消費者庁意見交換会「食品と放射能について、知りたいこと、伝えたいこと」(3)

傍聴記録(1)(2)に引き続き、8月28日に開催された消費者庁意見交換会「食品と放射能について、知りたいこと、伝えたいこと」の傍聴記録です。
今回はディスカッションの内容の一部をご紹介します。


☆ディスカッション
コーディネーター:向殿政男氏(明治大学理工学部教授)
パネリスト:明石真言氏(独立行政法人放射線医学総合研究所理事)、新山陽子氏(京都大学大学院農学研究科教授)、栗田典子氏(パルシステム生活協同組合連合会商品本部副本部長)

●(向殿政男氏)食品中の放射性物質に対して、消費者の反応はどのようでしょうか?
→(栗田典子氏)3月以降、放射性物質に関する消費者からの問い合わせが殺到し、ここにきてますます増えています。「ダシのカツオエキスのカツオはいつどこで採れたものか?」など、その内容は細かいところにまで及んでいます。熱心な方だと電話口で40分50分と話され、その後ろからは小さな赤ちゃんが泣いている声が聞こえるといった状況です。
→(明石真言氏)放射線は目に見えないし味もありません。分かりにくさが怖さにつながっているのではないでしょうか。我々は高い放射線量は危ないということはよく知っていますが、一般の人はどのあたりからが危ないのかを判断する術を持っていません。単位の分かりにくさもあります。自分たちで経験して分かる怖さというものがないので、まずは「危ない」という意識になります。
また、いわゆる専門家でも様々なことを言っているのでどれが正しいのか分かりにくくなってしまっています。ですが、それでは放射線の健康影響に正しく向き合えないので、我々はどのように科学的根拠のある情報を出せば誤解のない理解につながるのかいつも考えています。
→(新山陽子氏)今回行った調査は特別に関心の高い人を集めたわけではありませんが、情報処理能力が非常に高かったという印象があります。対象者に「数値を出して欲しい」と言われたので、細かいデータも提供しました。皆さんはそれを読み取り、大筋を理解されていました。判断の根拠となるものを皆さん求めているのだと思いました。
そうした中で、メディアの報道の仕方について気になることがありました。食品の放射性物質に関するメディア報道は多くありましたが、放射性物質の健康影響のメカニズムなど、ごく基本的なことを解説した記事はほとんどなかったように思います。他の食品の事例と比較してみても今回はその傾向があると思います。例えば、鳥インフルエンザの時は早くから、新聞の科学欄や生活欄で解説記事が出ていました。

●(向殿氏)自然放射線量に比べると規制値はかなり厳しいものだと思いますが、消費者の不安はどのように解消したらいいのでしょうか?
→(明石氏)少し超えたら健康影響が出るようなところに規制値は設定できません。規制値は守らなければならないものですが、それを超えたら健康影響が出るというわけではありません。
→(栗田氏)ひとつは伝え方の問題があります。国が言うことは信頼できないと言われることもあります。我々の組合員には福島のグループもあり、彼らは原発の安全教育を受けてきたということがあります。彼らは「安全だと言われていた原発がこれほどの事故を起こした。これで信用できるのか?」という立場から情報を判断しています。より安全で安心だと思えるような政策を進めるしかありません。農産物については検査で不検出のものも多くなりましたが、水産物についてはまだ検査が十分ではないと考えています。

●(新山氏)今回の調査結果で挙げられた、消費者が理解につまずいている点について解説してください(*)。まず、100mSv以下で「影響が分からない」とはどういうことでしょうか?データがないのか研究されていないのか、どちらでしょうか?
*詳しくはこちらをご覧ください。
→(明石氏)「影響が分からない」というのには三つの観点があります。まず、明らかに被ばくしている人の方でがんが増えたというデータがないということ。次に、ヒトでのデータがないということ。そして、動物試験で差が出ていないということ。
研究されていないのではなく、差があるデータがないというのが正しい認識です。なぜデータの差が出ないのかというと、差が小さすぎて見えないからだと思います。
→(新山氏)科学者が正確を期するための表現は意図が伝わりにくくなってしまうことがあるので、工夫が必要だと思います。

●(新山氏)半減期があっても少しずつ体に溜まっていくのではないか、という点についてはどうでしょうか?
→(明石氏)確かに、1/2、1/4、1/8、1/16・・・と永遠にゼロにならないのではないかと思われる方もいるかもしれません。ですが、生物学的半減期は「こういう減り方をしていく」という概念です。体内では代謝されるので、永遠に残って溜まっていくということはありません。ただし、放射線防護上は、放射線は溜まると仮定して足して計算しています。安全側に立って評価するためです。
→(新山氏)そうした考え方も図示などをして分かりやすく伝えてもらえればと思います。


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会場から集めた質問票への回答もありました。


●(質問票から)長期間の低線量被ばくと短期間の高線量被ばくで、影響は違うのでしょうか?
→(明石氏)確定的影響は異なります。がんの治療で放射する場合は、高線量を一回で当てると皮ふに傷害が出てしまうので、二十回に分けて当てています。それに対して、確率的影響についてはどの程度違いがあるのかは分かっていません。ただ、全体のリスクが低い線量では、その違いは気にする必要がないと思います。

●(質問票から)給食を自主的に停止していることがあります。どのようにリスクを理解してもらえばいいのでしょうか?
→(新山氏)調査で「自分はいいけど子どもが心配だ」という声を聞きました。今は各々の親が自分で情報を収集して、リスクを判断しているという状況です。シビアに感じている親に強制的に給食をとってもらうようにすることは難しいと思います。
全ての学校で実施することは難しいかもしれませんが、今日のようなお話を聞いてもらうことはひとつの方法です。調査によって、情報さえあれば専門家がいなくても議論できるということが分かったので、クラスや学校で議論してもらうといいと思います。その中で給食についても話し合えばいいのではないでしょうか。
ただ、給食の実施者の立場からはまた違う考えがあると思います。小学校で給食を停止する動きが広がれば、海外からは日本の農産物が使えないように見えてしまいます。そうすると、事態が復旧したときに産業に大きな打撃が残ることになるので、冷静になることは大切だと思います。

●(会場から)今回取り上げられた質問票は二枚だけです。後日で構わないので、皆さんが出した質問に対して消費者庁のホームページで回答をいただければと思います。他人の意見を聞くことは、私たちの理解を深めることにつながるのでぜひお願いします。