第四回栄養成分表示検討会(消費者庁)

4月22日、消費者庁栄養成分表示検討会(*1)の第四回が行われました。
*1:現在、日本では栄養成分表示は任意ですが、本検討会で今年の夏をめどに義務化の検討を含めた議論を行うことになっています。

以前の検討会の傍聴記録はこちら→第一回第二回第三回


本検討会は15名の委員で構成されており、今回は全ての委員が出席しました。
配布資料は消費者庁サイトに掲載されています。


今回は論点整理のために、6委員より(*2)、栄養成分表示の運用状況と実効性に関する講義が行われました。
*2:清水俊雄氏(名古屋文理大学教授)、塩谷茂氏(財団法人食品産業センター技術環境部長)、仲谷正員氏(日本チェーンストア協会食品委員会委員)、鬼武一夫氏(日本生活協同組合連合会組織推進本部安全政策推進室長)、渡部浩文氏(東京都福祉保健局健康安全部食品医薬品情報担当課長)、浜野弘昭氏(特定非営利活動法人国際生命科学研究機構特別顧問前事務局長)


各委員の講義の後、主に以下の点について議論が行われました。
●任意のままにするか義務にするか。義務化するならその意義について。
●分析値と計算値の違いについて。
●どの栄養成分を優先するかについて。


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【清水氏による発表】
資料1「栄養表示制度の海外の研究事例〜Consumer Scienceを踏まえて〜」
EUでは、2008〜2011年の期間にConsumer Scienceのプロジェクトを行っている。バルカン半島における調査で約3億円の予算がついている。果物・栄養のバランスや健康・栄養表示食品、オーガニック、伝統食品について調査をしている。
食品表示に対する消費者行動に関する研究論文は2004年頃から増加しているが、欧米で約9割を占めており、194件中、日本はわずか1件(本検討会の委員である赤松利恵氏によるもの)にすぎない。
・栄養表示に対する消費者行動に関する研究論文120件をレビューした結果、いくつかの傾向が明らかになった。例えば、家族数が多いほど、子どもの数が多いほど栄養表示を利用する、食事指針に関心がある人は栄養表示をよく利用する、売り場で過ごす時間が長い人は栄養表示をより利用している、一般的消費者は簡潔な表現を望んでいる、などといったことがある。
・オーストラリアで表示の受け入れやすさと有効性に関する消費者テストが行われている。スーパーに訪れる18歳以上の消費者790人を対象に、3種類の食品(シリアル、スナック、冷凍食品)に4タイプの栄養表示をつけて、どの表示が正しく理解されやすいかを調査した。その結果によると、裏面の義務表示より表面の簡略表示の方が見やすい、簡略表示は信号表示が見やすい、栄養成分を正しく理解するには信号表示+総合スコア表示がよい、といったことが明らかになった。
FDAの2005年の調査報告によると、健康表示の科学的根拠のレベルが高いほど消費者の製品に対する信頼度は高くなった。それに対して、「健康表示の科学的根拠のレベルは非常に低い」という表示は何も表示がないよりも信頼度は低くなった。
・日本で2010年に行われたトクホの注意表示に対する消費者206人の理解度に関する調査結果を検証した。約9割の人は注意表示を正しく理解していたが、誤解している人もいた。例えば、「食生活は主食、主菜、副菜を基本に栄養バランスを」という注意表示に対して、11%の人が「この製品を食べれば食事のバランスがよくなる」という意味だと誤解した。
・消費者が栄養表示を完全に理解することは難しいので、理解度の最大化を目指すために、啓もう活動を行う、オピニオンリーダーを育成することが展望として挙げられる。


【塩谷氏による発表】
資料2「事業者の栄養成分表示制度の活用状況と『義務化』への課題・問題点」
・平成22年度に食品企業255社の取り組み状況をアンケート調査した(回答率は49%)。
・調査結果によると、大企業および中小企業(従業員300人以下または資本金3億円以下のいずれかに該当)の多くが自社ホームページ、容器包装等に表示の手段で情報提供していた。
・栄養成分に関しては、大企業のほぼ全てが、中小企業の約7割が情報提供していた。栄養表示が義務化された場合、表示可能な商品は大企業で約3割、中小企業で約2割にとどまった。この二つの結果のかい離から、企業の多くは栄養成分に関して積極的に情報提供しているものの、一部の商品のみになされていることが示唆される。
・栄養表示が義務化された場合に表示できる成分として、大企業および中小企業の多くが「熱量・たんぱく質・脂質・炭水化物」を挙げていた。
・栄養表示が義務化にともなう主な課題として、分析コストの増加、表示の分かりやすさ(表示スペースの限定など)、数値の担保(原料や配合の変更、同一製品間でのばらつき)が挙げられる。
・栄養表示をするためには、必ずしも製品の栄養成分を分析しなければならないというわけではない。日本食品標準成分表を用いて得られた計算上の値を記載してもよい。ただし、その値と実際に分析して得られる値とが誤差の許容範囲を超えた場合は、不適正な表示となる。
・食品製造業の出荷額の約7割が中小企業であり、従業員4〜9人がもっとも多い。


