米国大使館セミナー「ウイルス抵抗性バイテクパパイヤ『レインボー』の開発物語と日本における表示について」

9月8日、米国大使館農務部主催のセミナー「ウイルス抵抗性バイテクパパイヤ『レインボー』の開発物語と日本における表示について」が開催されました。

日本では現在(9/6時点)、大豆やトウモロコシなど7(全167品種)の遺伝子組換え作物の栽培と流通が認められています。これらに加えて新たに、ハワイで栽培されている遺伝子組換えパパイヤ「レインボー」が12月1日から認可されます(*)。
*レインボーの食品健康影響評価は平成21年7月に終わっており、食品としての安全性については問題ないとされていました。その後、平成22年3月から消費者委員会において表示のルールについて審議が重ねられていました。今年7月にはパブリックコメントを経て、表示のルールについてもまとまりました。


セミナー当日は、アメリカから来日したレインボーの開発者であるデニス・ゴンザルベス氏による開発物語と、消費者庁による遺伝子組換え食品の表示に関するお話がありました。
また、レインボーの試食もさせていただきました。レインボーは安全性や表示のルールの審議は終わりましたが、規則の施行日は12月1日なので流通はまだしていません。
ハワイ産のパパイヤは日本では高級品だそうで、普段はあまり食べられないようなおいしいパパイヤでした。現在ハワイで栽培されているパパイヤの約85%は遺伝子組換えパパイヤとのことなので、ハワイに旅行し現地でパパイヤを食べられる方は既に口にしたことがあるかもしれません。


ここでは、お話と質疑応答の一部をかいつまんでご紹介します。


☆レインボーの開発物語(デニス・ゴンザルベス氏、米国農務省太平洋農業研究センター長)
【パパイヤリングスポットウイルスの問題】
パパイヤリングスポットウイルスは世界中に分布しており、アブラムシが媒介することでパパイヤに自然感染します。パパイヤリングスポットウイルスはハワイにおいては1945年に報告され、1950年代にオアフ島のパパイヤ産業を壊滅状態にしました。

【ウイルス抵抗性パパイヤの開発】
1978年、ハワイ島のプナ地区のパパイヤ産業を守るためにパパイヤリングスポットウイルスの対策チームが発足しました。
1985年にウイルス抵抗性に関する大きな発見がありました。ウイルスの遺伝子の一部を植物に導入すると、その植物はウイルス抵抗性を示すようになるというものです。
対策チームはこの発見を応用し、パパイヤリングスポットウイルスに抵抗性のあるパパイヤの開発を進めました。パパイヤリングスポットウイルスの外被(コート)タンパク質の遺伝子を遺伝子銃(ジーンガン)という機械を用いて、パパイヤの遺伝子に導入したのです。その後も研究を重ね、1991年にウイルス抵抗性の遺伝子組換えパパイヤの開発に成功しました。
当初は外被タンパク質が生成されて抵抗性をもたらすという仮説でしたが、最近はRNAが抵抗性をもたらしていると考えられています。

1995年には、既存のパパイヤを用いて遺伝子組換えパパイヤ「レインボー」を開発しました。非遺伝子組換えパパイヤ「サンセット」(赤肉)にパパイヤリングスポットウイルスの外被タンパク質の遺伝子を導入した遺伝子組換えパパイヤを作り、それに非遺伝子組換えパパイヤ「カポホ」(黄肉)を掛け合わせました。カポホを掛け合わせたのは、生産者が黄肉のパパイヤを望んだからです。

この頃にはプナでもパパイヤリングスポットウイルスが蔓延していました。そのため、科学的な開発の次は、遺伝子組換えパパイヤの規制緩和と商業化を進める必要がありました。その結果、1998年にようやく生産者へ遺伝子組換えパパイヤ種子の配布が始まりました。

【現在の状況】
パパイヤリングスポットウイルスはいまだに深刻な問題です。
2011年はハワイでのパパイヤ生産量の約85%が遺伝子組換えパパイヤでした。プナ地区で遺伝子組換えパパイヤと非遺伝子組換えパパイヤが隣同士で栽培されているというのは普通の風景です。スーパーで販売される値段も同じです。
実際に栽培している遺伝子組換えパパイヤが抵抗性を示しているかは常にチェックしています。これまでに抵抗性が損なわれていたことはありません。

【日本への輸出】
日本ではこれまで非遺伝子組換えパパイヤしか認可されていませんでした。そのため、プナでは日本向けに非遺伝子組換えパパイヤを栽培する必要があったのです。
非遺伝子組換えパパイヤと遺伝子組換えパパイヤを共に栽培するためのプロトコールは日本との協議の結果できたものです。このプロトコールで栽培している限り実際に汚染は起きていませんが、時間の経過とともに汚染しないように圃場を管理することが大変になってきました。
1992年はハワイのパパイヤの25%が日本に輸出されていましたが、2011年は10%以下となっています。

日本では、2001年から厚生労働省で食品としての安全性、環境省で環境への安全性の審議が始まりました(厚労省は2009年、環境省は2010年に審議終了)。そして、消費者庁での表示ルールの審議も終了し、2011年12月1日から流通が解禁される予定です。


