食品安全委員会‐放射性物質の食品健康影響評価に関するWG(第六回)‐

6月30日、食品安全委員会放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループの第六回会合が開催されました。

以前の傍聴記録はこちらです→第一回第二回第三回第四回第五回

今回の議論には9名の専門委員、3名の専門参考人と7名の委員が参加しました。(欠席の専門委員は川村孝氏、佐藤洋氏、津金昌一郎氏、林真氏。)
配布資料はこちらで見ることができます。


今回の会合では、ベータ核種(ヨウ素セシウムストロンチウム)のとりまとめ案と、低線量に関する知見、妊産婦や小児に対する放射線影響に関する知見についての発表と議論が行われました。
今回の発表のポイントは次の通りです。
●放射性ヨウ素甲状腺がんリスクとの関連は、小児を対象とした多くの研究において線量反応関係が示されており、100mSvを超えるレベルにおいては統計学的に有意となっている。100mSv以下では有意な結果がほとんど得られていないが、「これ以下ならリスクはない」と言えるまでの科学的根拠は揃っていない。
●放射性ヨウ素甲状腺等価線量として出すかどうか。(→核種をまとめた総合的な基準として出した方がいいという意見と放射性ヨウ素甲状腺等価線量として出した方がいいという意見があった。)
放射性セシウムの経口曝露に伴う健康影響は解明されていないものの、標的器官は膀胱であると言える。
●放射性ストロンチウム旧ソ連のテチャ川の流域住民の研究により、低線量の被ばくにおいてもリスクの増加が示唆された。ただし、この研究においては放射性セシウムの被ばくもあり、どちらの影響もあったと言える。
●低線量に関する知見と、妊産婦や小児に対する放射線影響に関する知見についてはさらに担当の委員で精査し、素案を作成してもらう。



<傍聴した感想>
このワーキンググループでは、食品中の放射性物質の健康影響について評価しています。放射性物質の内部被ばくによる健康影響についての知見は国内外において非常に限られているという状況でありながら、専門委員はそれぞれの立場から意見を出し合ってこれまで議論を重ねてきました。
今や、被ばくが年間100mSv以上で発がんリスクが上昇する、ということは多くの人が知るところだと思います。では、それ以下ではリスクがないのでしょうか?この点をどう考えるかは専門家の間でも意見が分かれているそうで、ワーキングループでどういった審議がされるのか注目していました。
今回の会合で、放射性ヨウ素については「リスクを上げない線量を推定するには根拠がそろっていない」という委員からのコメントがあり、また、放射性ストロンチウムについては低線量でのリスク増加を示唆する知見が一つだけ紹介されていました。いずれの核種についても、知見が十分ではなく、明確な結論をまとめることはできていないように感じました。
ある物質のリスクを評価するという場合は、数多くある関連情報の中から、科学的に信頼性の高いものが選ばれ、それをもとに議論されていくのだと思います。しかし、今回はもともと存在する知見の数が非常に限られている上、緊急的なリスク評価ということで、早く結論を出さなければならないという制約もあります。とりまとめ案の最後にある「専門委員からのコメント」を読むと、そうした状況の中でリスク評価をする大変さ、苦しさがよく感じられました。


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【資料1の説明】
食品安全委員会事務局から、資料1「モニタリングによる核種の検出状況」に関する説明がありました。
データとして、食品中の放射性ヨウ素および放射性セシウムの検査結果、水産物ストロンチウム測定結果、福島第一原発20km圏内土壌中のストロンチウム調査結果などが挙げられました。


【資料2の説明】
食品安全委員会事務局から、資料2「ヨウ素とりまとめ(案)」に関する説明がありました。このとりまとめ案は、ワーキンググループの第四回会合で提出されたヨウ素知見とりまとめ案をもとに、担当の専門委員がまとめたものです。
文書の最後に担当の専門委員からのコメントが記されていました。

<担当の専門委員からのコメント>
チェルノブイリ事故の周辺住民に関する研究では、子どものヨウ素131被ばくは多くがミルク経由であり、低線量から甲状腺がんリスクとの用量反応関係がみられ、事故当時の年齢が低いほど後のリスクが上がっている。
●最新のデータでは、有意にリスクが上がる最低被ばく量は甲状腺等価線量として0.2Gy〜0.49Gy(≒200mSv〜490mSv)程度だった。
チェルノブイリ周辺地域の子どもでヨウ素131曝露による甲状腺がんリスクが高いのは、もともと栄養的にヨウ素欠乏であるからではないかと言われるが、疫学的には定かではない。
●放射性ヨウ素甲状腺がんリスクとの関連は、成人前の小児を対象とした多くの研究において線量反応関係が示されており、100mSvを超えるレベルの線量においては統計学的に有意となっている。一方で、100mSv以下の線量においては一つの例外を除いて有意にはなっていない。
●収集できた知見の研究デザインにおける限界などを考慮すると、あるレベル以下の線量において、被ばくのリスクは、他の要因によるリスクの増加と比べて十分に小さいであろうと言うことはできても、ゼロであると判断することには慎重な態度が必要である。
●発がんリスクを上げない安全な甲状腺等価線量を推定するには、現在、科学的根拠がそろっているとは言えない。

