食品安全委員会 意見交換会「放射性物質に係る食品健康影響評価について」

8月2日、食品安全委員会意見交換会放射性物質に係る食品健康影響評価について」が開催されました。
先日完成した放射性物質のリスク評価の評価書案について、ワーキングループの座長である山添康氏が解説し、会場と質疑応答および意見交換を行いました。当日はおよそ100名の消費者が参加しました。
配布資料は食品安全委員会のサイトで公開されています。

ここでは会場とのやり取りの一部をご紹介したいと思います。
なお、評価書案の中身についてはこちらの記事でポイントをまとめてありますので、ご参考にどうぞ。


<傍聴した感想>
今回の意見交換会はあくまでも評価書案の解説であり、質問に対する回答も基本的には評価書案をもとにしたものとなっていました。それに対して会場からの質問は「子どもの規制はもっと厳しくすべきではないか」「年齢別にするべきではないか」など、今後のリスク管理にも関わるものも多く、きっと質問者にとっては納得のいく答えではないのではないかなぁと思う場面がありました。
評価書案については、8月27日までパブリックコメント(国民からの意見・情報)を募集しています(詳しくはこちらをご覧ください)。
パブリックコメントの結果を受けて再度、食品安全委員会で検討し、評価書を完成させます。そして、厚生労働省で評価書をもとに、放射性物質の検出状況や日本人の食品摂取量も勘案し、食品の規制値が検討されることになります。


☆質疑応答および意見交換(一部抜粋)
●(会場から)一定期間の曝露で100mSvというのが目安になるということだと思うが、それをなぜ生涯の累積線量にしているのか?高放射線量地域では発がんは過剰ではない、むしろ低いかもしれないというデータが中国などである。
→(山添康座長)低線量での健康影響は発がんであるということを示す広島・長崎の50年間という長期に渡るデータがある。このデータによると、被ばく年齢が低かった人では比較的早い時期に、被ばく年齢が高かった人ではより遅い時期に発がんがあり、年齢によって発症する時期に差があった。これを考慮すると、全体のポピュレーション(集団)に対し、一定期間として線量を出すのは難しかった。

●(会場から)(1)ICRP全米科学アカデミーでは「閾値がある」という前提で考えているがどう思うか?(2)広島・長崎のデータが豊富ということだが、広島では上空で爆発してほとんどは成層圏に飛んでいった。今回の事故は何千倍も高濃度であると思われるが、対照としては適切だろうか?
→(山添氏)(1)2007年に米国のアカデミーなどでも見直しが行われ、低線量の直線モデルに問題があるというデータはむしろないということだ。段々と直線モデルの方が論理的に優れているのではないかとなっている。できるだけ実態に近いかたちでどのように低線量を評価していくのか色々な議論がされているがまだ結論は出ていない。
(2)広島・長崎やチェルノブイリだけでなく、ハンフォードなど世界中の色々なところで事故が起きており、フォローアップが行われている。そうしたデータがひとつのモデルにのってくるかどうか、今すぐには難しいかもしれないが、モデルの信頼性が検証される。

●(会場から)子どもの方がリスクは高いということが分かっているのに、なぜ大人も子どもも同じ生涯100mSvにしてしまうのか?被ばく年齢が低いほどリスクが高いということであれば、0-1歳、1-3歳などと年齢を区切って、子どもについてはもっと細かく基準を作って欲しい。
→(山添氏)子どもや胎児に不安を持つのは当然のことだと思う。私たちもその点についてはできるだけ調べたつもりで、評価書案に掲載した2010年のデータがもっとも低い線量で影響が出たものだ。その他は100mSv以上で初めて影響が出たという文献が多かった。2010年のデータは実験手法などにいくつかの疑念があり、おそらく本来の評価では落とされるようなものであると思う。しかし、小児で甲状腺ヨウ素が集まりやすいなど色々な状況を考えていくと無視はできないということだった。ただ、チェルノブイリ事故では汚染したミルクの摂取を禁止していなかったのに対して、今回は色々な配慮がされており、直接的に比較することはできないと思う。

●(会場から)(1)ウラン以外のTDIは厚生労働省で決めるのか?(2)ワーキンググループの専門委員の選考基準は何か?
→(新本英二リスクコミュニケーション官)(1)TDIは厚生労働省が定めるものではないが、個別の核種についてどうするかは、厚生労働省で食品の規制値を審議する中で話し合われるだろう。
(2)ワーキンググループの専門委員は、放射性物質関連に造詣が深い方を中心に選んだ。科学的知見についてはパブリックコメントを通じて広く収集し、さらにワーキンググループなどで検討していく。

