農薬の規制-アメリカと日本の比較-

5月19日、第15回国際食品素材/添加物展・会議の一環としてワールド・セーフティー・フォーラムが開催され、海外での食品の安全性確保に向けた最新事情が紹介されました。
今回は、米国大使館農務部の佐藤卓氏の講演を参考にし、アメリカでの農薬の規制や管理についてまとめたいと思います。


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アメリカでは残留農薬の規制において、主に次の三つの機関が役割を分担しています。

環境保護庁(EPA):農薬の審査、登録、基準値の設定(*1)を行う
・食品医薬品局(FDA):違反事例の監視、取り締まりを行う
・農務省(USDA):食品を収集し残留農薬分析を行う
*1:基準値の設定のしかたは日本とほとんど同じです。こちらをご覧ください。


これらを基本としながら、各州政府で上乗せをする形の規制や民間の自主努力があります。
例えば、地中海性気候で肥沃な土壌を持つカリフォルニア州は、全米で消費される生鮮物の約70%以上を生産していることもあり、カリフォルニア農薬規制局(CDPR)により国内でもっとも厳しい農薬規制が行われています。

FDAで行われている農薬監視プログラムは、米国産だけでなく国外産も対象となっています。アメリカは世界一位の輸出国であり、輸入国でもあります。自給率の高さに関わらず、多様な食品が流通しているのです。
アメリカでは基準値の超過が見つかった場合、国内での販売は停止されますが、リコール指示は「健康に影響がある」と判断されたときのみなされています。


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一方で、日本では(食に関係するものでは)主に次の四つの機関が役割を分担しています。

食品安全委員会:農薬の健康への影響を評価する
厚生労働省:基準値の設定、違反事例の監視を行う
農林水産省残留農薬分析を行い、基準値が機能しているかを調査する
消費者庁:基準値の設定において、協議のかたちで関わる


基準値の設定のしかたはアメリカとほとんど同じです。

違う点は、日本では基準値が定められていない農薬について、健康に影響のない量である0.01ppm(1ppm=0.0001%)を一律の基準として定めていることです。また、基準値を超過した作物は、健康への影響があるかどうかに関わらず(*2)、ただちに回収や廃棄されることが当たり前となっている点も日本特有です。
*2:基準値は十分に広い安全域をとっているので、基準値を超えたからといって健康に影響が出るとは限りません。詳しくはこちらをご覧ください。

アメリカでは、日本のような一律基準はありません。
基準値を設定していない作物に関しては、残留農薬が検出された時点で違反となります。しかし、この場合の違反は、健康への影響がない場合がほとんどで、あくまでコンプライアンスの問題です。先にも書きましたが、「健康に影響がある」と判断されない限りは回収や廃棄といった措置がとられることはないのです。