消費者庁意見交換会「食品と放射能について、知りたいこと、伝えたいこと」(2)

傍聴記録(1)に引き続き、8月28日に開催された消費者庁意見交換会「食品と放射能について、知りたいこと、伝えたいこと」の傍聴記録です。

今回は京都大学大学院農学研究科教授の新山陽子氏の講演内容をご紹介します。
新山氏は消費者庁の委託により、消費者が食品中の放射性物質のリスクをどのように認知しているのかについて調査研究しました。今回はその結果についてお話されました。

この結果はリスクコミュニケーションの仕方について示唆を与えるとともに、消費者にとってはリスクの捉え方のクセのようなものに気づくきっかけになると思います。


☆「消費者のリスク認識〜食品を介した放射性物質の健康への影響〜」(京都大学大学院農学研究科教授、新山陽子氏)
【これまでの研究で分かっていること】
以前のリスクコミュニケーションは「一方向」「説得」「選択された情報」というものでしたが、現在では「双方向」「相互理解(一致しなくてもよい)」「可能な限りすべてを共有」というものになっています。
消費者のリスク認知は、将来を予測するためのデータが乏しい不確実性のもとではズレが生じます。たとえ何かの専門家であっても、その人は別の専門分野においては非専門家であり、ズレが生じるということも分かっています。
このズレは、目立つ情報や負の情報に注目し、データの有意性に注意を払わない、確率や用量-反応の認識を苦手とするといった状態として現れます。


【リスクコミュニケーション調査について】
小学生の子どもを持つ親を対象にリスクコミュニケーション調査を行いました。
調査の目的は、消費者のリスク認知や求める情報を知ること、効果的なリスクコミュニケーションの方法を探索することです。
対象者(東京の男性・女性と京都の女性、全部で95名)を少グループに分け、次のような流れで調査を行いました。
●第一回調査・情報提供
(1)面接調査、(2)第一回情報提供、(3)グループディスカッション
●第二回調査・情報提供
(1)第二回情報提供、(2)グループディスカッション、(3)専門家との質疑(半数のグループのみに実施)、(4)面接調査、アンケート

調査でのコミュニケーションは説得を目的とせず、双方向の密なものとしました。
対象者に提供する情報は、専門家の協力のもとで作成しました。科学的に解明されたメカニズムや判断の根拠となるデータ、データが不足しており分からない部分はどこかなどについてまとめました。


【第一回調査・情報提供】
第一回情報提供をする前に、四つの危険因子別(環境中の放射性物質、食品中の放射性物質腸管出血性大腸菌残留農薬)のリスク認知を面接調査で調べました。その結果、東京の男性と女性は腸管出血性大腸菌のリスクをもっとも高く認知し、京都の女性は環境中の放射性物質のリスクをもっとも高く認知している傾向があることが分かりました。

また、東京の男性と女性に対して、食品中の放射性物質のリスク認知に影響を与えている要因を調べました。リスクを高く捉えている人は、「メディアの情報での怖いイメージ」「病気の原因になる」「将来重大な影響が現れる」「死に至る」がもっとも大きな影響を与えていました。その他に、「目に見えない」「データがない」「知識がない」「子供への影響」も大きな影響を与えていました。
リスクを低く捉えている人は、「落下地域は限られている、一過性、放出量が少ない」「ある程度検査されている・出荷停止措置がある」「規制値が安全側に取られている・規制値がある」「健康に大した影響がない」がリスク認知に大きな影響を与えていました。

第一回目の情報提供では、前の講演者である明石真言さんが話されたような内容(*)に加えて、福島第一原発事故の状況も含めました。
傍聴記録(1)をご覧ください。
この情報提供の結果、特に理解が進んだ部分は、「原子炉事故の原因」「摂取量・影響の程度は小さい」「食品を介した影響(小計)」「人体への影響(小計)」などであることがアンケート調査により分かりました。

情報提供の後はグループディスカッションを行いました。今回分かったことや新たに知ったこととして、原子炉の仕組みや自然放射線を受けていること、確定的影響や確率的影響などが挙げられました。
同時に、多くの疑問点も出てきました。例えば、事故収束の見通しや根拠データについて、実際の総被ばく線量についてなどです。


【第二回調査・情報提供】
第一回調査で出た疑問点について情報提供をしました(事故収束の見通しを除く)。
その結果、「一回目の疑問に答える資料により理解が深まった」「人体への影響(小計)」「根拠データ、数値、グラフで理解が深まった」「除染方法」などの理解が進んだことがアンケート調査で分かりました。

その後、面接調査を行い、四つの危険因子別(環境中の放射性物質、食品中の放射性物質腸管出血性大腸菌残留農薬)のリスク認知を再度調べました。放射性物質(環境中と食品中)のリスク認知の度合いは、東京と京都の男性と女性で当初より低下していました。ただし、個人レベルでみると、リスク認知の度合いが高くなった人もいました。リスクについてよく分かったという人は多かったけれど、その認知の仕方は様々でした。時間をかけて議論していく必要があります。


【調査結果から分かったこと】
第二回情報提供を経ても理解につまずいている点には以下のようなものがありました。
●少量の放射線を浴びた場合のリスクはどのくらいか。
●100mSv以下で「影響が分からない」というのは、データがないのか研究されていないのか。
半減期があっても少しずつ体に溜まっていくのではないか。
●実際の被ばく量はどのくらいか。
チェルノブイリ事故の影響が少し分かりにくい。
●検査でサンプルはどのように取っているか。

今回の調査によって、消費者がリスクを判断する際に必要な情報は何であるかが示されました。
消費者は、事態の生じた原因や収束の見通し、健康影響の判断の基盤となるデータ、現実の状態、事態への対応措置と実施状況に関する情報を求めています。健康影響の判断の基盤となるデータには、過去の事例との比較も含みます。消費者は、「過去の事例とは異なる」と言われても、どのように異なるのか自分で確認をしたいと思っているのです。

今回の調査で行ったような双方向のコミュニケーションとグループディスカッションの組み合わせは、情報を多面的に捉え、異なる意見を知ることができるという特徴があります。この特徴により消費者は、より深い理解が得られ、自らの妥当性を確かめることができます。

情報提供で求められるのは、結論ではなく、科学的な考え方や、物事のメカニズム、判断を導くプロセスを示すということです。その際には、詳しいデータや情報を提供し、データソースを明確にすることが必要です。


***


新山氏の発表の後にディスカッションが行われました。ここで、新山氏が挙げられた、消費者が理解につまずいている点について、明石真言氏から解説がありました。
この続きは追ってご紹介します。