第七回栄養成分表示検討会(消費者庁)

6月27日、消費者庁栄養成分表示検討会(*)の第七回が行われました。
*現在、日本では栄養成分表示は任意ですが、本検討会で今年の夏をめどに義務化の検討を含めた議論を行うことになっています。

以前の検討会の傍聴記録はこちら→第一回第二回第三回第四回第五回第六回


本検討会は15名の委員で構成されており、今回は山田和彦委員以外の14名の委員が出席しました。
配布資料は消費者庁サイトに掲載されています。


今回は、消費者庁事務局より、これまでの検討を踏まえて作成した報告書案と、表示の対象とする栄養成分の選定案についての発表がありました。

発表のポイントおよび議論での主な意見には次のようなものがありました。
●報告書には、消費者への普及啓発の推進についても一つの項目を作って述べる。
●報告書案には、栄養疫学などの学術的データの蓄積を課題として入れる。
●事務局は、栄養表示の対象とする栄養成分の選定を三つの基準から行った。その結果、一般表示事項は「エネルギー、ナトリウム、脂質、炭水化物、たんぱく質」という順を案として考えた。また、食物繊維は一般表示事項にするかを検討する必要があるものとして挙げた。



<傍聴した感想>
今回の検討会で栄養成分表示の表示案が提出されました。一般表示事項は「エネルギー、ナトリウム、脂質、炭水化物、たんぱく質」の順で表示するという案です。これまでエネルギーの次はたんぱく質だったのがナトリウムに代わったということで、日本人の健康にとってナトリウムの重要性が高いことがおのずと分かるようになりました。
これまで七回行われた検討会では、様々な立場の専門家からの発表があり、その都度、議論が重ねられてきました。最初は委員間で「消費者の選択の幅をできるだけ広くするために表示する対象は広く」という意見と「健康保持増進という目的の達成に意味があるような対象に絞る」という意見が対立していたように感じました。ですが、回を追うごとに検討会としての目的が統一され、今回出された案は、国民健康・栄養調査の結果などを基にした合理的なものになっていると思います。
ただし、実際に実行するとなれば、どのような製品や事業者を対象にするのか、どのような監視の仕組みを作るのかなど、詰めなければならない課題はたくさんあります。あくまでこの検討会では論点を整理した、ということで、具体的な細かい議論はこれから行われるのでしょう。


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消費者庁事務局による資料2の発表】
事務局より、資料2「栄養成分表示検討会報告書(素案)」に関する発表がありました。

●この報告書はこれまでの検討を踏まえて作成したものであり、大きく五つの項目で成り立っている(1. はじめに、2. 我が国の健康・栄養政策を踏まえた栄養表示、3. 表示の優先度が高い栄養成分、4. 表示の実効性の確保、5. 今後の方向)。

<議論&質疑応答(一部抜粋)>
●(蒲生恵美委員)報告書には評価・検証という視点が抜けている。表示制度を義務にするにしろ任意にするにしろ、評価・検証の仕組みは不可欠だ。
また、項目2で「現在の栄養表示は、必ずしも全ての消費者に活用されることを目的とした制度とはなっていない」という記述があるが、これには疑問を感じる。そうしたことを目的としていなかったのか使い方が悪かったのか、議論の余地がある。

●(鬼武一夫委員)報告書の全体を通して感じたのは、これまでの栄養表示でどのような問題点があったかのレビューがないこと、事務局が将来どのように制度化したいかなど具体的な方向性に関する記述がないことだ。
また、蒲生委員も指摘されていた項目2の記述については、断定的に書き過ぎだと思う。これまでの栄養表示は任意でありながらも事業者はコストをかけながら表示してきたという事実があり、この記述では誤解を招くのでは。

●(渡部浩文委員)この検討会が立ち上げられたきっかけは、消費者の商品選択という視点から栄養表示のニーズがあったことだった。健康政策のことは大切だが、消費者庁の立ち位置をしっかりと書いた方がいいと思う。
また、表示制度の実効性を確保するためには表示の対象あるいは適用除外となる事業者の範囲を十分に検討することが必要なので、それに関するこれまでの検討経過を項目4の中に入れて欲しい。

●(浜野弘昭委員)項目5で消費者への普及啓発についての簡単な記述があるが、非常に重要だと思うので、ひとつの項目として入れておいて欲しい。
→(仲谷正員委員)浜野委員の意見に賛成だ。加工食品の80%以上に栄養表示がされているのに関わらず十分に活用されていない原因のひとつは、啓もうや理解の不足だと思う。
→(徳留信寛委員)表示制度を義務化しても国民の理解がなければ実効性が出てこないので、やはり普及啓発について項目を作って述べることは必要だ。

●(畝山智香子委員)栄養疫学やコンシューマーサイエンスなどのエビデンスを反映させた政策を行うべきなので、今後もそうしたデータを蓄積していくということを明記して欲しい。

●(赤松利恵委員)消費者への普及啓発は大切だと思うが、栄養表示は理解する以前に見ていない人が多いということが今回分かった。普及啓発の中には、まず関心をもってもらうということを入れて欲しい。
また、畝山委員が言ったように、学術的な面でまだまだ研究が進んでいないということを実感したので、今後の課題として記述して欲しい。


