第五回栄養成分表示検討会(消費者庁)

5月18日、消費者庁栄養成分表示検討会(*1)の第五回が行われました。
*1:現在、日本では栄養成分表示は任意ですが、本検討会で今年の夏をめどに義務化の検討を含めた議論を行うことになっています。

以前の検討会の傍聴記録はこちら→第一回第二回第三回第四回


本検討会は15名の委員で構成されており、今回は蒲生恵美委員以外の14名の委員とオブザーバーとして厚生労働省の河野美穂氏が出席しました。
配布資料は消費者庁サイトに掲載されています。


今回は論点整理のために、厚生労働省の河野美穂氏より日本の健康政策の状況について、2委員(*2)より国民栄養調査および国民健康・栄養調査の再解析結果について、発表がありました。
*2:佐々木敏委員(東京大学大学院医学系研究科教授)、赤松利恵委員(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科准教授)


各発表の後、主に以下の点について議論が行われました。
●栄養成分表示の対象とする栄養成分について。(→今回出た意見をもとに、消費者庁事務局で複数の案を作り、次々回の会議で検討する。)
●栄養成分表示はどのような人たちに伝えるのか。(→男性や若い人など栄養成分表示にあまり関心のない人たちにどのように伝えるのか。)


<傍聴した感想>
今回は、過去の国民健康・栄養調査などを再解析した結果をもとに、日本人にとってどのような栄養成分の表示が必要なのかが話し合われました。
これまでは海外の栄養成分表示と比較し、海外で「義務表示」だけど日本では「任意表示」な栄養成分が注目されがちでした。そして、そうした栄養成分を取り上げ、日本の栄養成分表示は遅れている‥と言う論調をニュースなどでよく見聞きしました。
日本人の健康を良くするために、本当に意味のある栄養成分表示とは、どういうものでしょうか? 日本独自の栄養成分表示を有用性や実効性の面から考え、「どうしてこの栄養成分は義務なのか」「どうしてこの栄養成分は任意なのか」を国民に説明することで、今後の消費者行政にいい流れができると思っています。


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【河野美穂氏による発表】
厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室、栄養・食育指導官の河野美穂氏より、資料2「我が国の健康・栄養政策のねらいと内容」に関する発表がありました。

厚生労働省では、平成12〜24年度に「健康日本21」という栄養政策を行っている。この政策は、壮年期死亡の減少、健康寿命の延伸、生活の質の向上を目的とし、具体的な目標量を示しているという特徴がある。
●「健康日本21」では、目標を大きく三つの段階に分けている。一つ目は適正な栄養素摂取、二つ目は適正な栄養素摂取のための行動の変容、三つ目は行動の変容を支援するための環境づくりである。
●一つ目の目標である適正な栄養素摂取については、疾病・健康との関連から目標を設定している。例えば、脂肪エネルギー比率の増加に伴って動脈硬化性疾患の発症率などが増加することから、脂肪とエネルギーを適正な比率で摂取するという目標が立てられている。
●「健康日本21」で設定された目標に向けた具体的な実践として、「食生活指針」が策定された。
●国民健康・栄養調査によると、「健康日本21」が始まってから、20〜60歳代男性肥満者の割合は増加し、40〜60歳代女性肥満者の割合は減少している。また、食塩摂取量は減少しているが、脂肪エネルギー比率、野菜摂取量、カルシウムに富む食品の摂取量については改善が見られていない。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(畝山智香子委員)栄養素摂取の目標量を設定する際の科学的根拠について、もっと精査して欲しい。例えば、脂肪エネルギー比率の減少という目標があるが、どのくらいの比率がいいのかは科学的によく分かっていない。若い女性では痩せが問題になっていることもある。
→(河野氏)その当時の知見でまとめている。健康日本21は12年前に始まったものなので、今見直してみると不十分な部分もある。今後改訂する際に精査すべきであると感じている。


消費者庁事務局による発表】
消費者庁事務局より、資料3「世界における健康・栄養施策と栄養表示との関係」資料4「消費者庁における『国民栄養調査』及び『国民健康・栄養調査』の再解析について」に関する発表がありました。

