食品安全委員会‐放射性物質の食品健康影響評価に関するWG(第四回)‐

5月25日、食品安全委員会放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループの第四回会合が開催されました。

以前の傍聴記録はこちらです→第一回第二回第三回

今回の議論には10名の専門委員、5名の専門参考人と7名の委員が参加しました。(欠席者は専門委員である圓藤吟史氏、花岡研一氏、村田勝敬氏。)
配布資料はこちらで見ることができます。


今回の会合では、ベータ核種の知見のとりまとめに関する報告が行われ、その後に質疑応答および議論が行われました。今回決められた主な点は次の通りです。
●ベータ核種について、高濃度のデータでしか得られない情報もあるので、そうした知見も含めて収集する。ただし、ストロンチウムは高濃度で金属毒性があるので、区別して整理する。
放射性セシウムについては内部被ばくのデータがないので、個別の核種としてではなくトータルの放射性物質として扱うこともあり得る。
●発がんモデルについて、ICRPをもとにするのか、新しい量-影響関係を作るのか、今後の会合で議論する。
●放射性ヨウ素のとりまとめは手島玲子氏と吉田緑氏、放射性セシウムストロンチウムのとりまとめは遠山千春氏と鰐淵英機氏が担当となる。また、核種共通で、発がん性について津金昌一郎氏、遺伝毒性について林真氏が担当となる。


<傍聴した感想>
今回は放射性ヨウ素放射性セシウム、放射性ストロンチウムの知見とりまとめについて話し合われました。
前回のアルファ核種の議論と同じように、今回も「使えるデータが少ない」という言葉が聞かれました。外部被ばくに関するデータはあっても、内部被ばくの影響を調査した研究は少ないようです(放射性セシウムでは無いとのこと)。チェルノブイリ事故の周辺住民の調査研究はありますが、外部被ばくと内部被ばくを区別して、その健康影響を明らかにしたものではありません。専門委員からも、食品を通した内部被ばくのみに焦点を当ててリスク評価をするのは難しいという意見が多く聞かれ、今後どのようにとりまとめがなされていくのでしょうか。
また、アルファ核種については(事故による放出量としては現実的ではない)高濃度における知見は文献の収集段階で除くということでしたが、ベータ核種では「高濃度における知見でしか得られないデータもあるかもしれない」として、できるだけ多くの文献を集めることになりました。こうしたアルファ核種とベータ核種の文献収集のやり方の違いは、アルファ核種は事故による放出量が低濃度であるから、という理由からなのでしょうか。それとも、毒性が表れる濃度がアルファ核種の方が低いので、あえて高濃度のデータを収集する必要はない、ということでしょうか。(正しい認識が分かりましたらここで追記します。)


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●傍聴記録
【資料1,2および遠山千春専門委員の提出資料の説明】
食品安全委員会事務局から、資料1,2および遠山千春専門委員の提出資料に関する説明がありました。
内容は主に、モニタリングによる核種の検出状況と、チェルノブイリ事故での小児白血病に関する知見、高線量地域での健康影響に関する知見についてです。高線量地域での健康影響について、リスクがないことを疫学調査などで明示した研究は見つかりませんでした。


【資料3の説明】
食品安全委員会事務局から、資料3の説明がありました。内容は放射性ヨウ素の知見とりまとめについてです。

<議論&質疑応答(一部抜粋)>
●(佐藤洋専門委員)被ばく量の整理をする必要がある。その際には、単位の問題もあるし、被ばくの期間の問題もある。期間とは、時間の長さという意味と、胎児か幼児か成人かという対象者の時期の意味がある。
→(遠山氏)対象者の年齢によって健康影響は異なるので、区別してリスク評価した方がいい。また、最後はシーベルトで食品からの内部被ばくの値を出すということだが、アルファ核種は内部被ばくのみで影響が起こり、ベータ核種とガンマ核種は両方で起こる。外部被ばくと内部被ばくを区別して、というのはかなり難しいと思う。
→(山添座長)我々が諮問されているのは食品からの被ばくについてだが、これまでの事例のほとんどは全身被ばくによる影響だ。この中から情報を抜き出して判断するしかない。福島の事故を日常的に見ていると外部被ばくに目が行くのは仕方がないが、今後のことも考えて議論したい。
→(滝澤行雄専門参考人)今回は中長期の管理のためのリスク評価だと理解している。かつての事例を見ると、最初は外部被ばくが問題となるが、その後は内部被ばくが問題となる。年齢ごとに考えるより、もう少しグローバルに考えていくのがいいのでは。
→(手島氏)中長期的ということだと、放射性ヨウ素半減期は短いので、放射性セシウムの方が問題となってくる。

●(吉田緑専門委員)外科治療に関する文献ではなく、チェルノブイリの事故に関する文献の方が内部被ばくの影響に関する知見が入っている。これらは分けて考えてもいいか?
→(山添座長)外科治療は高線量だということもある。分けて整理してもらえればありがたい。

●(食品安全委員会事務局)アルファ核種の議論では、高線量すぎる文献は除くということになっていた。ベータ核種についてもそうするか?ただ、核種によっては情報量が少なくなる。
→(山添座長)放射性ヨウ素の文献には高線量のデータが含まれている。しかし、放射性ヨウ素のリスクは甲状腺がんだけかなど、高線量のデータでしか得られない情報もある。暴露量は直接計測したものではなく推定なので、精度を高めるためにもデータは多い方がいいと思う。

