食品安全委員会‐放射性物質の食品健康影響評価に関するWG(第五回)‐

6月16日、食品安全委員会放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループの第五回会合が開催されました。

以前の傍聴記録はこちらです→第一回第二回第三回第四回

今回の議論には11名の専門委員、5名の専門参考人と7名の委員が参加しました。(欠席者は専門委員である遠山千春氏、林真氏。)
配布資料はこちらで見ることができます。


今回の会合では、前回までに委員から出た論点のまとめ方についてのたたき台と、アルファ核種(ウラン、プルトニウムアメリシウムキュリウム)のとりまとめ案について、報告と議論が行われました。今回決められた主な点は次の通りです。
●ウランについては、とりまとめ案に用いたデータの質をもう一度精査する。また、ウランは放射性物質としての毒性よりも化学物質としての腎毒性の方がよく出てくるので、後者からウランの毒性を考えていくことにする。
アメリシウムキュリウムに関する知見はとても少ないので、プルトニウムと併せて評価する。


<傍聴した感想>
今回は、第三回会合で提出されたアルファ核種のとりまとめ案を担当の委員で修正したものについて議論されました。
第三回会合の際に、高濃度における知見は現実的ではないのでアルファ核種の審議においては除外するということになっていました。実際に、今回提出された修正案では、アメリシウムの急性吸入曝露(肺に対する累積放射線量が20Gy)の遺伝毒性影響に関する知見などが削除されていました。
アルファ核種の中ではウランに関する知見がもっとも多く集まっています。それでも、国際機関によるウランのリスク評価結果の一覧表(資料3の表25)を見ると、各機関は意外に古い知見を根拠にTDI(耐容一日摂取量)を求めているのだなという印象を受けました。TDIとは、ヒトが一生涯に渡って毎日摂取しても健康に悪影響のない量です。例えば、2009年のEFSA(欧州)の評価は1998年の文献を、2004年のEPA/IRIS(米国)の評価は1949年の文献をもとにしています。それだけリスク評価に使用できる知見は限定されているということでしょうか。


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●傍聴記録
【資料1,2の説明】
食品安全委員会事務局から、資料1「放射性物質の食品健康影響評価の進め方(たたき台)」と資料2「モニタリングによるα核種の検出状況」に関する説明がありました。
中でも、資料1の項目2の「α核種とβ核種を合わせた実効線量として検討すべきか、α核種とβ核種を区別して実効線量を示すべきか」と、項目4の「特に感受性の強い時期(例えば胎児期等)におけるデータについては留意する」という記述について議論されました。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(佐藤洋専門委員)資料1の項目4について、例として胎児期が挙げられているが、これは胎児期に感受性が高いというエビデンスがあれば、という意味合いだと理解している。メチル水銀などは胎児期で感受性が高いのは明らかになっているが放射性核種ではどうだろうか。
●(滝澤行雄専門参考人)資料1の項目2について、アルファ核種とベータ核種は分けて実効線量を出した方がいいと思う。
→(山添康座長)検討は別個に行って、その後に判断してもらいたい。


【資料3の説明】
食品安全委員会事務局から、資料3「ウランとりまとめ(案)」に関する説明がありました。
今回のとりまとめ案は、ワーキンググループの第三回会合で提出されたウラン知見とりまとめ案を、担当の専門委員が修正や項目の追加(食品健康影響評価など)をしたものです。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(佐藤氏)8ページ目の表によるとウランは海藻と魚介類からの摂取が多いようだが、なぜか?
→(吉永淳専門委員)海水中にはウランが多い。そのメカニズムは分からない。
→(中川恵一専門参考人旧ソ連原子力潜水艦日本海に投棄したことが理由になっている可能性がある。
→(滝澤氏)食物連鎖による生物濃縮があり数値が上がっていると考えた方がいい。

