食の信頼向上をめざす会「トクホとはなにか?−エコナ問題をきっかけに−」2

今回は前回に引き続き、食の信頼向上をめざす会のセミナーで、「一般の人に誤解されやすい」こととして話題にのぼったことを書きたいと思います。


エコナ問題(*)は、エコナの食品としての安全性の他に、国からお墨付きを与えられたトクホとしてのあり方(トクホに食品以上の安全性を求めるのか、有効性についてなど)についても論点となりますが、今回は前者を話題にします。

(*:「体に脂肪が付きにくい」食用油としてトクホをとった花王株式会社のエコナに、精製過程で発がん性物質になる可能性のあるグリシドール脂肪酸エステルが普通の油の約10倍生成することが分かり、今年の10月に事業者がトクホの失効届けを出した。)

トクホのあり方については消費者庁「健康食品の表示に関する検討会」において現在議論が進められています。


グリシドール脂肪酸エステルの発がん性はまだ分かっていない

今回エコナに多量に含まれていることが分かり、問題になっているグリシドール脂肪酸エステルの発がん性の有無や強度はまだ明らかになっていません。

では、なぜこの物質が問題になっているのかというと、グリシドール脂肪酸エステルは体内でグリシドールという物質に分解される可能性があり、このグリシドールに遺伝毒性のある発がん性があるとされているからです。


国際がん研究所(IARC)は発がん性評価を次の5つに分類しています。
 ・グループ1  ヒトに対して発がん性がある
 ・グループ2A ヒトに対して恐らく発がん性がある
 ・グループ2B ヒトに対して発がん性があるかもしれない
 ・グループ3  ヒトに対する発がん性については分類できない
 ・グループ4  ヒトに対して恐らく発がん性がない

グリシドールの発がん性はグループ2Aに分類されています。

上から2番目のグループということで、「すごく危険なものなのではないか・・?」と思われるかもしれませんが、これは発がん性の強度を表したものではなく、発がん性に関する科学的根拠が明らかになっているかどうかによって分類されたものなのです。
食の信頼向上をめざす会会長の唐木英明氏によると、「発がん性はあるけど弱い」ということが科学的に明らかになっているものはグループ1になり得るということです。

グリシドールと同様にグループ2Aに分類されているものに、紫外線やアクリルアミド(次の項目を参照)などがあり、意外と身近なものがあることが分かります(他に身近なものでいえば、アルコール飲料はグループ1です)。
また、グリシドール脂肪酸エステルの発がん性に関する情報はまだ少なく、「ヒトに対する発がん性については分類できない」グループ3に分類されています。


エコナの安全性について

エコナは動物への長期投与実験を含めた多くの実験データを審議した結果、流通するに至り、実際に多くの人がエコナを摂取していました。
エコナに含まれるグリシドール脂肪酸エステルの発がん性の有無や強度はまだ明らかではありません。
エコナの食品としての安全性については大騒ぎするほどの問題ではないようです。安全だという理由は、「まだ可能性の段階だから」というわけではありません。今回は、アクリルアミドと比較しながら、エコナの安全性について書きたいと思います。

今回のグリシドール脂肪酸エステルと同じように、アクリルアミドも一時期よく報道されていたので、知っている人も多いかもしれません。アクリルアミドは、デンプンなどの炭水化物を多く含む食品を高温で加熱したもの(ポテトチップスやフライドポテトなど)に含まれる、遺伝毒性のある発がん性物質です。

政府はこのことに対して、食品のアクリルアミド含有量の規制を行うなどの対策はしていません。この理由として、油で揚げる調理法は古くから行われており、これまでもアクリルアミドを摂取してきたので、ただちに食生活を見直す必要はないとしています。大切なこととして、バランスのいい食生活を送る、炭水化物の多い食品を必要以上に長時間高温で加熱することは避ける、などといったポイントを挙げています。
アクリルアミドについてはまた別の機会に詳しく書きたいと思います。


繰り返しになりますが、グリシドール脂肪酸エステルの発がん性の有無や強度はまだ明らかではありません。



今回のエコナ問題では、エコナ中のグリシドール脂肪酸エステルの100%が体内でグリシドールに分解されるという最悪のケースを想定しました。
この場合、国立医薬品食品衛生研究所の畝山智香子氏によるとエコナを10g(一日摂取目安量)摂取することによるグリシドールの発がん性は、ポテトスナック100gを摂取することによるアクリルアミドの発がん性と同程度なのです。

ポテトスナックはひとつ食べると止まらない・・と、ついつい食べ過ぎてしまう人がいるかもしれません(私はそうです)。この場合、「太るかもしれない」とは思うかもしれませんが、「がんになる」というふうには普通はあまり感じないのではないでしょうか。
畝山氏は、アクリルアミドもグリシドールも食品中に多く含むことは決していいことではないので事業者は低減をはかるべきだが、緊急性が極めて高いものではないと述べています。

エコナ中のグリシドール脂肪酸エステルの100%がグリシドールに分解されるという最悪のケースでこのような状況なので、その分解の割合によってはアクリルアミドよりも懸念する必要はないと言えます。

グリシドール脂肪酸エステルは、普通の食用油にも含まれています(0.5〜9.1ppm)。花王株式会社の安川拓次氏によると、油の精製工程の技術改善により、エコナグリシドール脂肪酸エステル含有量は3ppm以下にまで減らすことに成功し、現在はグリシドール脂肪酸エステルの体内での代謝のされ方など包括的な研究を進めているそうです。


科学技術が発展し食品の危険性を発見しやすくなった今日、今回のような問題はまた起こるでしょう。そして、その度に「リスクがある」と言われる食品を避けていたら、食べられるものはなくなってしまうかもしれません。先日の記事にも書きましたが、野菜や肉、魚なども含めて、リスクのない食品はないのです。
現代に生きる私たちに求められるのは、ある特定の食品のリスクのみに注目するのではなく、多種多様な食品がある中でのひとつの食品として、リスクを相対的にとらえようとする意識なのかもしれません。