Q&A「缶詰は容器から微量の金属物質の溶出があると聞いたが、心配すべきか?」

先日いただいたご質問です。


☆缶詰は容器から微量の金属物質の溶出があると聞いたが、心配すべきか?

缶詰の容器にはいくつかの種類があります。
缶ジュースや野菜缶、カニ缶などにはアルミ缶やスチール缶、フルーツ缶や一部の野菜缶にはスチールにスズメッキを施した無塗装缶が主流です。

フルーツ缶でスズメッキを施している理由は、スズによって果物の色や香りの変化、ビタミンCの分解が防げるというメリットがあるからです。
しかし、スズを過剰に摂取すると毒性が出てきてしまい、吐き気やおう吐、下痢などが症状として現れます。今回のご質問が意図している缶詰は、フルーツ缶など無塗装缶のことだと思います。



フルーツ缶はデザートに便利ですね


2008年、国際的な評価機関であるFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)はスズの評価書を作成しました。
一般的な人がスズを体内に入れる主な経路は食事です。この評価書によると、JECFAが7ヶ国(オーストラリア、フランス、日本、オランダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカ)の人々のデータを分析したところ、一人あたりのスズ摂取量の平均値は1〜15mg/日でした。日常的に無塗装缶の食品を食べる人の場合は最大で50〜60mg/日でした。

では、この摂取量は健康に影響を及ぼす量なのでしょうか?
評価書でレビューされているスズの急性影響に関する研究2件のうち、1件では最小毒性量(毒性試験において有害影響が見られた最小の量)が約66mgであり、より適切と考えられるもう1件では67mgの摂取でも影響は見られませんでした。これらの値は日常的に無塗装缶の食品を食べる人のスズ摂取量と同程度です。
このことから、一般的には急性影響が生じるような量のスズを缶詰から摂取することはあまりないと思われます。体内に入ったスズの90%以上は排泄されるので、蓄積するということもありません。

ただし、ひとつ覚えておきたい注意点があります。それは、一度開封した無塗装缶の食品は缶に入れたまま置いておかないということです。
なぜなら、開封するとスズの溶出が早くなるからです。開封した無塗装缶のまま保存した食品を一日に4回食べた場合、スズ摂取量は約200mg/日にもなるそうです。先に書いた7ヶ国の一人あたりのスズ摂取量の平均値(1〜15mg/日)と比べると、段違いに大きい数値であることが分かります。

フルーツ缶の表示を見てみると、「使い残しはガラスなどの容器に移して冷蔵庫に入れ、お早めにお召し上がりください」という注意書きがあります。



この点には注意を払うべきですが、開封前で賞味期限内(大体2,3年間)の缶詰であれば、スズの溶出による健康影響を心配する必要はないでしょう。

フルーツ缶をおいしく保つというメリットがあるスズでも、状況によってはデメリットが出てくることもある。やはり表示をしっかりチェックするということは大切ですね。

お茶の栽培方法-玉露、てん茶、かぶせ茶-

下の写真を見てみてください。これは抹茶のもととなる茶葉です。



こちらは碾茶(てんちゃ)といい、飲んでびっくりの甘いお茶です。
碾茶自体はなかなか入手しにくいものですが、碾茶を粉状にしたものは皆さんおなじみの抹茶です。
ちなみに、健康食品のように売られている「甜茶」もてんちゃと読みますが、甜茶中国茶のひとつであり、碾茶とは違うものです。


碾茶の名前は、「碾(てん)」と呼ばれる木製の薬研(やげん)で茶葉を挽くことに由来しています。
薬研とは、漢方薬などを粉砕するのに使う器具で、本来は石製のものです。


碾茶玉露とかぶせ茶と共通点があります。それは、栽培方法です。

お茶の栽培というと、傾斜のある段々畑の風景を思い描くかもしれませんが、碾茶玉露、かぶせ茶は覆いのある茶園で栽培されます。この栽培方法を被覆栽培と言います。

被覆栽培は、霜の防止と品質向上を目的とした栽培方法です。栽培管理に手間がかかり、設備投資も大きいため、産地は限られています。現在の主な産地は、福岡県八女市周辺や京都宇治市周辺などです。


被覆栽培で用いる覆いは、伝統的には葦簾(よしず)、最近は化学繊維素材のネットを使います。
覆いをかける期間は作るお茶によって異なり、かぶせ茶は一週間程度、玉露は20日前後、碾茶は30日前後です。


