厚生労働省、薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会・放射性物質対策部会 合同会議(10月31日)

10月31日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会・会放射性物質対策部会の合同会議が開催されました。
食品安全委員会による食品中の放射性物質のリスク評価結果を受けて(*)、新たな規制値を設定するための審議が始まりました。
食品安全委員会のリスク評価書はこちらです。


今回発表された新たな規制値の主な論点は、
放射性セシウムの規制値を新たに設定する
●その他の核種については放射性セシウムとの比で考える
●許容できる線量を年間1mSvとする
●食品加工による放射性物質の濃度の変化についてはどのように考え規制するか
●子どもに対してはどのような具体的な配慮をするか
これらについて、今後の審議で検討していくとしています。


また、今回の会議では、牛海綿状脳症BSE)対策の再評価についても議題となりました。二つの記事に分けて、放射性物質BSEに関する部分の傍聴記録をご紹介します。
なお、配布資料はこちらで公開されています。



<傍聴した感想>
今回、新たな規制値の方向性が提示されました。
これまでは放射性セシウムについては許容できる線量を年間5mSvとし、それをもとに各食品の暫定規制値が決められていました。厚生労働省事務局からは、許容できる線量を年間1mSvに下げてはどうかという提案があり、今後その値が適当かどうかについて審議が行われます。
食品安全委員会は先日、生涯累積およそ100mSv以上で健康影響が見出されるとのリスク評価結果をまとめました。これは食品からの内部被ばくに限定した値だとのことです。
食品安全委員会は、過去のデータなどから科学的に食品のリスクを評価する機関です。
それに対して厚生労働省は、食品以外の様々なリスクも勘案した上で、最も合理的に安全性を保てる措置を決定する機関です。生涯累積おおよそ100mSvを下回るように、また、産業その他に対して必要以上の負担をかけないような措置がこれから模索されていくことになります。
一部の食品を除いて放射性物質の検出値は低いレベルで安定してきているようなので、年間1mSvというのは難しい値ではないように感じます。ただし、今回の事故で「リスクはゼロではない」ということをいやという程実感している消費者の安心を得るためには、それがどの程度のリスクに当たるのかを示すことが必要になると思います。


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●傍聴記録
【事務局からの説明】

厚生労働省事務局から、食品中の放射性物質に係るリスク評価結果と今後の検討課題について説明がありました。
<リスク評価結果の概要>
・リスク評価の基本的な考え方として二点を確認する。一つ目は、リスク評価結果は、緊急時であるか平常時であるかで基準が変わるものではないということ。二つ目は、リスク評価は安全側に立って実施するものであるということ。
・食品からの追加的な被ばくについて検討した結果、放射線による健康影響が見出されるのは、生涯の累積線量としておおよそ100mSv以上であると判断した。この値は外部被ばくを除いたものである。
100mSvは閾値ではない。おおよそ100mSvとは、リスク管理機関が食品について管理を行うために考慮すべき値である。
・子どもは甲状腺がん白血病において、大人より感受性が高い可能性があるとした。
・100mSv未満の健康影響について言及することは難しいと判断した。
・外部被ばくについては、リスク管理機関において適切な措置を講ずべきものと考える。


<食品からの内部被ばく量の推計結果>
・8月31日までに得られたモニタリング検査の測定データと食品摂取量のデータから、年齢階層ごとに食品由来の内部被ばく線量を推計した。
・推計は決定論的な方法(モニタリング検査結果の中央値の濃度を含む食品を、平均的な摂取量で食べたと仮定した場合の被ばく量)と確率論的な方法(モニタリング検査結果からランダムに選択した濃度を含む食品を、ランダムに選択した摂取量と掛け合わせた場合の被ばく量)の二通りで行った。
いずれの推計方法と年齢階層でも、食品からの内部被ばく量は中央値で年0.1mSv程度であった。
放射性カリウムなどの自然の放射性物質の摂取が年0.4mSv程度であることと比較すると、今回の原発事故による実際の内部被ばく線量は小さいものに留まると評価できる。
・今後大きな放出がないとしたら、生涯累積で100mSvを超えることはないと思われる。
・この結果はあくまでも推計である。添加物や残留農薬はマーケットバスケット方式で実際の摂取量を調査している。放射性物質についてもマーケットバスケット方式の調査をするために、現在、予算請求をしている。


<審議の主な論点と対応の方向性>
・許容できる線量を年1mSvとして、それを基に食品の規制値を設定してはどうか。
・現在の暫定規制値は、放射性セシウムについては許容線量を年5mSvとし、各食品カテゴリー(飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類、肉・卵・魚・その他)に1mSvずつ割り当てている。
・モニタリング検査によると、食品中の放射性セシウムの検出濃度は多くの食品(きのこや福島県沖の水産物を除く)で時間の経過とともに低下傾向にあるので、許容線量を厳しくすることを提案する。また、食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会でも年間1mSvを超えないことが指標となっている。
・新たな規制値は放射性セシウムを中心として設定してはどうか。他の核種については放射性セシウムとの比を用いることで考慮してはどうか。
・お茶や乾燥シイタケなど、加工することで放射性物質が濃縮するが、食べる際には薄まる食品などについてはどのように考えるか。
・子どもに対してはどのような具体的な配慮をするか。


【議論&質疑応答(一部抜粋)】
●(大前和幸委員)100mSv未満についても、このくらいならこういうリスクがあるということが分からないと、どの程度を許容できるのか判断ができない。
●(阿南久委員)年間1mSvを許容線量とするのには賛成だ。食品安全委員会の「おおよそ100mSv」は外部被ばくを含んでいないというが、外部被ばくは現状どの程度あって、どういうリスクがあると考えられるか?
→(明石真言委員)今回の事故による住民の被ばく量は実際には分かっていない。空間線量から推定すると、年間1mSv程度の外部被ばくがあるが、一部地域の住民の中にはこれでは済まない場合もあるだろう。
●(若林敬二委員)許容線量の1mSvは、今回の事故によるものと自然放射線の区別ができなく、混乱をまねくようなことはないか?
→(事務局)自然放射線量は日本では1.5mSv程度となっている。1mSvは介入値であり、実際の被ばく量は0.1mSv程度だと思う。これは1.5mSvと比べると小さく、個人間の誤差があることを考えると十分に小さい値なのではないか。
●(山内明子委員)許容線量を5mSvから1mSvにする場合、単純に規制値を1/5にするとしたら、100Bq/kgを超えるものは流通できなくなる。モニタリング検査における放射性セシウムの暫定規制値超過割合を見ると、7〜9月で100Bqを超えているのは6.1%だ。こうした状況で、管理としてこれが適当なのかを考える必要はある。
→(事務局)6.1%のうちのほとんどは牛肉であり、稲ワラの問題が終わればなくなるのではと考えている。
→(岸玲子分科会長)福島県でも、市場に出回っているものは規制値以下であると考えていいか?
→(事務局)出荷時期直前に検査をしている場合は規制値以下のものしか流通しない。中には一年を通して出荷しているものもあり、これらは出荷しながら検査をしている。その場合に、流通しているもので規制値を超えるものがあったということがある。
●(浅見真理委員)食品からの内部被ばく量の推計で、お茶などは乾燥している状態の値で出しているのか?
→(山口一郎委員)お茶は抽出して飲む状態の値を使っている。
●(山本茂樹部会長)食品安全委員会のリスク評価結果は、そのまま判断に用いるのには難しい結果だが、審議は基本的には安全側に立ってやっていく。