トレーサビリティ、義務があるのは牛肉と米

トレーサビリティの意味を知っていますか?「消費者に食品の産地情報を伝えること」だと思っている人が多いかもしれません。
これだけでは、多分△です。

トレーサビリティとは、農林水産省により「生産、加工および流通の特定のひとつまたは複数の段階を通じて、食品の移動を把握できること」と定義されています。

そのメリットは大きく二つあります。
まず、食品事故などの問題が起こったときに、その原因の究明や製品の回収がしやすくなります。例えば、問題が起こって製品を回収する必要がでたときに、製品のロット番号の情報をさかのぼることで、その製品の流通ルートが速やかに分かり、全製品を回収することを避けることができます。
そして、冒頭で書いたような、表示などの情報の信頼性を高め、消費者が安心して食品を買うことができるようになるということがあります。

このように、トレーサビリティは食品の安全の確保ということと直接的なつながりはないかもしれませんが、消費者や取引先からの信頼を得ることに役立つのです。鶏卵を例にしていえば、鶏卵の安全性は養鶏場やGPセンターでの衛生管理や品質管理、環境管理などにより得られるものですが、そうした一連の過程の透明性がトレーサビリティにより確保されているという点で、消費者たちは安心が得られるということです。
つまり、トレーサビリティだけで食品の安全が確保できるというわけではなく、衛生や品質などの管理がされているということが前提となっているのです。


***


現在、トレーサビリティが義務となっているのは、牛肉(それと、米)です。米を括弧書きにしている理由は後で書きます。


☆牛肉
牛肉については、2001年9月に発生したBSEが発端となり、2003年に「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」が制定されました。
この法により、国内で生まれた牛と生きたまま輸入された牛は全て、個体識別番号が書かれた札が耳に付けられ、生年月日や性別、種、飼養値、管理者などがデータベースに登録されることになっています。
とさつされてからも加工される各ステップにおいて個体識別番号が記録されます。
消費者への情報開示は、製品のラベルや掲示物に個体識別番号を記載することで行われます(ひき肉やこま切れ、タンやホルモン、加工品などは除く)。



写真.ラベルへの個体識別番号の記載(農水省作成のパンフレットより)


消費者は、牛の個体識別情報検索サービスにアクセスし、個体識別番号を入力することで、その牛の情報を得ることができます。また、飲食店については、提供される料理が主にすき焼きやしゃぶしゃぶ、ステーキなどである、いわゆる専門店において、個体識別番号を開示することが必要です。
なんだか、こういうシステムがあるというだけで安心しそうですが(実際に検索サービスで情報を確認しなくても・・)、せっかくなので一度見てみてはいかがでしょうか?


☆米
米については、昨年に流通ルートの記録が義務化されたばかりで、消費者への産地情報の伝達は2011年7月から始まります。これ以降、国産米は「国産」などと記載され、外国産米はその国名を記載することになります。これまでも、玄米や精米、もち米などはJAS法により原産地表示が義務となっていましたが、その他に、米粉やだんご、煎餅といった米菓、清酒などの米加工品なども同様に原産地の開示が必要となります。
ただし、こうした製品は必ずしも原産地そのものを製品に記載しなくてはいけないということではなく、産地情報を知るための手段(webアドレスやお客様相談窓口の電話番号など)を記載するといったことでも可となります。

飲食店においては、米飯類について産地情報の開示が必要となり、メニューに原産地を記載するか、「産地情報については店員におたずねください」といった注意書きをするなどがされるようになります。米飯類とは、白めしの他、おかゆや寿司、チャーハン、オムライス、カレーライス、ドリアなどのことをいいます。


***


また、牛肉や米のように法的拘束力のあるものではないですが、ガイドラインとして野菜・果物や鶏卵、養殖魚、貝類、海苔のトレーサビリティがあります。
「安全」と「安心」は違う、とよく言われますが、食の安全がどのように確保されているのかということと同時に、消費者の安心を得るためにどのような取り組みがなされているのかを知ると、私たちを取り巻く食の現状への理解が増すかもしれません。