被覆栽培のお茶の特徴は、うま味と甘味が強いことです。
お茶のうま味と甘味は主にテアニンというアミノ酸によって作りだされます。
茶葉中のテアニンは光の影響により苦味成分であるカテキンに変化しますが、被覆栽培では光が遮られるため、この変化が抑えられ、テアニンが多く渋味が少なくなります。

ところで、玉露はぬるめのお湯で淹れるといいということは聞いたことがあると思います。これはテアニンやカテキンの化学的性質が理由となっています。
テアニンはアミノ酸の中でも最も水に溶出しやすいのに対して、カテキンは80℃以上でないと溶出しません。従って、テアニン量の多い玉露はぬるめのお湯で淹れることにより、うま味や甘味という良さを引き出すことができるのです。


今回は、こちらの玉露をいただきます。



茶葉は濃い緑色です。
被覆栽培で作られるお茶は少ない光を効率的に吸収しようとするために、葉緑素であるクロロフィルを大量に生成し、このような濃い色になります。記事の最初に載せた碾茶の写真をもう一度見てみてください。同じように濃い色をしていますね。

ぬるめのお湯の中へ、じっくりとうま味と甘味が溶け出していきます。。



水色は黄金色。甘くてうま味がたっぷりです。どことなく抹茶を飲んだ後味と似ています。
「やはりお茶は渋味も欲しい!」という方は、かぶせ茶がおすすめです。

米国大使館セミナー「ウイルス抵抗性バイテクパパイヤ『レインボー』の開発物語と日本における表示について」

9月8日、米国大使館農務部主催のセミナー「ウイルス抵抗性バイテクパパイヤ『レインボー』の開発物語と日本における表示について」が開催されました。

日本では現在(9/6時点)、大豆やトウモロコシなど7(全167品種)の遺伝子組換え作物の栽培と流通が認められています。これらに加えて新たに、ハワイで栽培されている遺伝子組換えパパイヤ「レインボー」が12月1日から認可されます(*)。
*レインボーの食品健康影響評価は平成21年7月に終わっており、食品としての安全性については問題ないとされていました。その後、平成22年3月から消費者委員会において表示のルールについて審議が重ねられていました。今年7月にはパブリックコメントを経て、表示のルールについてもまとまりました。


セミナー当日は、アメリカから来日したレインボーの開発者であるデニス・ゴンザルベス氏による開発物語と、消費者庁による遺伝子組換え食品の表示に関するお話がありました。
また、レインボーの試食もさせていただきました。レインボーは安全性や表示のルールの審議は終わりましたが、規則の施行日は12月1日なので流通はまだしていません。
ハワイ産のパパイヤは日本では高級品だそうで、普段はあまり食べられないようなおいしいパパイヤでした。現在ハワイで栽培されているパパイヤの約85%は遺伝子組換えパパイヤとのことなので、ハワイに旅行し現地でパパイヤを食べられる方は既に口にしたことがあるかもしれません。


ここでは、お話と質疑応答の一部をかいつまんでご紹介します。


☆レインボーの開発物語(デニス・ゴンザルベス氏、米国農務省太平洋農業研究センター長)
【パパイヤリングスポットウイルスの問題】
パパイヤリングスポットウイルスは世界中に分布しており、アブラムシが媒介することでパパイヤに自然感染します。パパイヤリングスポットウイルスはハワイにおいては1945年に報告され、1950年代にオアフ島のパパイヤ産業を壊滅状態にしました。

【ウイルス抵抗性パパイヤの開発】
1978年、ハワイ島のプナ地区のパパイヤ産業を守るためにパパイヤリングスポットウイルスの対策チームが発足しました。
1985年にウイルス抵抗性に関する大きな発見がありました。ウイルスの遺伝子の一部を植物に導入すると、その植物はウイルス抵抗性を示すようになるというものです。
対策チームはこの発見を応用し、パパイヤリングスポットウイルスに抵抗性のあるパパイヤの開発を進めました。パパイヤリングスポットウイルスの外被(コート)タンパク質の遺伝子を遺伝子銃(ジーンガン)という機械を用いて、パパイヤの遺伝子に導入したのです。その後も研究を重ね、1991年にウイルス抵抗性の遺伝子組換えパパイヤの開発に成功しました。
当初は外被タンパク質が生成されて抵抗性をもたらすという仮説でしたが、最近はRNAが抵抗性をもたらしていると考えられています。

