厚生労働省、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会、食中毒・乳肉水産食品合同部会(6月28日)

6月28日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会の食中毒・乳肉水産食品合同部会が開催されました。
議題は生食用食肉にかかわる安全性確保対策についてです。

この議題を審議するようになったきっかけは、焼肉チェーン店で食事をした何人かの客が腸管出血性大腸菌による食中毒を発症したという事件です。
これまでも生食用食肉の衛生基準は存在していましたが、違反しても罰則が伴うものではありませんでした。そこで、本年10月の施行を目標にして緊急的に規格基準を改正するため、この部会が立ち上げられました。

今回は事務局から生食用食肉の危害評価案(食中毒事件の発生状況や、食肉の汚染実態など)、国立感染症研究所感染情報センター主任研究官の八幡裕一郎氏から事件に関する調査の中間報告について説明があり、質疑応答および議論が行われました。
18名の委員のほか、4名の専門参考人が参加しました。資料はこちらで公開されています。


今回決まった主な点は、
●どの動物や部位を対象とするか(→緊急的には牛肉のみを審議することで概ね合意。牛レバーをどのように扱うかは次回審議される。)
●微生物は糞便性大腸菌群とサルモネラ属菌の二つを対象とする。



<傍聴した感想>
肉を生で食べたことのある方はどのくらいいるでしょうか。
焼肉屋や居酒屋では当たり前のようにユッケや馬刺があるので、それが「リスクの高い」食べ物だと認識していた方はあまり多くないかもしれません。行政では注意喚起の広報は前からしていましたが、多くの人に届くまでには至っていなかったようです。
しかし、今回日本でこのような事件が起こり、また、ヨーロッパではスプラウト(発芽野菜)を原因にした食中毒が起こっていることで、生の食べ物を食べることのリスクが注目されるようになりました。
現在、日本の生食用食肉の衛生基準は約12年前にできたもので、罰則を伴いません。この衛生基準ができる前は肉を生で食べることは禁止であったのが、この基準ができたことで、「基準を守っているものはOK」になったとのことです。今回の部会で厚生労働省から、この基準ができた当初はよく守られていた、という発言がありました。
その当時は提供側も消費者側も、肉を生で食べることは特別なことだという意識がしっかりとあったからでしょうか。もし、意識の薄れや気の緩みがこのような事件を引き起こした理由のひとつだとすると、この12年間という時間は思いのほか短いものだと感じました。


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●傍聴記録
【事務局から資料1の発表】
厚生労働省の事務局から、資料1「飲食チェーン店での腸管出血性大腸菌食中毒の発生について」の発表がありました。

・4月27日以降、チェーン店「焼肉酒屋えびす」での腸管出血性大腸菌食中毒の有症者数は169名で、そのうち重症者は11名(現在も入院中)、死者は4名だった。
富山県は4月27日に発症者の検便から腸管出血性大腸菌O111を原因物質として疑い、食中毒の発生を公表した。
・「焼肉酒屋えびす」は全20店舗で4月27日から生食用食肉(ユッケ)の販売を自粛し、4月29日からは営業を自粛した。
厚生労働省は情報収集をし、原因究明調査を支援している。また、再発防止のためにユッケを取り扱う営業施設に対して緊急監視を行っている。
富山県は5月24日に調査の中間とりまとめをプレスリリースした。


【八幡裕一郎氏の発表】
国立感染症研究所感染情報センター主任研究官の八幡裕一郎氏から、調査の中間報告がありました。発表はプレゼンテーションのみで紙資料は配布されませんでした。
冒頭に、調査は継続中のため、示された内容は変わる可能性があることが強調されました。

