食品安全委員会‐放射性物質の食品健康影響評価に関するWG(第二回)‐

4月28日、食品安全委員会放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループの第二回会合が開催されました。

第一回会合の傍聴記録はこちらです。

今回の議論には7名の専門委員、8名の専門参考人と7名の委員が参加しました。(欠席者は専門委員である圓藤吟史氏、川村孝氏、佐藤洋氏、林真氏、村田勝敬氏、吉永淳氏。)
配布資料はこちらで見ることができます。


今回の会合では、東北大学大学院工学研究科教授である岩崎智彦専門参考人と者団法人日本アイソトープ協会常務理事である佐々木康人専門参考人による講義が行われ、その後に質疑応答および議論が行われました。今回決められた主な点は次の通りです。
●迅速にとりまとめを行うため、委員はアルファ核種とベータ核種の二グループに分かれ、平行して文書を作成する。
●評価結果は基本的には緊急時と平常時どちらでも使えるようなものとする。
●評価は食品摂取による内部被ばくのみを考える。


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●傍聴記録
【岩崎智彦専門参考人の講義】
岩崎智彦専門参考人から、資料1「原子炉の使用済燃料中に含まれる核種」に関する講義がありました。

<原子炉の中でどのような核種が出るのか>
使用済ウラン燃料中に含まれる核種は、アクチノイド核分裂生成物に大きく分けられます。アクチノイドは、ウランを起点にして中性子を吸収してできたもので、ウランよりも重くなっています。核分裂生成物はウランが分裂してできるもので、重さはウランの半分くらいです。
アクチノイドは5種くらいあり、もっとも量が多いのはプルトニウムです。核分裂生成物は20〜30種くらいあり、プルトニウムと同程度多いのはストロンチウムイットリウムセシウムなど10種くらいあります。

福島第一原発チェルノブイリ事故の違い>
福島第一原発では、燃料から生成されたものが水に溶け込んで放出されています。なので、水にどの程度溶けているかが論点となります。
核種の水への溶け込み方はアクチノイド核分裂生成物で異なります。アクチノイドは酸化物であり、水に溶けにくくなっています。そのためプルトニウムは外に出にくいと思われます。一方で核分裂生成物は元素のままで存在し、ヨウ素セシウムのように融点と沸点が低いものは水に溶け込みやすくなります。

チェルノブイリとの違いは、原子炉に黒鉛を使っているかどうかです。チェルノブイリでは黒鉛が使われていたため爆発と火災が起こり、核種が放出されました。この点で、福島第一原発は水に溶け込んで放出していますので、異なります。

プルトニウムにどのような可能性があるか>
プルトニウムは水に溶けないので、今回の場合は非常に外に出にくいだろうと思います。
ただし、環境中にわずかながらプルトニウムがあることはモニタリングで分かっています。それが昔の核実験のフォールアウトによるものなのか、今回の事故によるものなのかは明らかではありません。
重要なのは、ヨウ素セシウムはガンマ放射体なのに対し、プルトニウムはアルファ放射体なので、検出が容易であるということです。従って、検出されていない≒出ていないと言えると思います。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(遠山千春専門委員)一部で格納容器が破損しているという話もあるが、その場合でもプルトニウムは外に出にくいか?
→(岩崎氏)号機で状態は異なるが、燃料は外にさらされていない。ゼロではないかもしれないが、大量に放出していることはないと思う。
→(滝澤行雄専門参考人チェルノブイリ事故では、プルトニウムとアメニシウムは原発の30km圏内でしか検出されなかった。

●(山添康座長)冷却のために水の代わりに海水を注入したが、その影響は何か考えられるか?
→(岩崎氏)核種の溶けやすさは違うだろうが、基本的には影響はないと思う。

●(小泉直子委員長)今後福島第一原発はどうなるか?
→(岩崎氏)自分の専門から言えば、現象は既に終わっている。これから核爆発するとか炉心溶解するというのは原子炉的にはない。水がなくなったときにどうなるか、化学的な問題になってくる。


【佐々木康人専門参考人の講義】
佐々木康人専門参考人から、資料2「放射線防護の体系‐ICRP2007年勧告を中心に-」に関する講義がありました。

<国際的な放射線防護の枠組み>
科学的根拠をもとにしてUNSCEAR(国連科学委員会)報告書が作成されています。
ICRP勧告(最新は2007年のもの)はこの報告書がもとになっており、さらにIAEAの基準はICRP勧告をもとにしています。各国はICRP勧告やIAEAの基準をもとに国内規制を策定しています。

放射線被ばくによる影響>
確定的影響は1Gy(ほぼ1Sv)から出ると言われ、それぞれの症状について閾値があります。
確率的影響は発がんに関するもので、こちらは10年後など遅くに影響が出るものです。100mSv以上の被ばくで直線的に発がんリスクが上がるとされています。それ以下では線量による有意な影響は見られていないのですが、放射線防護の観点では影響があるものと仮定しています。例えば、1mSvの慢性的な被ばくで0.005%の発がんリスクの増加があるとされています。