消費者庁事務局による資料6,7の発表】
事務局より、資料6「対象とする栄養成分の選定(事務局案)」資料7「対象とする栄養成分の選定にあたって」に関する発表がありました。

●事務局では次の三つの基準から、表示の優先度が高い栄養成分の案を作成した。
1.我が国の健康・栄養政策を推進する観点から重要度が高いもの
 -我が国の健康・栄養政策で目標を掲げているもの
 -日本人の栄養摂取状況から問題があると考えられたもの
2.健康・栄養に関する基本的な知識として、すべての国民が知っておくべきと考えられるもの
3.国内外の科学的根拠をもとに、対応が求められているもの

●その結果作成した案は次の順序である。上に挙げた三つの基準のうち、どれによるものかをカッコ内に示した。食物繊維から下の栄養成分については、上の基準3によって予防的観点から選定されたものであり、優先度の順位性は事務局では判断できていない。
・エネルギー(1)
・ナトリウム(1)
・脂質(1)
・炭水化物(2)
たんぱく質(2)
・食物繊維(3)
(以上が一般表示事項として。)
飽和脂肪酸(3)
トランス脂肪酸(3)
コレステロール(3)
・糖類(3)
・ビタミン、ミネラル

●現在の栄養表示では、エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウムが一般表示事項になっている。新しく作った事務局案では、ナトリウムの表示順位が上がり、たんぱく質の表示順位が下がっている。また、食物繊維は一般表示事項にするかを検討する必要があるものとして挙げてある。

●ナトリウムは高血圧予防の観点から日本の健康政策として重要度が高い栄養成分であった。また、本検討会で行った国民健康・栄養調査の再解析結果から、7割以上の人が目標量を上回っていることが明らかになった。そのため、新たな栄養表示においてはナトリウムの優先度を上げるべきではないかと考えられた。

●食物繊維は循環器疾患の予防に効果的に働くものと考えられているが、国民健康・栄養調査の再解析結果から、目標量をとれていない人が約7割存在していたことが分かった。

<議論&質疑応答(一部抜粋)>
●(鬼武氏)食物繊維は一般表示事項として検討の必要があるということだが、コーデックスでは義務化の対象になっていなく、定義や分析法が難しいということもあるので、慎重な対応が必要だと思う。


佐々木敏委員による資料5の発表】
東京大学大学院医学系研究科教授の佐々木敏委員より、資料5「国民健康・栄養調査データを用いた主要栄養素摂取量の分布」に関する発表がありました。

●前回の検討会で発表したものと同じものだが、数値を入れ、個人の摂取状況を分かるように書きなおした。解析対象者は6歳以上の全員である。

●エネルギー摂取量の分布について。エネルギー必要量未満だった人と必要量以上だった人の比は大体2:1だった。この分布から分かるのは、エネルギー必要量を満たしていない人が多いということではない。日本人の体重が大きく変化していないという事実を踏まえると、この調査では対象者は低めの量を回答したと解釈するべきである。このことは他の栄養素についても当てはまり、実際にはもう少し多く摂取していると考えるようにする。
また、解析に用いたデータは一日間の摂取量の調査によるものなので、%で示した数値に意味はあまりない。従って、数値を細かく見るのではなく、あくまでも分布の外形を見てもらいたい。

●総脂質摂取量の分布について。摂取量は少なめの人よりも多めの人が多いことが分かる。

●ナトリウム摂取量の分布について。ナトリウム目標量未満だった人と目標量以上だった人の比は大体1:3だった。目標量を超えている人は極めて多く、脂質や飽和脂肪酸と比較するとナトリウムの重要性がかなり大きいことが分かる。

カリウム摂取量の分布について。異常に摂取している人のデータを除外して分布を出したところ、カリウム目標量未満だった人と目標量以上だった人の比は大体7:2だった。カリウムが足りていない人がかなり多いことが分かる。

●カルシウム摂取量の分布について。カリウムと同様、異常に摂取している人のデータを除外した。カルシウム必要量未満だった人と必要量以上だった人の比は大体3:2だった。目標量と必要量という指標の違いがあるので、どちらがより重要かは言えないが、カリウムとカルシウムはともに足りていない人が多いということは分かる。

コレステロール摂取量の分布について。コレステロールはあまり摂取しない方が好ましいものだが、分布を見ると摂取量に問題のある人は極めて少ないことが分かる。

●食物繊維摂取量の分布について。食物繊維はコレステロールと逆で、たくさん摂取する方が好ましいものだが、分布を見ると足りていない人がかなり多いことが分かる。

<議論&質疑応答(一部抜粋)>
●(徳留氏)カリウムとカルシウムを同じ指標で議論した場合はどうなるか?
→(佐々木氏)本来はそうすべきところであるが、カルシウムには目標量がない。それに対してカリウムは目標量と目安量というダブルスタンダードになっている。
今回の検討会について言えば、ナトリウムが生活習慣病の一次予防の観点から論じられており、カリウムも同じ観点から考えると、カリウムが循環器疾患の予防に資するということで策定された目標量の方を用いるのが適切であろうと考えた。


次回は7月20日に開催されます。今回、素案に対して委員から出た意見を反映させた案が提出され、それをもとに議論が行われる予定です。