<調査のやり方と中間報告>
・調査の目的は、症例探索(患者がこれ以上いるかどうか)、感染拡大防止、アウトブレイク全体像の把握、感染源の追跡、再発防止など。
・病院のカルテの調査、保健所の喫食調査、病原体検査などを行った。
・有症者の分布をみると15-19歳がもっとも多く、ついで20代、30代の順だった。
・潜伏期間の中央値は三日間だった。しかし、0日や11日という例もあり、情報の精査が必要である。
・発症は4月25日と26日に非常に大きなピークがあった。店舗としては砺波店と高岡店で多く、砺波店は大きなピークを形成しており、高岡店は長期間に渡って少数が発症するという特徴があった。
・喫食日は4月17日から25日までの間で、砺波店では22日と23日に多かった。
・溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した人は、15-19歳がもっとも多く、ついで5-9歳、20代の順だった。また、ユッケ喫食者でHUSを発症した人は5-9歳、0-4歳、15-19歳の順に多かった。砺波店での発症が63%を占めていた。
・HUSを発症した30名のうち27名からO111が検出され、多くのHUS患者はO111由来だと考えられる。
・喫食調査からオッズ比を出した。ユッケのオッズ比がとても大きく52.1だった。他に有意で高いメニューに焼きレバーやハラミがあるが、圧倒的にユッケが大きかった。
・「焼肉酒屋えびす」に肉を届けていた複数の店舗をさかのぼり、農場まで行きあたった。食中毒が出ているのが4月17日くらいからで、肉の加工日が4月13日ということで、流通と何らかの関係があるかもしれないというところで調査を続けている。
・「焼肉酒屋えびす」の店舗での状況を知るために、保健所や店長への聞き取り調査や保管などの記録情報の調査を行っている。
・今後も情報収集、医療機関への調査、さかのぼり調査(警察の協力のもとでの個体識別番号の調査、菌の汚染度の調査など)、解析(単変量解析のほか多変量解析も)などを行っていく。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(阿南久委員)初めての発症が4月17日ということだったが、厚生労働省が事件を知ったのは4月27日。どうしてこのような遅れがあったのか?
→(事務局)医療機関から保健所に連絡があったのが4月26日で、県庁にあがったのが27日だった。4月17日の発症は、後で自治体の調査により分かったものだ。

●(益子まり委員)砺波店で発症が多かったが、ユッケの取扱いに他店舗との違いはあるか?
→(八幡氏)現在、ユッケを切る時の手袋の着用の有無や温度管理などの状況を調査しており、まだ結論は言えない。

●(山本茂貴部会長)ユッケと他のメニューは同じところで作っていたか?
→(八幡氏)ユッケはオープン前に最初に加工し、その後で別のメニューを加工していたので、この時点での交差汚染はないと考えている。また、まな板はユッケ専用のものを使っており、まな板を介した交差汚染もないと考えている。

●(工藤操委員)農場までさかのぼって調査するのか?
→(八幡氏)できたらしたい。しかし、農場になると所管は農林水産省になるので、ルートが別になる。警察が入っているようなので、何か情報を持っていたらもらいたい。

●(甲斐明美委員)HUSの患者からはO157は検出されていないのか?
→(八幡氏)HUSの患者からO157のみが検出されたのは3名、O111O157が両方検出されたのは3名、O111のみが検出されたのは24名だったように思う。

●(甲斐氏)今回症状がとても重いと思うが、店舗でユッケ中の菌数を増やすような状況はあったか?
→(八幡氏)少なくとも肉を放置していたということはなかった。ユッケは一日分を30分で切っていた。切った肉はボウルやトレーに入れた後、12食ずつホテルパンに分けていた。ボウルやホテルパンはアルコールをかけ、ラップを敷いて使っていた。オーダーの多い店舗では、混ぜ合わせるための器具は最大で3食分まで使っていいというルールになっていた。加工するプロセスの中では菌は増えそうにないという印象を持っている。


【事務局から資料2の発表】
事務局から、資料2「生食用食肉を取り扱う施設に対する緊急監視の結果について」の発表がありました。

・生食用食肉を扱っている飲食店や食肉処理業、食肉販売業の19,856施設の立ち入り検査をした結果、衛生基準通知に適合していたのは52.4%だった。
・衛生基準通知に適合していなかった施設を項目別にみると、自主検査が実施されていないのがもっとも多く85.0%、次いで器具の洗浄消毒に83℃以上の湯が用いられていないのが51.3%、トリミングが適正に行われていないのが32.9%だった。衛生基準通知に適合しなかった施設に対しては生食用食肉の取扱いを中止するように指導した。
・生食用食肉の衛生基準に適合したものであっても、子どもや高齢者、抵抗力の弱い人が生の肉を食べないように周知していくこととしている。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(今村知明委員)と畜場では衛生基準が守られているか?
→(事務局)今回はと畜場の調査はしていない。ただ、と畜場はと畜検査員が毎日調査しに行っており、その点が飲食店などとは違う。

●(白岩利恵子委員)子どもや高齢者などに食べないよう周知をするということだが、今回は30代で亡くなった方もいる。肉は生で食べるものではないと言ってほしい。
→(山本部会長)今後併せて検討していきたい。


【事務局から資料3-1および資料3-2の発表】
事務局から、資料3-1「生食用食肉に係る安全性確保対策について(案)」資料3-2「生食用食肉(牛及び馬)における危害評価(案)」の発表がありました。