1995年には、既存のパパイヤを用いて遺伝子組換えパパイヤ「レインボー」を開発しました。非遺伝子組換えパパイヤ「サンセット」(赤肉)にパパイヤリングスポットウイルスの外被タンパク質の遺伝子を導入した遺伝子組換えパパイヤを作り、それに非遺伝子組換えパパイヤ「カポホ」(黄肉)を掛け合わせました。カポホを掛け合わせたのは、生産者が黄肉のパパイヤを望んだからです。

この頃にはプナでもパパイヤリングスポットウイルスが蔓延していました。そのため、科学的な開発の次は、遺伝子組換えパパイヤの規制緩和と商業化を進める必要がありました。その結果、1998年にようやく生産者へ遺伝子組換えパパイヤ種子の配布が始まりました。

【現在の状況】
パパイヤリングスポットウイルスはいまだに深刻な問題です。
2011年はハワイでのパパイヤ生産量の約85%が遺伝子組換えパパイヤでした。プナ地区で遺伝子組換えパパイヤと非遺伝子組換えパパイヤが隣同士で栽培されているというのは普通の風景です。スーパーで販売される値段も同じです。
実際に栽培している遺伝子組換えパパイヤが抵抗性を示しているかは常にチェックしています。これまでに抵抗性が損なわれていたことはありません。

【日本への輸出】
日本ではこれまで非遺伝子組換えパパイヤしか認可されていませんでした。そのため、プナでは日本向けに非遺伝子組換えパパイヤを栽培する必要があったのです。
非遺伝子組換えパパイヤと遺伝子組換えパパイヤを共に栽培するためのプロトコールは日本との協議の結果できたものです。このプロトコールで栽培している限り実際に汚染は起きていませんが、時間の経過とともに汚染しないように圃場を管理することが大変になってきました。
1992年はハワイのパパイヤの25%が日本に輸出されていましたが、2011年は10%以下となっています。

日本では、2001年から厚生労働省で食品としての安全性、環境省で環境への安全性の審議が始まりました(厚労省は2009年、環境省は2010年に審議終了)。そして、消費者庁での表示ルールの審議も終了し、2011年12月1日から流通が解禁される予定です。


☆遺伝子組換え食品の表示について(今川正紀氏、消費者庁食品表示課課長補佐)
【遺伝子組換え食品の表示ルール】

遺伝子組換え農産物とその加工品については、平成13年4月にJAS法および食品衛生法に基づく表示ルールが定められ、義務となっています。

従来の農産物と組成や栄養価が同じ遺伝子組換え農産物の場合、遺伝子組換え農産物を主な原材料(全原材料に占める重量の割合が上位3位までで、重量の割合が5%以上のもの)としているものについては「遺伝子組換え」あるいは「遺伝子組換え不分別」の旨の表示が必要です。不分別とは、遺伝子組換え農産物と非遺伝子組換え農産物を区別しないで使っているということです。
「遺伝子組換えでない」旨の表示は任意です。また、油や醤油など、加工後に組換えられたDNAやそれによって生じたタンパク質が検出できない加工食品については「遺伝子組換え」「遺伝子組換え不分別」の旨の表示も任意になります。
従来の農産物と組成や栄養価が異なる遺伝子組換え農産物(高オレイン酸大豆、高リシントウモロコシ)を使っている場合は、「大豆(高オレイン酸遺伝子組換え)」「トウモロコシ(高リシン遺伝子組換え)」といった表示が必要です。

【「遺伝子組換えでない」表示をするためには】
「遺伝子組換えでない」旨の表示は任意ですが、この表示をするためにはIPハンドリング(分別生産流通管理)をしなければなりません。
IPハンドリングとは、生産、流通、加工の各段階で非遺伝子組換え農産物を遺伝子組換え農産物と混入しないように管理し、それが書類などで証明されていることです。ただし、大豆とトウモロコシについては最大限の努力をしても完全に分離することは難しいので、5%以下の意図しない混入は認めています。

【パパイヤの遺伝子組換え表示】
ハワイのパパイヤについてはIPハンドリングをすることを原則として、遺伝子組換えパパイヤについては「遺伝子組換え」の旨のシールを現地で貼ることとしています。
シールはパパイヤ一つ一つに付けられます
が、流通途中にシールがはがれてしまうことも考えられます。この場合、もしその業者が遺伝子組換えパパイヤのみを扱っているのであれば「遺伝子組換え」の旨のシールを貼ります。両方扱っているのであれば、そのパパイヤがきちんと区別して管理されていることを証明できれば該当のシールを貼り、証明できなければ不分別のパパイヤとして販売することになります。