●(小泉直子委員長)食品における健康影響ということなら低線量のデータがポイントとなる。しかし、集めてもらった文献によると、100mSvでも健康影響がなかったというものもある。食品のリスク評価に利用できるような文献があまりないのではないかということを非常に心配している。低線量域に関する文献はできるだけ集めて議論して欲しい。

●(鰐淵英機専門委員)今回はこれまでの事故とは違う点がある。チェルノブイリは一度に高濃度が放出されてすぐに収束した。今回は一度にはきていないが、まだ放出し続けている。甲状腺線量は後で推定するということだったが、この放出の仕方の違いがどのように反映されているのか。
→(山添座長)暴露量については半減期も考え合わせたモデルで推定している。暴露が一度にくるか少しずつくるか、基本的には違いがないと考えるしかない。
→(祖父尼俊雄専門参考人)照射が一回きりなのか何回かに分けてなのかで、生体の反応は違ったと思う。
→(津金昌一郎専門委員)甲状腺がんについては、何回かに分けて暴露した方が影響は小さいと考えられる。高線量地域のコホート研究で、低い線量で被ばくし続ける環境下において健康影響に違いはなかったということだ。
→(祖父江友孝専門委員)そういう研究ができているのは中国とインドだ。5mSv/年程度の地域で10年間フォローしたところ、健康影響のリスクはあまり上がっていなかった。しかし、線量の測り方やその他の要因もよく考えなくてはならず、このデータをもとに安全域を決めることはできない。

●(山添座長)放射性ヨウ素は手島玲子専門委員と吉田緑専門委員、発がん性については津金昌一郎専門委員、遺伝毒性については林真専門委員が中心になってとりまとめて欲しい。また、祖父尼俊雄専門参考人にもアドバイスをもらいたい。


【資料4の説明】
食品安全委員会事務局から、資料4の説明がありました。内容は放射性セシウムの知見とりまとめについてです。

<議論&質疑応答(一部抜粋)>
●(遠山千春専門委員)緊急とりまとめの際は外部被ばくも考えていた。今回のとりまとめでは、福島の事故は脇に置いておいて、中長期的に考えるということでいいか?
→(吉田氏)そのことは参考3「放射性物質の食品健康影響評価の基本的考え方」の四つ目の項目に関連しているのではないかと思う。
→(山添座長)この項目で言いたかったのは、リスク評価は科学に基づいて行うということ。福島の事例をミックスして考えないようにしたい。緊急とりまとめも基本的には食品からの内部被ばくを焦点にしていた。
→(林氏)全くの正常時として考えたら、規制値はかなり低くなり、その値を超えた食品がたくさん出てくるのでは?
→(山添座長)ここでの議論をもとにしてどういった措置をとるのかは管理機関が決める。

●(津金氏)放射性セシウムに関しては内部被ばくのデータがなく、評価できないということになる。
→(山添座長)チェルノブイリの事故で、住民はその周辺でとれた食品を食べており、内部被ばくも受けていた。
→(津金氏)放射性ヨウ素については暴露推定をすることで甲状腺がん発生との関係が描けているが、放射性セシウムについてはそういったものはない。
→(山添座長)放射性セシウムの標的は明確ではない。しかし、チェルノブイリで暮らしていた人が体内に放射性セシウムをどれだけ取り込んでいたかは分かる。放射性セシウムによる健康影響があったかを検証する必要はある。
→(遠山氏)放射性セシウムについては論文検索をしても内部被ばくのデータはなかった。
→(山添座長)放射性セシウム単独ではなく、トータルの放射性物質として扱ってもいいかもしれない。

●(山添座長)放射性セシウムは遠山千春専門委員と鰐淵英機専門委員、核種共通で、発がん性については津金昌一郎専門委員、遺伝毒性については林真専門委員が中心になってとりまとめて欲しい。また、放射性ヨウ素と同じように、祖父尼俊雄専門参考人にもアドバイスをもらいたい。


【資料5の説明】
食品安全委員会事務局から、資料5の説明がありました。内容はストロンチウムの知見とりまとめについてです。

<議論&質疑応答(一部抜粋)>
●(吉田氏)ストロンチウムは高線量で金属毒性があるので、それを区別して書かないと誤解されてしまう。
→(遠山氏)高線量のデータは今回の評価で除いてもいいのでは?
→(山添座長)金属毒性のデータを除いたら文献がどれだけ残るだろうか、それを見てから方針を考える。ストロンチウムセシウムと関連が強いので、とりまとめの担当者は放射性セシウムと同じ委員にお願いしたい。

●(吉永淳専門委員)発がんについては、何mSvであれば健康影響がない、ということにはならない。低線量で発がんの確率がどれだけあるのかを知るためには、高線量の知見をもとに直線モデルを作り、それに低線量を外挿していくのが普通のやり方。なので、高線量の知見を除いてとりまとめる場合には、その理由を書く必要がある。ICRPのやり方をもとにするのか、新しい量-影響関係を作るのか?
→(遠山氏)これは重要なことなので、改めて議論したい。