<これまでの経緯>
・生食用食肉の衛生基準は平成10年にできた。しかし、今回の発生した食中毒事件をきっかけに、生食用食肉に関して罰則を伴う強制力のある規制が必要と判断し、10月の施行を目標に規格基準の設定について審議をすることになった。

<規格基準の検討について>
・規格基準の設定にあたっては以下の点を検討する。今回の会合では、このうち、(1)と(2)が話し合われた。(3)と(4)については次回検討する。
(1)対象となる動物・部位について
(2)対象となる微生物について
(3)規格基準設定の考え方について
(4)規格基準として規定する事項について
・(1)について。現在の衛生基準では牛と馬の食肉とレバーを対象としている。しかし、健康な牛レバーのカンピロバクター汚染についての知見が得られており、また、牛レバーを原因とした腸管出血性大腸菌食中毒も多く発生している。そのため、衛生基準に適合する牛レバーであっても生食用としての提供は控えるように飲食店に対して指導をしているところである。従って、牛レバーについては情報収集ができ次第、別に検討することとして、今回の緊急的な審議においては牛および馬の食肉のみを検討の対象とすることにしてはどうか。
・(2)について。現在の衛生基準では牛と馬の食肉とレバーの目標として、糞便系大腸菌群およびサルモネラ属菌が陰性であることとしている。今回の審議においては汚染実態や過去の食中毒事例を踏まえ、改めて整理する。

<生食用食肉の危害評価>
・上記検討項目(1)を前提に、生食用食肉(牛と馬)の危害評価案を作成した。
・平成10〜22年における生食用食肉(牛と馬)による食中毒事件は、原因食品が判定しているものは9件あり、牛肉ではサルモネラが3件、馬肉では不明が3件ともっとも多い。ユッケ(牛か別の肉かは不明)では腸管出血性大腸菌が10件ともっとも多い。
・平成11〜22年度における食品の食中毒菌汚染実態調査結果によると、大腸菌サルモネラは牛肉と馬肉で検出されている(大腸菌は計40.7%、サルモネラは計0.6%で検出)。馬肉では腸管出血性大腸菌カンピロバクターは検出されていない。
・平成18〜23年5月における輸入時検査結果によると、生食用馬肉で糞便性大腸菌群、腸管出血性大腸菌サルモネラ属菌が検出された事例はない。生食用牛肉は輸入実績がない。
・日本において、馬刺の食中毒に寄生虫が関与していることが深く示唆されている。今後も事例の収集に努め、全体像やメカニズムの解明が重要であるとの声明が本年6月にとりまとめられたところである。

<まとめ>
・上記を含め、既存のデータから検討を行った結果、生食用牛肉については腸管出血性大腸菌およびサルモネラ属菌による危害が大きいと考えられた。
・生食用馬肉については調査研究途上の寄生虫をのぞき、危害が大きいものはないと考えられた。
・今回の規格基準設定については、牛肉について腸管出血性大腸菌およびサルモネラ属菌を対象として検討を進めることが適当である。

<今後の対応>
・食中毒・乳肉水産食品合同部会で、規格基準案について了承を得た後、食品安全委員会にリスク評価を依頼する。同時に消費者庁での協議やパブリックコメントなどに関する手続きを進める。

<質疑応答(一部抜粋)>
●(阿南氏)現在の衛生基準が守られていないのは強制力を持たないからか?
→(事務局)正式には分析できていない。ただ、基準を定めた平成10年当時はよく守られていた。それまでは生食は全面禁止であったが、この基準ができたことで許可になったという経緯がある。

●(阿南氏)牛レバーは追って検討ということだが、規格基準ができるまでは生食用のレバーの販売を法に基づいて禁止するべきだ。
→(中村好一委員)緊急性を考えなければならない。差し当っては牛肉、そして二つの微生物を対象にする。レバーは落ち着いて別途で審議した方がいいと思う。また、法に基づいた販売禁止は相当な根拠がなくてはできない。
→(事務局)販売禁止をするには二つのケースが考えられる。ひとつは、検査をしてO157などが検出された場合。これは現在でも販売禁止になっている。もうひとつは、生食用の規格基準を守っていない場合。この場合は規格基準がなければ禁止にはできなく、規格基準ができるまで販売禁止というのは不可能である。

●(小西良子委員)フグのように生食用食肉を加工する人に免許を与えるというのはどうか?
→(事務局)そうした免許をつくるとなれば規定することはできるが、フグ調理師は県の規則で決めており、食品衛生法ではない。
→(山本部会長)フグはある部位を除けばいいが、食肉の場合はどこが危ないというのが分かりにくい。



次回の会合は7月6日に開催されます。規格基準の詳細と、レバーをどのように扱うかについて議論される予定です。