●(会場から)(1)100mSvに安全係数を掛けないのはなぜか?(2)生涯の累積線量を年齢で均等割りしないのはなぜか?(3) 100mSv以下の健康影響は判断できないということだが、なぜ閾値なし直線モデルを採用しないのか?
→(山添氏)(1)安全係数は基本的には動物実験で得られたデータをヒトに適用する場合、「動物ではそうだったけどヒトでは分からない」と、安全側に立って掛けるものだ。今回はヒトについて得られたデータを使っているので、そのままの数値を出した。
(2)広島・長崎やチェルノブイリで多くの人が被ばくしたが、きっちりとした年齢層別の解析に耐えうるようなデータはない。出さないのではなく、出せないのだと理解してもらいたい。
(3)リスク管理の面から、基本的に放射線に当たらない方がいいというのはその通りであり、ICRPではその観点から閾値なし直線モデルを採用してきた。しかし、どの線量でどういう影響が出ているのかという実態をつかんでいるかというと、そうではない。そこが悩ましい点であるというのが正直なところであり、今回も「100mSvは閾値ではない」と言っている理由である。100mSv以下では、自然放射線やそのほか生きていく中で受ける放射線による影響と明瞭に区別できないというのが、今の科学の限界だ。
→(質問者から)データがないというのはこれまでの説明から分かるが、それだからこそより安全側に立ってリスク管理をすべきだと考えている。
→(新本氏)今回はリスク評価として、科学的根拠に基づいて言えることをまとめたものであり、お尋ねのご主旨は今後のリスク管理についてのものだと受けとめる。

●(会場から)(1)内部被ばくを評価する際に累積線量だけでは適切ではないということでICRPに批判が集中しているが、そうした批判は取り入れたか?(2)汚染した食品を摂取することで実際にどれくらいの蓄積があるのか、色々な文献があるが、それは考慮しているか?
→(山添氏)チェルノブイリ事故についてかなりの研究者の間で論争があるのは事実であり、例えば、ウクライナとロシアのデータは一致しない。結果として甲状腺がん白血病が発症したというのは事実だが、その影響が出た線量については国や研究者によって差がある。そのため、どのデータをどのように評価するのかということが重要になる。今回も色々な文献を参照したが、線量評価や統計に甘さがあるものが大半であり、最終的な数値としては残っていない。

●(会場から)外部被ばくは時間を経るほど低くなっているということだったが、現在でも家の中で0.2μSvを超えているところもある。100mSvは外部被ばくだけでも超えてしまう地域もあるのではないか?ヨーロッパではチェルノブイリのこともあり妊婦や小さな子どもに対して特別な食品の基準が定められており、日本でも長い目で見て子どもに対しては厳しい基準を定めないといけないと思う。
→(山添氏)現時点で曝露は外部被ばくと食品からの内部被ばくがあり、両方が心配の種になっているというのは確かだと思う。外部被ばくと内部被ばくのそれぞれの対策は、今回の評価書案で出された生涯100mSvという値を念頭に、管理機関で検討してもらえるだろう。我々の身体の中に入る線量で調節できるのは食品だと思うので、長い目で見た場合は食品から摂取する量を減らしていくことが重要になる。

●(会場から)前回の評価書案と最終的な評価書案で違っている点がある。例えば、「放射線の悪影響」の悪という字が消えている。また、佐々木委員が「国際的な防護体系に配慮して」という文章を入れた方がいいと言っていたが入っていない。きちんとした審議のプロセスが見えないまま進むと、100mSvという数字だけが一人歩きをして誤解を生むことがある。
→(山添氏)食品安全委員会なので、食品の健康影響については常に悪い側を評価するというのがこれまでのルールであるということが後から確認できたので、悪という字は取った。さらに、ホルミシス効果についてはWHOでもなかなか認められていないということだったので、単に健康影響だけでいいということだった。また、確かに佐々木委員は「国際的な防護体系に配慮して」ということを言ったが、ICRPは管理機関であり、ここは評価機関なので、少なくともこの評価書案にそれを盛り込むことはまずいということで記載しなかった。

●(会場から)生涯線量が100mSvを超えるとどのような健康影響があるのか?その目安はなぜ125や200でなくて100mSvなのか?「安全側に立って」という感覚的な表現ではなく、具体的な根拠となるようなデータを教えて欲しい。子どもを抱えた不安な人ももちろんいるが、安全に影響がなければ多少のリスクは引き受けてもいいという消費者がいることを理解してもらいたい。
→(山添氏)100mSvは、人工放射線の影響が他の影響と区別して明瞭に検出できる限界の値だ。人工放射線に特有の現象が出るならば人工放射線による影響だときちんと明示することができるが、実際はタバコも自然放射線も標的は同じ。もともと日本人の30%ががんになり、100mSvの被ばくでは0.数%程度、その確率が上がる。100mSv浴びれば全員ががんになるということではない。