厚生労働省、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会、放射性物質対策部会(5月13日)

5月13日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会の放射性物質対策部会の第2回会合が行われました。


今回の会合では、京都大学准教授である高橋知之委員と独立行政法人日本原子力研究開発機構東海研究開発センター核燃料サイクル工学研究所放射線管理部線量計測課研究副主幹である栗原治専門参考人による発表の後、短期的および中長期的(*1)にどのような検討課題があるのかが話し合われました。
*1:短期的課題は現在、食品安全委員会で行われている食品健康影響評価と並行してやるべきこと。中期的課題はその評価後も見越したこと。長期的課題は一年以上先のこと。


今回決まった主な点は、
●短期的な課題:規制値が守られているならそれをどのようにアピールするか、モニタリングを行っていることをどのようにアピールするか、加工食品の規制値はどうするか、セシウムストロンチウムの比を検討する
●中長期的な課題:お茶や乾物の規制値はどうするか、加工によって濃縮する食品はあるか、規制値を設定する上で食品分類をどう扱うか、長期的な規制値はどうするか、検査体制の整備、データの公開方法

当日の配布資料はこちらで見られます。6名の委員のほか、1名の専門参考人が参加しました。


<傍聴した感想>
現在、食品安全委員会で食品中の放射性物質の健康影響について、科学的なリスク評価が行われており、「どの程度までなら健康影響がないか?」などが話し合われています。食品安全委員会で審議されるのは「食品中の」健康影響なので、内部被ばくに焦点を当てていることになります。
実際には、内部被ばくだけでなく、外部被ばくも合わせて考える必要があります。また、社会全体への影響も考える必要があります。例えば、合理的ではないほどの厳しい規制値を設定した場合、産業へ復旧できないほどの影響を及ぼす可能性もあります。厚生労働省では、これらのことを考え合わせた食品の規制値を設定することになります。そのベースにあるのが食品安全委員会のリスク評価なのです。
今回の会合では、厚生労働省の部会において短期的および中長期的にやるべき課題が検討され、中長期的な課題のひとつとして、食品分類の扱いをどうするかということが挙げられました。例えば、お茶は抽出して飲むので、乾燥した状態の茶葉の規制値では厳しすぎるかもしれない、という話が出てきました。筆者自身は、口に入る状態の濃度で健康影響のないレベルであれば、食品分類によって規制値を緩くする(あるいは厳しくする)ことはいいのではないかと思っています。ただし、そうしたルールにする場合は、混乱を招かないような丁寧な情報提供が伴われるべきだと感じています。


***


●傍聴記録
【高橋知之委員の発表】
京都大学准教授である高橋知之委員から、被ばく線量の評価手法や放射性核種の移行経路に関する発表がありました。資料はこちらです。

<被ばく線量の評価手法>
被ばく線量を評価する方法には、直接的なものと間接的なものがあります。
直接的方法では、環境中の放射線量の測定結果から被ばく線量を評価します。間接的方法では、放出源情報(原発施設からの放出量や農耕地の土壌中濃度など)から、環境中や飲食物中の放射性物質濃度を推定し、被ばく線量を評価します。

<放射性核種の移行経路>
放射性物質は大気や河川、地下水、海水などを介して移行します。この流れは、空間スケールおよび時間スケールの差異があり、非常に複雑になっています。
事故の初期は、放射性核種は放出源から大気中に拡散し、外部被ばくにつながります。その後は、大気から沈着し、土壌や水、植物中を移行し、内部被ばくにつながります。現在はこちらが被ばく経路のメインとなっています。
現在、ヨウ素131とセシウム137の放出量は少なくなっています。特に放射性ヨウ素半減期は8日なので、環境中での濃度も低くなっていると考えられます。
土壌を分析したところ、ストロンチウムの濃度は低く、プルトニウムはほとんど検出されていません。
海水を分析したところ、サンプリングポイントにおいて放射性ヨウ素放射性セシウムの濃度は低くなっていますが、海の中を拡散しているので、各所でモニタリングしてどのような流れがあるのかをしっかりと吟味する必要があります。


【栗原治専門参考人の発表】
独立行政法人日本原子力研究開発機構東海研究開発センター核燃料サイクル工学研究所放射線管理部線量計測課研究副主幹である栗原治専門参考人から、「国際放射線防護委員会の放射性核種の体内摂取に伴う線量評価モデルについて」と題した発表がありました。資料はこちらです。

