食品安全委員会の評価書(案)「食品中に含まれる放射性物質」について

7月26日に開催された食品安全委員会放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループの第九回会合で完成した評価書案について、その中身をまとめました。
この評価書案をもとに、30日間のパブリックコメント(国民からの意見の募集)を行い、本評価結果を作成します。もしパブリックコメントを出したいという場合は、以下のまとめだけでなく、評価書案の本体にも目を通すようにしてください。

なお、食品安全委員会は、8月2日に評価書案についてワーキングループ座長(山添康氏)が説明する意見交換会を開催する予定です。詳しくはこちらをご覧ください。


【評価書(案)食品中に含まれる放射性物質
226ページ。評価書案作成にあたって参考にした文献は3300本。

<評価書案の全体について>
●ウランは放射線による影響よりも化学物質としての毒性がより鋭敏に出ると判断されたため、TDI(耐容一日摂取量)を設定した。
プルトニウムアメリシウムキュリウムストロンチウムについては情報が少なく、個別の評価結果は示せないものと判断した。
●放射性ヨウ素については、甲状腺への影響が大きく、甲状腺がんが懸念される物質である。甲状腺等価線量として100mSv以上においては有意な健康への悪影響が示された報告があるが、個別に評価結果を示すのに十分な情報はなかった。
放射性セシウムについては、食品中からの検出状況を勘案すると現状ではもっとも重要な核種であると考えられた。しかし、個別に評価結果を示すのに十分な情報はなかった。
●従って、ウランについてはTDIを示し、その他の核種については低線量における健康影響を評価し、その結果をとりまとめた。


<低線量における健康影響>
●高線量域で得られたデータを一定のモデルにより低線量域に外挿することに関しては、モデルの検証が困難であるなどの理由から、今回に関しては慎重であるべきと考えられた。従って、今回の評価においては現実の疫学的データで言える範囲で結論をとりまとめた。
●ヒトは常に自然界からの放射線(日本では平均1.5mSv/年)などから被ばくしており、データの解釈に当たっては様々な要因による被ばくのリスクも存在していることを考慮して検討を進めた。
●評価に用いた知見は、単に内部被ばくのみの影響を見たものではなく、外部被ばくの影響も含まれている。内部被ばくのみの影響を調べた知見は極めて少なかったためである。
●評価に用いた知見は、被ばく線量が年間当たりではなく累積線量で表したものが多かった。また、年間当たりで表しているものについても、累積線量から割り出された値であることが多かった。そのため、本評価においては累積線量で表すことが妥当と判断した。
●成人に関しては、低線量での健康への悪影響が見られた、あるいは高線量での健康への悪影響が見られないと報告している疫学的データは、インドのものが一つ、広島・長崎におけるものが二つあった。
 ‐インドの高線量地域で、累積線量500mGy強において発がんリスクの増加 は見られなかったという報告がある。
 ‐広島・長崎の被爆者で、被ばく線量0〜100mSvの群では固形がんによる死 亡の過剰相対リスクの増加は見られなかったが、0〜125mSvの群では増加し たという報告がある。
 ‐広島・長崎の被爆者で、対照(0Gy)群と比較した場合、臓器吸収線量  0.2Gy未満では白血病による死亡の推定相対リスクの増加は見られなかった が、0.2Gy以上では増加したという報告がある。
●小児に関しては、線量の推定などで不明確な点のある文献ではあるが、チェルノブイリ事故時に5歳未満であった小児において、白血病のリスクの増加を報告しているものがある。また、甲状腺がんについては、被ばく時の年齢が低いほどリスクが高かったことを報告している文献がある。
●胎児に関しては、1Gy以上の被ばくで精神遅滞が見られたが、0.5Gy以下では悪影響が見られなかったという文献がある。


<低線量における健康影響‐まとめ>
●以上のことから、成人に関しては、放射線による健康影響が見られるのは、生涯における追加の(*)累積線量として100mSv以上であると判断した。(これは、もし特定の年に数mSvの被ばくがあったとしても、生涯で100mSv以内であれば健康影響は出ないであろうということを意味する。)
*日本人は常に自然界から約1.5mSv/年の被ばくを受けており、また、正常なヒトの体内には放射性物質が存在している。こうしたものからによる被ばくは上記の100mSvには含めない。
●小児に関しては成人より影響を受けやすい可能性(甲状腺がん白血病)があると考えられた。
●100mSv未満の健康影響について言及することは、現在得られている知見からは困難であった。


<ウランによる健康影響>
●ウランは全ての同位体が放射性核種であるため、化学物質および放射性物質両方の毒性を発現する可能性がある。
●実験動物においてはウランの影響をもっとも受けやすいのは腎尿細管である。
●現時点では、ウランの経口摂取による発がん性を示す知見は得られていない。

●ラットの91日間飲水投与試験は、病理組織学的検査を含め幅広い検査が行われている。したがって、ウランのTDI(耐容一日摂取量)は、この試験におけるLOAEL(最小毒性量)に不確実係数(安全係数)を適用し算出することが適切であると考えられた。
●不確実係数は300とする。この係数は、種差の10、個体差の10、LOAELからNOAELへの外挿の3から成り立っている。
●この試験においてLOAELは0.06mg/kg体重/日であり、これに不確実係数300を適用すると、ウランのTDIは0.06 mg/kg体重/日×1/300=0.2μg/kg体重/日となる。
●このTDIを放射線量に換算すると、実効線量として約0.005mSv/年であり、十分に低い線量であると考えられた。したがって、ウランの毒性は放射性物質としてよりも化学物質としての方が鋭敏に出ると考えられた。


<おわりに>
リスク管理は、本評価結果が通常の生活において受ける放射線量を除いた生涯における累積線量であることを考慮し、食品からの放射性物質の検出状況、日本人の食品摂取の実態などを踏まえて行うべきである。