●2004年にWHOが発表した「食事、運動、健康に関する世界的戦略」には科学的根拠がある。その科学的根拠は、食事要因と肥満、2型糖尿病、心血管系疾患、がんなどの疾病との関連について、その根拠の強さを調査したものである。例えば、飽和脂肪酸トランス脂肪酸の摂取は心血管系疾患に対して「確証的に、リスク増加」、2型糖尿病に対して「おそらく、リスク増加」させる。食物繊維の摂取は肥満に対して「確証的に、リスク低減」、2型糖尿病および心血管系疾患に対して「おそらく、リスク低減」させる。
●コーデックスは2010年に、WHOの「食事、運動、健康に関する世界的戦略」をもとに、栄養成分表示に関するガイドラインを策定した。


佐々木敏委員による発表】
佐々木敏委員より、資料5「日本人の食事摂取状況をふまえた栄養素摂取の分布」に関する発表がありました。

●直近3ヶ年の国民栄養調査を再解析した。国民栄養調査では、対象者に摂取した食品メニューを聞きとり、成分表を用いて栄養素の摂取量を算出している。今回の再解析では、年度をまとめたデータを使い、各栄養素の摂取量の分布を示した。
●エネルギー摂取量の分布の平均値は1,900kcalのあたりにある。エネルギー必要量は年齢や男女によって異なるので、この平均値と直接比較することはできないが、男女ともに必要量は2,000kcalより大きい。聞きとり調査では、実際よりも少なめに申告することがあるため、値が低めに出てくるという特徴がある。他の栄養素についてもこの特徴が現れているだろう。
たんぱく質の平均必要量は男性で50g、女性で40gである。分布の平均値はおよそ70gであり、必要量よりも多く食べている人が多いことが分かる。聞きとり調査は数日間の摂取状況しか反映していないので、習慣的な分布の幅はこれよりも狭くなる。そのため、必要量に満たない人はかなり少ないと考えられる。
●脂質摂取量は%E(総エネルギー量に占める割合)で表しているので、聞きとり調査の特徴である過小評価には当てはまらない。脂質の目標量は男女で20〜25%Eである。分布の平均値はおよそ25%Eであり、習慣的分布を考えると25%Eを上回っている人はかなりいると考えられる。
飽和脂肪酸摂取量も%Eで表している。飽和脂肪酸の目標量は男女で4.5〜7%Eである。分布の平均値はおよそ7%Eであり、目標量の範囲に入っている人も上回っている人も多い。
●ナトリウムの目標量は男性で3,500mg未満、女性で2,900mg未満である。分布の平均値はおよそ4,000mgであり、ほとんどの人が目標量を上回っている。
●カルシウムはサプリメント由来の摂取と考えられる外れ値があったので、その値を除外した分布も示した。カルシウムの必要量は男女で700mgである。分布の平均値はおよそ550mgであり、足りている人もいるが、足りていない人が多い。
コレステロールもカルシウムと同様に外れ値があったので、その値を除外した分布も示した。コレステロールの目標量は男性で700mg未満、女性で600mg未満である。分布の平均値はおよそ300mgであり、ほとんどの人が目標量内におさまっている。
●食物繊維も外れ値を除外した分布も示した。食物繊維の目標量は男女で17〜18g以上である。分布の平均値はおよそ15gであり、食物繊維の摂取量は全体的に少なめである。
●今後は、年齢など、どのあたりを集団の代表とするのかを考え、再解析を続ける。


【赤松利恵委員による発表】
赤松利恵委員より、資料6「栄養成分表示を参考にメニューを選ぶ人の特徴〜健康状態・栄養摂取状況・生活習慣等について〜」に関する発表がありました。

●平成17年度の国民健康・栄養調査を再解析した。栄養成分表示を見たことがあると回答した人のうち、「いつも参考にして選ぶ」「時々参考にして選ぶ」を「参考群」、「ほとんど参考にしない」を「非参考群」として、二群を比較した。
●女性の7割が参考群であったのに対して、男性の参考群は3割に満たなかった。年代別では参考群と非参考群の人数にあまり差はなかった。
●体格と健康状態との関連について。男性において参考群の方が非参考群に比べBMIが高かった。また、男性の参考群には、血圧が正常ではない人や医師から糖尿病と言われた人が多かった。全体および女性では傾向が見られなかった。
●栄養摂取状況との関連について。全体で、参考群の方が非参考群に比べエネルギー、たんぱく質、炭水化物の摂取は少なく、食物繊維の摂取は多かった。男女別では、男性において、参考群の方が非参考群に比べ食物繊維とナトリウムの摂取が多かった。
●食意識との関連について。全体、男女別とも、参考群の方が非参考群に比べ食意識が高かった。
●全体、男女別とも、参考群の方が非参考群に比べ、スーパーや食品メーカーなどからの情報提供、市販食品やメニューの栄養成分表示へのニーズが高かった。
●再解析した感想。栄養成分表示を参考にしている人の方が意識は高く、表示へのニーズも高かった。栄養摂取状況については、参考群の方が良いとは言えないこともあった。医師に「血圧が高い」などと言われたから栄養成分表示を参考にしている人が多いのかもしれない。