【仲谷氏による発表】
資料3「栄養成分表示制度の運用〜制度の実効性について〜」
・協会会員企業の自主ブランドでは、加工食品のほとんどに栄養表示がある。生鮮食品への栄養表示は少ないが、パンフレットなどで栄養情報を提供する取り組みがみられる。弁当・惣菜については、カロリーや栄養成分をPOPなども活用しながら表示するよう努めることをすすめている。ただし、店内加工の弁当・惣菜については栄養表示がないものが多い。
・海外では自主的な取り組みとして、栄養表示の包装表面(FoP)への記載が目立つ。
千葉市のある店舗における来店客アンケート調査の結果によると、注意している食品表示として来店客の16%が栄養成分を挙げた(もっとも多いのは賞味期限で70%)。参考にしている栄養成分は熱量がもっとも多く71%、次がナトリウムで50%だった。また、栄養表示の記載が期待される食品カテゴリーは、弁当・惣菜がもっとも多く71%だった。
・弁当・惣菜の栄養成分値は分析値と計算値、そして個体間でばらつきが大きい。
・特定の企業に過度の負担とならないよう、容易に栄養表示が可能となる制度を検討したい。また、分析値の担保が難しい生鮮食品や弁当・惣菜などにも表示が促進されるよう基準の見直しを行うべきである。


【鬼武氏による発表】
資料4「日本生協連の栄養成分表示についての取り組み」
日本生協連では、加工食品には可能な限り栄養表示を行っている。2011年4月1日現在に販売されている3,569品中、栄養表示をしているのは88.7%。表示をしている栄養成分は、5成分(熱量・たんぱく質・脂質・炭水化物)のほか食塩相当量と糖類を必須としている。
・魚肉加工品や食肉製品など、部位や個体によって脂質の量に差が出る製品では一定の栄養表示を行うことが難しいので、日本生協連では栄養表示を行っていない。
・以前の日本生協連の栄養表示では、各栄養成分について、日本人の摂取目安量に対する割合を%や棒グラフで表示していた。しかし、2004年に発表された「日本人の食事摂取基準(2005年版)」で、「エネルギー及び栄養素の真の望ましい摂取量は個人によって異なり、また個人内においても変動する」という前提が示されたことにともなって、日本生協連において%やグラフ表示はしないことになった。
・日本ではサービングサイズの認知度が低く、実際に組合員からも「食べる量を決めて欲しくない」といった意見をもらう。サービングサイズや一食量の設定が必要か、可能かどうかの議論は重要である。
・栄養表示の目的を明確にし、食生活でどのように活用するかといった議論が必要である。いきなり義務化にするのではなく、段階的な施行と検証を組み合わせるアプローチがよい。
・栄養表示が既に義務化されている国において、表示の活用法や実効性、どのような見直しがされているのかについて調査し、それにもとづいて検討することが必要である。


【渡部氏による発表】
資料5「自治体における栄養表示基準制度の運用の実際」
・食品の容器包装や添付文書に栄養表示をする場合は、栄養表示基準に従った表示をしなくてはならない。そのために、東京都では監視指導を行っている。実務をしているのは保健所であり、食品の販売施設などへの立ち入り検査や食品の収去検査を行っている。
・食品の収去検査は、都の保健所で年二回行っている。特別用途食品、栄養表示された食品、栄養機能食品を収去し、各製品の栄養成分の分析をしている(平成22年度は計55品目)。検査の結果、不適正な表示が発見されたのは約3割。そのうち栄養成分の含有量表示にかかわるものが約1割だった。全体の傾向としては、分析値が示されている製品は概して表示の値の信頼性が高かった。
・東京都という大きな自治体でも監視体制は限定的なので、今後栄養表示が義務化された場合、各自治体でどこまでできるのかはよく考えていかなければならない。


【浜野氏による発表】
資料6「コーデックス『栄養表示ガイドライン』の改定に関する討議の経緯」
・WHOは2004年に「食事、運動と健康に関する世界戦略」を発表した。これにともない、コーデックスは作業部会を設置し、栄養表示ガイドラインおよび包装食品の表示一般規格の改訂を検討した。論点は、栄養表示の義務化について、必須栄養成分の拡大について、栄養表示の形式についてなどである。
・必須栄養成分について、コレステロールはWHO世界戦略で特に言及されておらず、また、心血管疾患との関連についても議論の余地があったので、検討リストから削除した。トランス脂肪酸は、各国の摂取状況やレベルに応じてその表示を検討すべきであるとしたが、コーデックスとしては取り上げていない。
・添加した糖類は食品構成成分としての糖類と区別して分析できないので、WHOでは「糖類」と表示することを推奨している。また、食物繊維についてはWHOでは特に取り上げておらず、対応は国ごとでよいとしている。
栄養表示の義務化について、コストとベネフィットを挙げている。コストは、消費者にとっては価格転嫁と情報の理解力が求められる、政府にとってはインフラ・人員の増加や食品成分表といったデータベースの充実など、産業界にとっては表示コストの上昇がある。ベネフィットは、消費者にとっては選択のための情報や健康な食生活への貢献、政府にとっては健康な食生活への支援や医療費の削減、産業界にとっては消費者の信頼や製品の差別化がある。
・栄養表示の形式について、表示形式(数値表示、表形式)、表示する栄養成分の順序、表示の大きさやフォント、見やすさ、表示単位の原則を討議した。EUにおける栄養表示案では、熱量のあとに脂肪がきている。情報は大切だけど、多すぎると消費者は読まなくなるので、必要のあるものだけにするべきだというコメントが出されている。

