厚生労働省、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会、放射性物質対策部会(4月8日)

4月8日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会の放射性物質対策部会の第1回会合が行われました。

先日、食品衛生分科会で食品中の放射性物質に関する規制値について厚生労働省の所見がとりまとめられ、現状では暫定規制値を維持することとされました。
この暫定規制値は、放射性ヨウ素については飲料水および牛乳・乳製品では300Bq/kg、野菜(根菜と芋類をのぞく)では2,000Bq/kg、放射性セシウムについては飲料水および牛乳・乳製品では200Bq/kg、野菜(根菜と芋類をのぞく)と穀類、肉、卵、魚などでは500Bq/kgというものです。

所見がとりまとめられた日の午後に、魚介類中に放射性ヨウ素の検出が報告されました。
魚介類中の放射性ヨウ素の暫定規制値はなかったので、野菜類中の放射性ヨウ素の暫定規制値2,000Bq/kgを準用することになりました。同時に、今回新たに設置した放射性物質対策部会(*)の第1回会合で早急に審議することになりました。
*1:少しややこしいのですが、食品衛生分科会の下に、放射性物質を専門に審議する会としてこの部会が作られました。


審議の結果、「魚介類中の放射性ヨウ素に関する当面の所見」が発表されました。

この所見のポイントは、
●魚介類中の放射性ヨウ素について、暫定規制値である2,000Bq/kgを維持するべき。
●検査・モニタリング体制の充実、きめ細かい規制の整備、リスクコミュニケーションの拡充などに努める。


当日の配布資料はこちらで見られます。

審議には6名の委員のほか、2名の参考人が参加しました(委員名簿はこちら)。


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●傍聴記録
第1回会合ということで、部会長と部会長代理の選出が行われました。部会長は山本茂貴委員、部会長代理は明石真言委員に決定しました。

【事務局の説明】
厚生労働省事務局から、食品中の放射性物質の規制、食品安全委員会から出された緊急とりまとめ、食品中の放射性物質の検査結果などについて説明がありました。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(山本茂貴部会長)放射性ヨウ素について、甲状腺線量50mSv/年の2/3を食品の3カテゴリー(水、牛乳・乳製品、野菜類)からの摂取として割り当てるということだったが、今回は残りの1/3を使ったということか?
→(事務局)1/3は3カテゴリー以外の食品からの摂取として想定したものであり、50mSv/年の1/3は留保されていた分である。

●(阿南久委員)今も放射性物質は放出されているので、半減期があってもどんどんと補充されているような状況ということか?
→(山口一郎委員)規制値にそうしたことは考慮されていないので、放出量とあわせて考えることになる。


【青野辰雄参考人の発表】
独立行政法人放射線医学総合研究所放射線防護研究センター運営企画ユニット防護ネットワーク推進室調査役の青野辰雄氏から、「海洋における放射性物質について」と題した発表がありました。資料はこちらです。

<海洋における物質の挙動について>
物質は河川からの流入や大気からの降下によって海に入ってきます。
生物的要因(植物プランクトン、動物プランクトン、魚介類など)や物理的要因(水平方向の移動、拡散、上下の混合、湧昇流など)によって物質の挙動は左右され、複雑です。また、その挙動は元素や存在状態で異なります。
セシウムは海洋中でセシウムイオンとして存在し、表層から下層までは一定の分布をしています。ヨウ素ヨウ素イオンとして表層で高い濃度で分布し、ヨウ素酸イオンとしては表層でわずかに少ないがほぼ一定の分布をしています。
海洋での物質の拡散は、海流や風向き、風速、海底地形などが主な要因です。福島第一原子力発電所がある場所は複雑な海流になっています。

<海産生物濃縮‐水槽実験の結果から‐>
水槽実験の結果によると、大きい魚より小さい魚の方がセシウム137の取り込み速度は早いということが分かりました。
魚の体内に取り込まれた放射性物質代謝により排出されます。放射性物質の魚への取り込みは、環境要因(pH、塩分濃度、明暗など)、魚の性質、食性の違いなどが寄与すると考えられています。
また、セシウム137はエサと海水から摂取され、砂や泥の影響は小さいことが分かりました。高濃度の放射性物質を含む海水に触れても、体内への濃縮はすぐに起こるのではなく時間を要することが分かりました。

<海産生物の濃縮係数について>
海の生物への元素や核種の移行や蓄積は濃縮係数(*2)が用いられます。
*2:濃縮係数は、生物中の元素の濃度が、生育環境である周囲の水と比較してどの程度濃いかを示すもの。
日本沿岸における海産生物の濃縮係数はばらつきが大きく、同一種あっても最大値と最小値に100-1,000倍の違いがみられました。例えば、魚類中のセシウム137の調査結果によると、濃縮係数の最大値は147で最小値は23でした(試料数は12)。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(森田貴己参考人)一般的に水銀やPCBといった汚染物質は体内に蓄積をする。しかし、放射性ヨウ素セシウムは一時的に濃度が上がっても排出されていく。なので、食物連鎖で、マグロといった大きな魚にたまっていくということはない。海水中の濃度が下がれば時間の経過とともに魚の体内濃度も下がっていく。
海の魚は海水を飲んでエラから余計な塩分などを排出する。このとき放射性物質も一緒に出す。一方で、淡水魚は塩分などを排出しないので、放射性物質も出にくくなる。スリーマイルの事故の際に問題になったのは淡水の方だった。ただし、海水魚よりは速度は遅いけど、排出はする。放射性セシウムの生物的半減期は、海水魚では50日、淡水魚では200日程度だ。水産庁では、福島や茨城で、淡水魚の養殖の際に与えるエサに最大限気をつけるように指導を行っている。

●(山口氏)ストロンチウムの濃縮係数はどのくらいか?
→(森田氏)ストロンチウムの濃縮係数は低い。ただ、分析結果を早く出すことが必要だ。
→(青野氏)ストロンチウムは骨にたまるという特徴があるので、実際に食べる部分の摂取としては少なくなる。

●(山本部会長)2,000Bq/kgという暫定規制値についてはどうか?
→(山口氏)当面はそれでいいと思う。
→(高橋知之委員)まず規制値を設定し、同時に様々なデータを早急に集めることが必要。そして、データを分析した結果によっては必要であれば規制値を設定し直すというのがいいと思う。そのためには、データを分析するワーキングのようなものを立ち上げて欲しい。


【所見案について】
この後、放射性物質対策部会が作成した所見案が配布されました。委員間での議論により、きめ細やかな規制を整備する旨と、モニタリングのデータを継続的に分析する旨の文言を入れることになり、最終的な文書が完成しました。


最後に、会に出席していた大塚耕平副大臣から次のようなコメントがありました。
●(大塚耕平副大臣)人も検査機もあらゆるリソースをこの震災や事故に対して費やさなくてはならない。予見できないデータが出ることがあるかもしれないが、冷静な動きをしてもらいたいと思う。現時点で得られている科学的知見で安全だということを理解することが、風評被害を防ぎ国民の健康を守ることに繋がる。