妊婦さんは大きな魚の食べ過ぎに「少しだけ」注意

先日の記事で、妊婦さんや免疫力の低い人はナチュラルチーズや生ハムには気をつけるべきと書きましたが、今回は妊婦さんに限って留意することについて書きたいと思います。

それは、妊婦さんは大きな魚を食べ過ぎないように気をつけるということです。
大きな魚とは、例えばクジラやイルカ、カジキ、マグロなどです(クジラやイルカはほ乳類ですが今回はまとめて書かせてください)。サケやブリ、サバくらいの大きさの魚は普段通りに食べて大丈夫です。


海には、細菌の働きにより生成されるメチル水銀という物質が存在します。

メチル水銀というと、水俣病を思い浮かべる人が多いかもしれません。水俣病は、水俣市の化学工場から海に排出されたメチル水銀が原因となり、その海でとれた魚を食べた地元住民に起こった神経性の疾患です。
水俣病は人為的な原因により引き起こされましたが、メチル水銀は元々自然の海に存在しています(ちなみに、現在水俣市とその他の地域の海のメチル水銀濃度に差はないそうです)。


では、なぜ「大きな」魚が問題になるのでしょうか?

海水中のメチル水銀を取り込んだプランクトンは、小魚に食べられ、その小魚はより大きな魚に食べられます。さらに、それがもっと大きな魚に食べられ、最終的には海にすむ生物の中で最も大きい生物(クジラなど)に食べられます。
こうした食物連鎖の流れの中で、メチル水銀は大きな魚の中に集まり、蓄積していくことになるのです。

妊婦さんがある一定の量以上のメチル水銀を摂取すると、発育中の胎児の神経系に影響を及ぼす可能性があることが分かっています。
ただし、一定の量よりかなり多く食べた場合に、生まれてくる子どもの音への反応が1/1000秒以下のレベルで遅れる可能性があるということで、重い神経疾患になるというわけではないようです。


いずれにしても、こうした理由により、妊婦さんは大きな魚の食べ過ぎには気をつけた方がよいとされているのです。

このような話を聞くと「魚を食べるのは止めよう」と思う人がいるかもしれません。
しかし、魚は血管障害の予防やアレルギー反応を抑えるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)、そして、カルシウムなどの栄養素を多く含んでおり、よいたんぱく源となります。また、魚は刺身や焼き魚、煮魚と、日本人の食生活にとって欠かすことのできない食材でもあります。



写真. ホウボウの煮付け。このくらいの大きさなら妊婦さんも気にしなくて大丈夫。


男性や妊娠していない女性、子供にとっては、魚を食べないことによる疾患のリスクの方が、食べることによるリスクよりはるかに大きいということになるでしょう。
妊婦さんにとっても魚が大切な栄養になるということに違いはないので、魚の種類と量にさえ注意すればよいのです。


厚生労働省では、約400種の魚介類を検査し、妊婦さん向けのパンフレットで注意が必要な魚として数種を挙げています。
これによると、サケやアジ、ブリ、サバなどの大きさの魚は特に注意する必要がなく、メカジキや本マグロ、キンメダイ、イルカやクジラなどは一週間を基準として食べる量に注意するべきだとしています。