【全体の質疑応答&議論(一部抜粋)】
●(坂本元子座長)栄養成分表示の項目とする栄養成分はどれにするか?
→(飛田恵理子委員)政策目標で脂肪エネルギー比率の減少が挙げられていたので、脂質は外せないと思う。
→(坂本座長)脂質の目標量は年齢によって違うか?
→(佐々木氏)健康日本21では、29歳までは20〜30%E、30歳以上は20〜25%Eが目標量になっている。
→(赤松氏)佐々木委員の発表によると、明らかに摂取が多かったのはナトリウムだ。エネルギーについては問題のある人は多くないということだったが、河野氏の資料によると、肥満者および痩せの者の割合の傾向が男女で違っていた。総合的には、エネルギー、ナトリウム、脂質は外せないと思う。
→(佐々木氏)栄養成分を重要度の高い順に並べていくのもいいかと思う。重要度を考える上では二つの観点がある。一つ目は摂取状況に問題がある、二つ目は基本的知識として知っておいて欲しいものである。こうした観点からいくつかのシナリオを作ってみるのもいいかと思う。
→(徳留信寛委員)日本人でどんな疾病が多いのかを考える。生活習慣病予防として最も重要なのはエネルギー。そして、脂質、炭水化物、たんぱく質、ナトリウムがある。ナトリウムの優先順位は高い。個人的には脂質を分解して表示するのもいいと思うが、それは難しいので、まずは総脂質を表示する。これらにプラスしてカルシウム、カリウム葉酸を加えるかどうか。
→(飛田氏)糖類も重要だと思うので加えてほしい。

●(佐々木氏)資料3の右側を見ると、脂肪は4つの疾病と関係がないと思われることになる。これを根拠のひとつにするなら、栄養成分表示の項目として脂肪と炭水化物が落ちてしまう。飽和脂肪酸トランス脂肪酸は入る。しかし、世界の状況と日本では違う部分もある。この資料をそのまま使うことはできないが、しっかりと読み込むことは重要だ。
→(徳留氏)総脂質と炭水化物はミニマムなものとして入れるべきだ。
→(山田和彦委員)栄養教育という面から見れば、私たちの食事はどのような栄養成分に分かれているかを示すことが大切だ。エネルギー、脂質、炭水化物、たんぱく質は基本のものとして必要だ。

●(坂本座長)対象は栄養成分表示に関心のある人だけではない。どのように関心のない人に伝えていったらいいだろうか?
→(迫和子委員)赤松氏の発表によると、女性の7割は栄養成分表示を見ている。なので、今回は男性にとって分かりやすいものにすべきであろう。
→(赤松氏)男女別、年齢別にも解析してみた。男性では20,30,40歳代で表示を参考にしている人が少なかった。女性はどの世代でも7割以上が参考にしていた。20,30,40歳代の男性の食生活を調査し、食環境を整備していくことで栄養成分表示に関心を持ってもらうという方法もある。
→(飛田氏)男女共同参画という考えが根底になければならない。
→(坂本座長)若い女性も今は食に関心がなくなっており、買い集めたもので食事を摂っているということがある。
→(仲谷正員委員)あれもこれもやってしまうと消費者にメッセージが伝わりにくくなる。肥満者の対策ということであれば、エネルギーに焦点を当てた方法を考えるといいと思う。

●(消費者庁事務局)栄養成分表示の対象項目について、事務局で複数のモデル案を作って、次々回の会議で検討してもらう。資料3についてはさらに精査していく。
次回は5月30日で、今回の論点整理の続きと、実効性の確保、主に分析費用、表示スペース、数値の担保、誤差の範囲、監視体制などについて議論してもらう。また、海外の状況についても示す。