EUヘルスクレームとは?

7月21日、東京大学食の安全研究センター主催セミナー「欧州ヘルスクレームに見る食の安全性」が開催されました。

セミナーでは、オランダで長年に渡って食の機能性を研究されてきた工藤聡氏により、EUでの機能性食品の認識やその方向性についてお話がありました。
ヘルスクレームというと聞きなれない言葉ですが、日本でも同じようなものがあります。特定保健用食品(トクホ)にあるような、食品あるいはそれに含まれる栄養素を摂取することで、健康によい影響があるということを示唆する表示です。

今回は、お話にあったEUのヘルスクレームの状況をご紹介しつつ、日本のトクホの表示について振り返ってみようと思います。


EUのヘルスクレームは、2007年に施行された栄養・健康表示法の13条1項と5項、そして14条により規定されています。それぞれのすみ分けは次のようになっています。
●13条1項:既に知られているような一般的な科学的根拠に基づく健康表示。例えば、カルシウムと骨の関係。
●13条5項:各企業から提出される新しい科学的データに基づく健康表示。日本でいうトクホの表示。製品ごとの個別審査。
●14条:疾病リスクを減らす旨の表示および子どもの健康に関する表示。これも日本でいうトクホの表示に含まれる。製品ごとの個別審査。

これらにより規定されるヘルスクレームは、ポジティブリスト的な制度であると言えます。つまり、「原則として全ての表示を禁止する。だけど、審査に通ったものだけは許可する」というものです。

審査は、欧州委員会と欧州食品安全機関(EFSA)で行われています。
EFSAは欧州委員会とは異なり、法的に独立した機関で、本来は食品の安全性を調査および審査をしています。EFSAでの審査はもっとも重視されますが、ここでの結論が絶対というわけではなく、欧州委員会での審査と合わせて結論が出ます。
ちなみに、日本ではトクホの表示は消費者庁食品安全委員会で審査されます。食品安全委員会はEFSAと同じような科学的に公正で中立な機関です。

13条1項に関してはこれまで、EU各国からおよそ44,000件が提出されたのに対して、欧州委員会で絞り込まれ、4,000件以上がEFSAで審査されました。2009年10月の段階で94件の審査が終わっており、このうちビタミンやミネラルなど29の表示が認可されています。
審査を全体的に見てみると、in vitro(試験管内)試験で有効性が認められたものであっても、ヒトでの試験で証明されていないと認可されないという傾向があります。

13条5項と14条は個別製品ごとに審査されます。この二つに関しては、2010年1月の段階で76件審査され、そのうち認可されたものは16件でした。
審査は二重盲検試験(*)の結果に焦点が当てられ、疫学調査や観察に基づくものはあまり評価されなかったようです。工藤氏によると、提出されたデータを日本のトクホの基準に当てはめて審査すると、認可件数はもっと多くなるとだろう、とのことです。
*その食品の機能性などを医者や被験者に伝えずに与え、心理的な偏りやプラセボ効果を防ぐ試験法。本来は医薬品の効果を調べるときに使われる。


EFSAにおいて13条5項で認可されたものには、水溶性トマト濃縮物と「正常な血小板凝縮の維持を助ける」機能との関係があります。
14条で認可されたものには、カルシウムと子どもの骨の成長との関係などがあります。先ほども書いたように、14条は子どもの健康に関する表示を規定しており個別許可制なので、このような一般的だと思われる関係であっても、その都度審査を受けなければなりません。
工藤氏は、これについて「おかしい」と思い関係者に質問をしたそうですが、明確な答えは返ってこなかったそうです。この点で日本やアメリカでは規格基準型となっており、製品ごとの審査は必要ありません。


日本ではトクホは2010年5月の時点で939件が認可されています。
トクホで認可されているもののなかでも、プロバイオティクス、オリゴ糖カテキンギャバEUのヘルスクレームでは認可されていません。このように、食品の機能性に関する表示は国際的な整合性がとれていないというのが現状です。


そのほか、EUのヘルスクレームと日本のトクホの違いとして、トクホは有効性のほかに安全性も審査される、ということがあります。
ヘルスクレームは安全性については不問です。ただし、EFSAはnovel food(新規食品)として、遺伝子組換え作物とともに植物ステロールやノニジュースなどの安全性についても審査しています。


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このように、EUと日本では食品の機能性をどのように表示するのか?についていくつかの違いがあることが分かりました。
日本では現在、消費者庁「健康食品の表示に関する検討会」において、トクホを含む健康食品の表示の今後の方向性について議論をしているところです。
ちょうど明日(7月28日)の第11回検討会では、論点が整理され取りまとめられるとのことなので、どのような方向に進んでいくのか・・注目してみたいと思います。