<内部被ばく線量の評価モデル>
内部被ばくとは、放射性物質を吸ったり口に入れたりすることで体内に取り込まれ起こる被ばくのことです。内部被ばく線量は、放射性物質の摂取量を測った後、預託線量として評価します。預託線量とは、体内に入った放射性物質により、一生に渡ってどの程度の内部被ばくを受けるのかということを表したものです。
内部被ばく線量の評価モデルは、最新の科学的知見をもとに改訂作業が行われています。評価モデルでは年齢の違いによる代謝の違いなども考慮され、線量係数が設定されています。線量係数とは、摂取した放射性物質の量と預託線量の関係を表すものです(単位はSv/Bqなど)。
また、評価モデルは、各放射性物質の性質を考慮して作られています。例えば、ヨウ素甲状腺に取り込まれやすい、ストロンチウムはカルシウムと同じように骨に沈着するという性質があります。

<胎児の放射線防護>
妊娠期間中または妊娠前に、母親が放射性物質を体内に取り込むことで胎児が受ける被ばくについても、線量評価モデルが作られています。胎児は、胎盤を通じて移行する核種による内部被ばくと、母体の組織に沈着した核種による外部被ばくの二つの経路で被ばくを受けます。


【全体の議論&質疑応答(一部抜粋)】
●(阿南久委員)栗原氏の資料の15ページ目について。セシウムは吸入することでも体内に入るが、このモデルでは含めないのか?
→(栗原氏)吸入摂取のモデルは別にある。二つのモデルを合体して考える。

●(明石真言委員)原乳からチーズに加工する場合に出る副産物など、濃縮することや半減期などは考慮しないのか?
→(高橋氏)このモデルでは濃縮ということは考えていないのではないかと思う。半減期があり加工時間によっては放射性物質が少なくなっていることもあるが、安全側に考えるか実質的な状況で考えるかによって、規制値をどうするか異なる。

●(山本茂貴部会長)現在の暫定規制値はもっともリスクの大きなものをベースにしていると考えてよいか?
→(栗原氏)現在、放射性ヨウ素の影響は小さくなってきて、これからは放射性セシウムがメインになる。ストロンチウムについては、管理の考え方として、核種(*2)の比をとって、その比によってどうするか、というやり方もある。
*2:ストロンチウムは計測が難しいため、セシウムとの比で考える。

●(山本部会長)食品安全委員会の議論が終わるまでに、こちらでやっておくことはあるか?
→(山口氏)モニタリングをしっかり行い、それが機能していることをアピールする。

●(阿南氏)汚染の収束の目途がたっていない状況の中で、食品だけでなく、生活全体でどれくらいの被ばくがあるのかについても情報提供して欲しい。
→(栗原氏)大気中のデータはまだあまり出ていないので、収集する必要がある。
→(厚生労働省事務局)公表されていないデータはなかなか入手できていない。この部会では食品のことを審議するが、トータルの曝露量の影響を考えるのは厚生労働省の仕事なので、情報収集を行って考えていく。

●(山本部会長)中長期的に考えなくてはいけないことはあるか?
→(明石氏)お茶から放射性物質が検出されたが、それを飲む場合はどうなるだろうか。お茶をそのままばりばり食べるということはあまりない。あったとしても5g程度だ。
→(高橋氏)お茶や乾物は現在「その他」として500Bq/kgで規制している。この値はお茶や乾物に対しては厳しいかもしれない。中長期的には、食品分類に焦点をあわせることも考えられる。
→(山口氏)現在は安全側には担保されているが、中長期的には社会全体で考える必要もある。
→(山本部会長)ICRPの勧告は事故後一年間を想定している。今後追加の放出がなかった場合の規制値についても考える。

●(厚生労働省事務局)本日の議論で、短期的な課題としては、規制値が守られていることやモニタリングが機能していることをどのようにアピールするか、加工食品の規制値はどうするか、セシウムストロンチウムの比を検討する、といったことが挙げられた。中長期的な課題としては、お茶や乾物の規制値はどうするか、加工によって濃縮する食品はあるか、食品分類はどう捉えるか、長期的な規制をどうするか、検査体制を整備する、データの公開方法はどうするか、といったことが挙げられた。
また、資料1の2ページ目で短期的な課題として、放射性ヨウ素の肉や卵への規制値、注意を要する集団の扱いはどうするかという点を挙げたが、どう思うか?
→(阿南氏)注意を要する集団にどういう情報提供をするかが大切だ。
→(高橋氏)肉や卵への放射性ヨウ素の規制値は必要ないと思う。なぜなら、放射性ヨウ素の放出量は既に低下しており、また、肉や卵には飼育期間があるからだ。ただし、中長期的な視点を持つことは必要だと思う。

●(山本部会長)評価モデルについて議論する作業部会を立ち上げたい。人選は私に一任していただきたい。