平常時の公衆被ばくの線量限度は年間1mSvで、職業被ばくの線量限度は五年間100mSvです。
この限度は、安全/危険の境界を示す線量ではなく、被ばくのリスクをどこまで社会が受け入られるかの目安です。
医療被ばくについては、患者に被ばくリスク以上のメリットがあるため、線量限度には含めていません。

<最適化について>
2007年のICRP勧告で重視された概念に最適化があります。最適化とは、線量限度などを参考に、できるだけ被ばくを少なくするように常に努力するという考え方(ALARA)です。
この考えにもとづき、平常時は確率的影響をできるだけ抑えるために放射線防護しています。
緊急時の防護は2,000mSv(=2Sv)以上で起こる重篤な身体的影響を回避することを目的にしています。作業者は100mSvを超えないように防護しますが、場合によっては500mSv、1,000mSvに引き上げられることがあります。また、救護をしなくてはならない状況で、本人が十分納得できる場合は「線量限度を設けない」という言い方がされることがあります。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(遠山氏)世界の高線量地域は年間100mSvだということだが、そこでの疫学調査はあるか?
→(佐々木氏)影響はないという調査結果がある。フランスの科学アカデミーなどは100mSv以下に発がんの閾値があるとしているが、現在の防護の観点では閾値なしモデルを採用している。


食品安全委員会事務局の説明】
食品安全委員会事務局から、資料3〜8に関する説明がありました(一部机上配布のみのものもあり)。
内容はおもに、評価とりまとめの骨子についてと、参考文献についてです。評価とりまとめの骨子案は、前回の会合で提出されたものに項目3(6)として「動物への影響」が追加されています。

<質疑応答および議論(一部抜粋)>
●(吉田緑専門委員)ウランとプルトニウムの曝露量は少ないであろうということだったが、それでも高濃度の毒性を評価するか?
→(山添座長)厚生労働省からの諮問を受けてのことなので、そのようにやる。
→(中川恵一専門参考人プルトニウムが事実上出てこないだろうというのは多くの人のコンセンサスとしてある。しかし、ストロンチウムも出てくるだろうというのも多くの人のコンセンサスだ。なので、ストロンチウムが評価対象になっていないのは違和感がある。
→(山添座長)ストロンチウムはデータを集めてから評価する予定だ。

●(山添座長)できるだけ早くとりまとめたいので、ウランやプルトニウムなどのアルファ核種と、ヨウ素などのベータ核種を先生方で分担し、平行して進めたい。議論は全員で行う。アルファ核種は佐藤洋専門委員、ベータ核種は遠山千春専門委員にまとめ役をお願いする。5月中には核種の精査を終えてたたき台を作りたい。
また、基本的には平常時、緊急時どちらも使えるように、食品からの摂取について評価する。

●(寺尾充男専門参考人)一から評価するのか、国際的な規制を精査するのか?
→(山添座長)食品からの摂取について、過去の文献をまとめ直す。食品からの摂取は明確に評価されていないので、これまでの評価でいいのかを考える。
→(寺尾氏)食品からの摂取に関するデータはあるか?
→(山添座長)データがなければ、食品からの摂取について、どこで安全性を担保できるのかを考える。

●(遠山氏)緊急時は外部被ばくも大きくなる。今回は経口摂取のみで議論してもいいのか?
→(山添座長)まず食品からの摂取を評価する。その後、リスク管理機関は外部被ばくも合わせて、どのように規制するのかを決める。

●(山添座長)低線量被ばくについてはどのように考えるか?
→(遠山氏)低線量でも直線的な傾向があるとされていることもあり、きちんとその部分を精査してどのような観点でやるのかを全体で議論した方がいい。
→(中川氏)どのような観点でやるのか、とりまとめ冒頭で述べることが大切だ。また、セシウムはキノコやシダに濃縮するというのは有名な話で、このこともとりまとめに含めてほしい。

●(食品安全委員会事務局)とりまとめ骨子についてはこれでよいか?
→(遠山氏)項目3(7)に、脳への影響など、ほかの影響もあれば含める。


次回は5月12日にアルファ核種について、その次は5月25日にベータ核種について議論される予定です。


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(傍聴した感想)
前回の会合で話された三点、(1)評価のケースは緊急時か平常時か、(2)遺伝毒性の発がんモデルは閾値ありか閾値なしか、(3)食品とその他からの被ばくをどのように切り分けるか、のうちの二点が今回ひとまず決まりました。評価のケースは緊急時と平常時どちらも使えるようにするということと、評価では食品摂取による内部被ばくのみを考えるということです。
これで議論の方向性は大方決まりました。委員はこれから、事務局が収集した大量の文献(400本近く)を精査し、中身に踏み込んだ議論を始めることになります。発がんを閾値ありモデルにするか閾値なしモデルにするかについては、文献を精査し、これまでの国内外の調査研究の全体像を把握してから議論されることになると思います。
連休中には腸管出血性大腸菌による食中毒も発生しました。規制があるから大丈夫だ、ということと、自己防衛しなくてはいけないこと。食の安全については二つあるかと思います。食中毒については前者と後者が半分ずつ。食品中放射性物質については残留農薬食品添加物と同じく、前者がほとんどの役割を果たすことになります。