<議論&質疑応答(一部抜粋)>
●(山添康座長)最終的に甲状腺の等価線量として安全性を評価した方がいいのか、他の核種で共通して評価した方がいいのか?
→(手島玲子専門委員)放射性ヨウ素甲状腺に集まるという性質があり、半減期が短いということもあるので、他の核種とは分け、甲状腺等価線量として出す方がいい。
→(遠山千春専門委員)ヒトは核種ごとに曝露するわけではなく、複合的に曝露している。なので、総合的な基準を作る方が適切ではないだろうか。
→(圓藤吟史専門委員)原子力施設からどのような核種が放出されるのかの情報を一緒に付けた方がいいのでは。
→(滝澤行雄専門参考人)食品からの摂取量は国によって異なり、移行係数も異なる。一様にまとめて評価するのは難しいと思う。放射性ヨウ素については甲状腺等価線量としてまとめるのがベターだ。

●(圓藤氏)最後にある専門委員からのコメントはどういう扱いか?
→(山添座長)とりまとめ案を作成する際に気付いた点を書いてもらった。


【資料3の説明】
食品安全委員会事務局から、資料3「セシウムとりまとめ(案)」に関する説明がありました。

<担当の専門委員からのコメント>
放射性セシウムの経口曝露による動物実験と疫学研究はとても少ない。経口曝露にともなう生体影響はほとんど解明されていない。
チェルノブイリ事故によるセシウムの放射性降下物によりスウェーデン人において全がんリスクのわずかな上昇が観察されたという報告があるが、線量推定の不確実性や個人レベルの曝露や関連する要因を把握していないという限界がある。
●このように情報が少ない理由は定かではない。ただし、広島・長崎、チェルノブイリ、ハンフォード、ゴイアニアにおける外部被ばく及び内部被ばくによる白血病などの健康影響については、放射線による影響として別途検討する必要がある。

<議論&質疑応答(一部抜粋)>
●(鰐淵英機専門委員)どのくらい曝露されていたかのデータがないという問題点はあるが、尿中の放射性セシウム量と膀胱がん発生に関連があるという文献があった。提案として、福島の人たちの尿中セシウム量を計測することを含めてはいけないか。
→(山添座長)食品の範囲は超えるが、そういう意見があったとどこかで言えれば。

●(鰐淵氏)放射性セシウム半減期が長く、土壌中の放射性セシウムを植物が吸収していくことを考えると、比較的長い期間、尿中にセシウムが検出されると思う。なので、膀胱が標的器官であるとは言える。
→(山添座長)標的を定め、示すことも必要かもしれない。


【資料4の説明】
食品安全委員会事務局から、資料4「ストロンチウムとりまとめ(案)」に関する説明がありました。

<担当の専門委員からのコメント>
旧ソ連核兵器製造所からテチャ川に流出した放射性物質ストロンチウム90及びセシウム137)に汚染された流域の住民のコホート研究からは、固形がん及び白血病との間に用量反応的なリスクの増加が示されている。
●被ばく線量推定の不確実性やがん把握のバイアスなどの可能性はあるが、最近のテチャ川のコホート研究からは、低線量の被ばくにおいてもリスクの増加が示唆され、閾値なし直線モデル(LNTモデル)の妥当性を裏付けている。

<議論&質疑応答(一部抜粋)>
●(圓藤氏)テチャ川の流域住民のコホート研究については、ストロンチウムセシウムのどちらの影響か分からないと明記した方がいい。同じ文献は放射性セシウムのとりまとめ案でも引用している。
→(遠山氏)そのような重複があるので、核種ごとの個々の報告書にせず、全体をひとつにまとめ、第一章、第二章、第三章などと章だてにしたらどうか。
→(山添座長)最終的にどういった形にするかは別として、今は個々の核種にどのような影響があるのかを検討していく。


【資料5,6の説明】
食品安全委員会事務局から、資料5「低線量に関する主な知見の整理(案)」と資料6「妊産婦(胎児)・小児に対する放射線影響に関する主な知見の整理(案)」に関する説明がありました。

<議論&質疑応答(一部抜粋)>
●(鰐淵氏)資料5の低線量における影響について。器官や臓器、年齢によって閾値が変わってくるのだということを感じた。
→(山添座長)集団の栄養状況なども含めてさらに精査する。

●(遠山氏)資料6について。妊産婦、小児、それ以外など、対象者ごとに分けて線量を検討するのもいいかと思った。相対的な感受性の違いによって基準が出せればと思う。

●(山添座長)再度、何人かの委員に見てもらってドラフトを作成してもらいたい。