<質疑応答>
・(蒲生恵美氏)栄養表示の政府のベネフィットで挙げられていた医療費の削減というのは、実例があるか?
→(浜野氏)実例ではなく、可能性という意味だと思う。
→(坂本元子座長)アメリカでfat freeのケーキを作ったらどんどんと肥満が増えたということがある。栄養表示は意図したように使われないこともある。


【事務局による説明】
消費者庁事務局より、参考資料「日本食品標準成分表2010の概要」の説明がありました。


【全体の議論(一部抜粋)】
・(坂本座長)何を優先して考えるか?
→(飛田恵理子氏)分析値と計算値の違いが重要であると思う。成分表に依存しすぎると難しい問題が出てくる。
→(坂本座長)分析値にも計算値にもばらつきはある。どちらの方が信頼できるか?
→(仲谷氏)どちらが信頼できるかではなく、表示している値と実際の値がある程度の誤差におさまっていることが重要だ。定期的にモニタリングをすることでそれを担保する。

・(浜野氏)加工食品の7,8割は栄養表示がされているのに、なぜ義務化しなくてはならないのか。
弁当に表示をすることは難しいが、一方では弁当の情報を欲しがる消費者が多いという結果があった。消費者は脂肪が多いかどうかという目安が欲しいのだと思う。目安なら可能だが、罰則を設けてその範囲の中におさめるというのは難しい。消費者にもそのことを分かってもらうことが必要だ。そのために、賢い消費者をつくるということが優先順位だと思う。消費者ともっとコミュニケーションすることが重要だ。

・(塩谷氏)7,8割に栄養表示がされているということだったが、地方の特産物などにはほとんどされていない。7,8割という方をプラットフォームにして議論するとバイアスが生じるのではないだろうか。
→(消費者庁)そのデータは量販店での調査結果であり、地方の状況に関するデータは今持っていない。

・(山根香織氏)消費者は様々いるのでできるだけ広い情報を提供してもらいたい。また、日本人に本当に必要な栄養成分について、医学的な根拠を示して欲しい。
→(坂本座長)EUの栄養表示では熱量の次に脂肪がきている。この並び順は国によって大きく異なる。
→(蒲生氏)栄養表示は健康増進が目的なので、国によって異なる。国民に認知してもらうべきものが優先され、表示全体で健康増進が目指せるようなものがよい。
→(山田和彦氏)現在の日本の栄養表示を土台にして、それにプラスアルファするかマイナスアルファにするかを議論するのかが現実的だ。任意のままにするなら国民へのアピール、義務にするならモニタリング体制の整備が必要となる。
→(徳留信寛氏)目的は国民の健康増進だ。必須最小限を義務化にしたらいいというのが個人の意見。しかし、全てに分析値を求めると中小企業は対応できない。計算値でもいいものを残しておいた方がよい。また、義務化について考える場合は費用対効果を考える必要がある。

・(蒲生氏)栄養表示をすることのコストは具体的だけどベネフィットは見えづらい。EUバルカン半島のプロジェクトの報告が今後出るということだったので、義務化ありきではなく段階的にくんでいくのがいいのではないかと思う。


【今後のスケジュール】
消費者庁事務局より、資料7「今後のスケジュール(案)」の説明がありました。
次回は5月18日に開催されます。栄養表示の位置づけや表示が必要な栄養成分について、また、誰のための栄養表示なのかについても整理して議論される予定です。
そのほか、渡部氏より、既に栄養表示が義務化されている国でどのように実効性を担保しているのかを示して欲しいという提案がありました。


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(傍聴した感想)
毎回たっぷりの時間をとって開催される栄養成分表示検討会。今回が第四回で、最終的には第八回(7月下旬)で報告書のとりまとめがなされる予定です。
栄養表示を義務化するのか任意のままにするのか、ニュースで話題性のあるトランス脂肪酸はどのような扱いになるのか、そして、栄養表示の実効性をどのように上げるのかが注目されます。
会合のたびに、栄養表示の目的が委員間で確認されています。目的は「国民の健康増進に資するために」というものです。海外での栄養表示の現状を確認することは、栄養表示の実効性を確認する上で必要ですが、どの栄養成分を表示するかは国によって異なります。日本人の健康増進のためにどの栄養成分が重要であるかは、疫学調査などきちんとしたデータにもとづいて判断する必要があります。
消費者としてできるだけ広い情報が提供されていると安心する、というのはあるかもしれません。しかし、その分メーカーにも行政にも大きなコストが強いられることになります。そして、そのコストは当たり前のように消費者に跳ね返ってくるものです。これまでの検討会では、この最後の部分はあまり触れられていません。(触れないようにしている!?)