●(山添座長)29ページ目にある、「h.その他(マウス)」の生殖発生毒性試験で母動物に影響(一次卵胞の減少)が出た濃度が、他の試験よりも極端に低い(2.5μg/L)。どのように考えるか?
→(吉田緑専門委員)この生データを見ていないのでよく分からないが、毒性に関してはデータの質が特に重要となる。ある量を投与していたとしても、実際にその濃度になっているかチェックしているだろうか。
→(山添座長)水道水中のウランの管理目標値は2μg/Lという記載がある。マウスの生殖発生毒性試験で出た濃度は検出限界ぎりぎりの値であることもあり、本当に差が出るようなものなのかを考える必要がある。さらに、生殖試験は周期によって結果が左右され、再現性が難しいということもある。
→(吉田氏)気になるのは、この試験は他の試験と全く違ったプロファイルの書かれ方がされているということ。もし正しいのなら新しく重要なデータとなるが、文献を精査しない限り、この結果を用いることは懸念があると考える。
→(佐藤氏)別のマウスの生殖毒性試験では、5mg/Lで母動物の二次卵胞の割合上昇という影響が出た。これと三桁も数値が違うので、やはりデータの質を見る必要がある。
→(山添座長)吉田委員にデータをよく見てもらい、どのように扱うか判断してもらいたい。

●(山添座長)ウランに腎毒性があることが動物試験で分かっている。そうすると、最終的にはどの動物のデータを使って数値を設定するのかということになる。例えば、36ページの表25で国際機関が使っている指標値が挙げられているが、三つの機関ではラット、一つの機関ではウサギのデータが使われている。もちろん先ほど話題になったマウスの生殖発生毒性試験のデータを採用するとなると、ぐっと低い値になる。
→(川村孝専門委員)言われたように、ウランには腎毒性がある。しかし、出てくる影響はアルブミンやミクログロブリンなど様々なものがある。検定を色々やるとどこかに有意な結果が出るということがあるので、やはり論文の全体を通した一貫性は吟味する必要がある。ただ、腎毒性に関する動物試験の結果がヒトと矛盾することはないという感触は得られている。

●(山添座長)ウランは放射活性ではなく物質としての毒性から数値が決まってくる可能性の方が高い。それでよいか?
→(鰐淵英機専門委員)それはそれで必要なことだと思う。
→(山添座長)物質としての数値が決まったとしても、それを放射能に換算する場合にはどうしても幅が出てくることになる。同位体比は自然環境をもとにするか、原子炉から放出されるものでやるか。原子炉にはそれぞれ個性があるので、条件が違うと数値に少し変動がある。
→(滝澤氏)参考資料5としてPWR(加圧水型)の使用済み燃料中に含まれる核種の一覧があるが、別のタイプの原子炉であるBWR(沸騰水型)の一覧もできたら出してほしい。


【資料4,5,6の説明】
食品安全委員会事務局から、資料4「プルトニウムとりまとめ(案)」、資料5「アメリシウムとりまとめ(案)」、資料6「キュリウムの概要」に関する説明がありました。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(山添座長)アメリシウムキュリウムは安全性について得られた知見がとても少ない。プルトニウムと併せて評価してはどうか?
→(鰐淵氏)むしろ「データがない」とした方がいいのでは。「一緒に評価する」という考え方がよく分からない。
→(佐藤氏)少ないデータの中でも、物質として似たような動態をするなどがあれば一緒に評価すると言うこともできる。
また、説明の中で分からなかったのは、アメリシウム同位体241はアルファ崩壊だけでなくガンマ崩壊をするということで、それがどのくらいの割合なのかということ。
→(山添氏)アルファ線ガンマ線の作用の違いを明らかにした文献はなさそうだ。
→(滝澤氏)アクチノイドというひとつのカテゴリーでまとめた方がいいと思う。その中でアメリシウムキュリウムはデータがなくて評価できないと表記する。
→(山添氏)アクチノイドとしての特性をもう少し調べ、ひとつの理由付けに使う。アメリシウムキュリウムプルトニウムとのデータの対比を見ながら一緒に審議できるかを考える。今回のアルファ核種のとりまとめ案について加筆や修正すべきことがあれば6月24日までに言ってほしい。


次回は6月30日にベータ核種(放射性ヨウ素放射性セシウム)のとりまとめ案と、核種横断的な論点(低線量被ばくについてはどのように考えるかなど)について議論される予定です。