☆遺伝子組換え食品の表示について(今川正紀氏、消費者庁食品表示課課長補佐)
【遺伝子組換え食品の表示ルール】

遺伝子組換え農産物とその加工品については、平成13年4月にJAS法および食品衛生法に基づく表示ルールが定められ、義務となっています。

従来の農産物と組成や栄養価が同じ遺伝子組換え農産物の場合、遺伝子組換え農産物を主な原材料(全原材料に占める重量の割合が上位3位までで、重量の割合が5%以上のもの)としているものについては「遺伝子組換え」あるいは「遺伝子組換え不分別」の旨の表示が必要です。不分別とは、遺伝子組換え農産物と非遺伝子組換え農産物を区別しないで使っているということです。
「遺伝子組換えでない」旨の表示は任意です。また、油や醤油など、加工後に組換えられたDNAやそれによって生じたタンパク質が検出できない加工食品については「遺伝子組換え」「遺伝子組換え不分別」の旨の表示も任意になります。
従来の農産物と組成や栄養価が異なる遺伝子組換え農産物(高オレイン酸大豆、高リシントウモロコシ)を使っている場合は、「大豆(高オレイン酸遺伝子組換え)」「トウモロコシ(高リシン遺伝子組換え)」といった表示が必要です。

【「遺伝子組換えでない」表示をするためには】
「遺伝子組換えでない」旨の表示は任意ですが、この表示をするためにはIPハンドリング(分別生産流通管理)をしなければなりません。
IPハンドリングとは、生産、流通、加工の各段階で非遺伝子組換え農産物を遺伝子組換え農産物と混入しないように管理し、それが書類などで証明されていることです。ただし、大豆とトウモロコシについては最大限の努力をしても完全に分離することは難しいので、5%以下の意図しない混入は認めています。

【パパイヤの遺伝子組換え表示】
ハワイのパパイヤについてはIPハンドリングをすることを原則として、遺伝子組換えパパイヤについては「遺伝子組換え」の旨のシールを現地で貼ることとしています。
シールはパパイヤ一つ一つに付けられます
が、流通途中にシールがはがれてしまうことも考えられます。この場合、もしその業者が遺伝子組換えパパイヤのみを扱っているのであれば「遺伝子組換え」の旨のシールを貼ります。両方扱っているのであれば、そのパパイヤがきちんと区別して管理されていることを証明できれば該当のシールを貼り、証明できなければ不分別のパパイヤとして販売することになります。

12月の流通開始に向けて、シールの詳細を検討するとともに国内でのガイドラインの作成を行っています。


☆ディスカッション(一部抜粋)
モデレーター:中野栄子氏(日経BPコンサルティング

●(中野栄子氏)遺伝子組換えパパイヤで「不分別」というものはあるのですか?
→(今川正紀氏)基本的には遺伝子組換えパパイヤと非遺伝子組換えパパイヤは区別して管理されます。しかし、流通の過程で、そのパパイヤがどちらであるか分からなくなってしまう場合があるかもしれないので、法令上は「不分別」があります。カットフルーツという形態だと不分別はあると思います。

●(中野氏)消費者に分かりやすいメリットは何ですか?
→(デニス・ゴンザルベス氏)メリットは二つあります。パパイヤリングスポットウイルスが蔓延したとき、ハワイのスーパーからパパイヤが消えてしまいました。現在では遺伝子組換えパパイヤが開発されたことで4個1ドル程度と安く購入することができます。また、以前はハワイのパパイヤと言えばカポホだけでしたが、現在はたくさんの種類のパパイヤが作られ、好きなものを選ぶことができます。
→(中野氏)輸送費用などがあるので、日本では価格がメリットになるにはまだ距離があるかもしれません。

●(会場から)ハワイでは遺伝子組換えパパイヤは非遺伝子組換えパパイヤと同じ値段だということですが、安くすることはできないのですか?
→(ゴンザルベス氏)ハワイ産のパパイヤは日本で高級品となっていますが、あくまでも普通のスーパーで買えるような日常的なものにしたいと思っています。

●(会場から)表示のシールにグッドストーリーやメリットなどの内容を盛り込めたらいいと思いますが、シールはどのようなものになりますか?
→(今川氏)まだどのようなシールになるかは検討している最中です。何かいいアイディアがあれば教えてください。
→(質問者)遺伝子組換え農作物は現在も日本で多くの食品に使われています。しかし、結局は表示としては見えない食品に使われているというのが現状です。遺伝子組換えパパイヤについてはそうならないように願っています。表示のシールについては、小さな文字で表示するなど、遺伝子組換えであることを隠すようなものにしては絶対にいけないと思います。遺伝子組換えだからこそ成し得たメリットなどを伝えられればと思います。

●(会場から)表示のシールで、厚生労働省が食品としての安全性を認可したということをアピールするようなことは書けないのですか?
→(今川氏)景品表示法で、商品をよく見せるために事実と異なることを表示することは禁止しています。その点、厚生労働省が認可したということは事実なので、そうした表示はできるかもしれません。

●(会場から)レインボーの種子を自分で植えて栽培すると違法になりますか?
→(農務部担当者)レインボーの環境への安全性は環境省で認可され、12月には国内法であるカルタヘナ法にも認可されているはずなので、そのような環境中への放出は違法ではないと思います。あとは、各自治体のルールがあるので、それを確認する必要があります。
→(ゴンザルベス氏)レインボーはハワイのパパイヤリングスポットウイルスにしか抵抗性がないという論文が出ています。日本でレインボーの種子を植えて芽が出たとしても、日本のウイルスには弱く、育たないかもしれません。