えている。

●(石川氏)地域によって受ける線量が違うということを考える必要があるか?
→(明石氏)原発に近い高線量の地域に住み続ける、そしてそこで採れた食べ物を食べ続けるということはない。したがって、地域によって特別な値を設定することはしなくていいのではないかと思う。

●(山本茂貴委員)感受性の大小は考慮されているか?
→(山口氏)されている。
→(明石氏)例えば、被ばくするとリンパ球が減るという影響がある。感受性が高い人でも500mSvからその影響が出る。現在の基準値である5mSvはその百分の一であり、ものすごく低いレベルで規制している。5mSv/年は十分に安全側にとられていると多くの研究者が思っている。
→(大前和幸委員)確率的影響についても十分か?
→(山口氏)食品安全委員会の緊急とりまとめをくつがえすような知見はないと思う。

●(阿南久委員)モニタリングは重要であり、どこをどのような方法で検査するのかを明確にしてほしい。また、規制値にもとづいて出荷制限されているが、県単位ではなく自治体単位で管理していくのはどうだろうか。
→(事務局)モニタリングについては平成14年に出されたマニュアルがあり、検査する食品の優先順位や検査方法が記載されている。昨日までに900程度の検査データが集まったので、特に基準値超過の多かった品目に関しては今後重点的にモニタリングするなど、モニタリング体制の変更はする。出荷制限の単位については現在検討している(*4)。
*4:この会合の後に、市町村単位でも出荷制限を認めるとの発表がありました。詳しくはこちら

●(山内明子委員)今後は環境中や土壌中の放射性物質の影響も気になってくるので、統一的に規制をして欲しい。また、消費者向けの分かりやすいQ&Aを作成して欲しい。

●(毛利資郎委員)福島県の牛肉で規制値超過したけれど、結局は検査ミスだったということがあった。こうした場合は速やかに公表して欲しい。
→(事務局)現在、県と検査機関で検証をしているので、事実が明らかになったらすぐに公表する。


【所見案について】
この後、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会が作成した所見案が配布されました。委員間での議論により、モニタリングとリスクコミュニケーションについてより具体的な文言を入れることになり、最終的な文書が完成しました。

最後に岸玲子分科会長により、近日中に分科会の下に放射性物質に関する部会を立ち上げるとの発表がありました。