食品の役割とは

皆さんはどのような基準で食べるものを選んでいますか?
おいしいものがいい、仕事が忙しいから片手で食べられるものがいい、健康によさそうなものがいい・・。多様な食品があふれる今日、どのような人でも目的に合うものをその時々で選んでいると思います。そこで今回は、現代における食品の役割について書きたいと思います。


【日本の食生活のなりたち】

戦後、コメを中心とした日本の食生活は欧米化し、肉や乳製品、油脂などの摂取が増え、それまで不足しがちだったたんぱく質や脂質、カルシウムなどが満たされた健康的な食生活になりました。
しかし、近年では摂取エネルギーに占める脂質エネルギーの比率がさらに増加し、栄養バランス(PFC比率、P:たんぱく質、F:脂質、C:炭水化物)が崩れているといわれています(表1)。昭和50年代中頃の「日本型食生活」は、理想的な食事内容と言われ、農水省厚労省は、そうした食生活の復活は食料自給率の向上にもつながるとしてPRしています。


表1. 国民一人一日当たりのPFC比率の推移(農水省HPより)


また、社会の変化に伴い、朝食の欠食や夜遅くの食事など食生活の乱れも指摘されるようになりました(参考:平成20年度国民健康・栄養調査の概要)。これらに運動不足などが加わって起こる糖尿病や高血圧症、脂質異常症などの生活習慣病は、現代の日本において深刻な問題となっています。


生きていくために、日々の食事は欠かすことができません。そして、その内容によって疾病のリスクは減らすことができるのです。それぞれの食品には様々な機能があり、それらの適切な摂取が健康長寿のカギを握っているとも言えるでしょう。


【日本は食品機能性研究のパイオニア

実は、食品の機能性研究は、世界に先駆けて日本が提唱した研究分野なのです。食品の機能は次の3つに分類されています。

・一次機能:タンパク質、脂質、炭水化物の3大栄養素は、エネルギー源や身体を構成するもととなります。また、ビタミンやミネラルは、体内でエネルギーを作り出すのを助ける、生理機能を調整する役割を果たしています。このような食品の栄養素としての機能を一次機能といいます。
・二次機能:食品はそれぞれ、味、香り、色、食感など、感覚に訴えかける特性を有しています。このような嗜好に関与する感覚機能を二次機能といいます。
・三次機能:ポリフェノールの抗酸化作用や、イソフラボンのホルモン様作用のように、免疫系や内分泌系(ホルモン)などに作用し、健康維持や疾病の予防などにつながる生体調節機能を三次機能といいます。


以前は、食品の機能は一次機能と二次機能の面からのみ評価され、たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルの5大栄養素以外は非栄養素とされ、重視されていませんでした。
しかし、「栄養素以外の物質に、生体調節に関わる機能があるのではないか」という考えから、昭和59年、当時の文部省により「食品機能の系統的解析と展開」というプロジェクトが立ち上げられ、様々な三次機能が明らかにされてきたのです。


【トクホは消費者庁の所管に】

これらの研究成果は平成3年、厚生労働省により「特定保健用食品(トクホ)」として制度化され、今や表示許可商品は892品目(平成21年8月28日現在、一覧は厚労省HPで見られます)、その市場規模は6,798億円(平成19年、財団法人日本健康・栄養食品協会調べ)にも達しています。

2009年9月 に内閣府消費者庁が設置されたのに伴い、食品表示に関連する業務が厚生労働省農林水産省から移管され、トクホ表示の許可は消費者庁が所管することになりました。
なお、消費者庁によりトクホ表示の認可を受けた製品は11月18日現在まだありません。今後新たにトクホ表示の認可を受けた商品は、「消費者庁認可」(あるいは「内閣総理大臣認可」)とラベルに記載されることになるでしょう。また、消費者庁における健康食品の表示に関する検討会の発足が11月17日に発表されました。主な検討項目としては、(1)表示の現状の把握と課題の整理、(2)トクホの表示のあり方、(3)トクホ以外の健康食品の表示のあり方が挙げられており、年度内に論点の整理を行うとしており、今後の動向を注目したいと思います。


食品機能性の研究の発展は、消費者の健康意識の高まりと相まって、機能性をうたった食品のブームを巻き起こしました。
有効性や安全性について個別に許可が必要なトクホの他、ビタミンやミネラルの補給を目的とし、含まれる栄養成分量の規格基準を満たし、国の審査は必要がない「栄養機能食品」、その他の「いわゆる健康食品」などがあります。


健康に効果があることを連想させるような食品は店頭でよく見かけると思いますが、食品やその成分と健康の関わりを述べ、示唆、暗示するような健康強調表示はトクホでしか認められていません。トクホの商品に記載されている「お腹の調子を整える」や「体脂肪がつきにくい」などがそうです。
また、健康食品はあくまでも食品であり、薬事法により医薬品と誤認されるような表示は禁止されていますが、例外としてトクホでは、カルシウム摂取と骨粗しょう症葉酸摂取と胎児の神経管閉鎖障害のように、関与成分の疾病リスク低減効果が医学的、栄養学的に明らかになっている場合は、「適切な量の葉酸を含む健康的な食事は、女性にとって、二分脊椎などの神経管閉鎖障害を持つ子どもが生まれるリスクを低減するかもしれません」のように、疾病リスク低減表示をすることができます。


【バランスがあってこそ】

しかし、トクホ(そしてその他の健康食品)を摂取すれば健康を手に入れられるというわけではありません。
これらはあくまで補助的に摂取するものであり、何より大切なのは毎日のバランスの良い食事です。
私たちが生命を維持するために不可欠な食品の一次機能。直接的に健康維持に関与しないものの、豊かな食生活を送る上で大切な要素となり、心の栄養ともなり得る二次機能。そして、疾病の予防などにその有効性が期待される三次機能。どれもが私たちの健康に大きく関わっていることを認識する必要があります。