12月の流通開始に向けて、シールの詳細を検討するとともに国内でのガイドラインの作成を行っています。


☆ディスカッション(一部抜粋)
モデレーター:中野栄子氏(日経BPコンサルティング

●(中野栄子氏)遺伝子組換えパパイヤで「不分別」というものはあるのですか?
→(今川正紀氏)基本的には遺伝子組換えパパイヤと非遺伝子組換えパパイヤは区別して管理されます。しかし、流通の過程で、そのパパイヤがどちらであるか分からなくなってしまう場合があるかもしれないので、法令上は「不分別」があります。カットフルーツという形態だと不分別はあると思います。

●(中野氏)消費者に分かりやすいメリットは何ですか?
→(デニス・ゴンザルベス氏)メリットは二つあります。パパイヤリングスポットウイルスが蔓延したとき、ハワイのスーパーからパパイヤが消えてしまいました。現在では遺伝子組換えパパイヤが開発されたことで4個1ドル程度と安く購入することができます。また、以前はハワイのパパイヤと言えばカポホだけでしたが、現在はたくさんの種類のパパイヤが作られ、好きなものを選ぶことができます。
→(中野氏)輸送費用などがあるので、日本では価格がメリットになるにはまだ距離があるかもしれません。

●(会場から)ハワイでは遺伝子組換えパパイヤは非遺伝子組換えパパイヤと同じ値段だということですが、安くすることはできないのですか?
→(ゴンザルベス氏)ハワイ産のパパイヤは日本で高級品となっていますが、あくまでも普通のスーパーで買えるような日常的なものにしたいと思っています。

●(会場から)表示のシールにグッドストーリーやメリットなどの内容を盛り込めたらいいと思いますが、シールはどのようなものになりますか?
→(今川氏)まだどのようなシールになるかは検討している最中です。何かいいアイディアがあれば教えてください。
→(質問者)遺伝子組換え農作物は現在も日本で多くの食品に使われています。しかし、結局は表示としては見えない食品に使われているというのが現状です。遺伝子組換えパパイヤについてはそうならないように願っています。表示のシールについては、小さな文字で表示するなど、遺伝子組換えであることを隠すようなものにしては絶対にいけないと思います。遺伝子組換えだからこそ成し得たメリットなどを伝えられればと思います。

●(会場から)表示のシールで、厚生労働省が食品としての安全性を認可したということをアピールするようなことは書けないのですか?
→(今川氏)景品表示法で、商品をよく見せるために事実と異なることを表示することは禁止しています。その点、厚生労働省が認可したということは事実なので、そうした表示はできるかもしれません。

●(会場から)レインボーの種子を自分で植えて栽培すると違法になりますか?
→(農務部担当者)レインボーの環境への安全性は環境省で認可され、12月には国内法であるカルタヘナ法にも認可されているはずなので、そのような環境中への放出は違法ではないと思います。あとは、各自治体のルールがあるので、それを確認する必要があります。
→(ゴンザルベス氏)レインボーはハワイのパパイヤリングスポットウイルスにしか抵抗性がないという論文が出ています。日本でレインボーの種子を植えて芽が出たとしても、日本のウイルスには弱く、育たないかもしれません。

消費者庁意見交換会「食品と放射能について、知りたいこと、伝えたいこと」(3)

傍聴記録(1)(2)に引き続き、8月28日に開催された消費者庁意見交換会「食品と放射能について、知りたいこと、伝えたいこと」の傍聴記録です。
今回はディスカッションの内容の一部をご紹介します。


☆ディスカッション
コーディネーター:向殿政男氏(明治大学理工学部教授)
パネリスト:明石真言氏(独立行政法人放射線医学総合研究所理事)、新山陽子氏(京都大学大学院農学研究科教授)、栗田典子氏(パルシステム生活協同組合連合会商品本部副本部長)

●(向殿政男氏)食品中の放射性物質に対して、消費者の反応はどのようでしょうか?
→(栗田典子氏)3月以降、放射性物質に関する消費者からの問い合わせが殺到し、ここにきてますます増えています。「ダシのカツオエキスのカツオはいつどこで採れたものか?」など、その内容は細かいところにまで及んでいます。熱心な方だと電話口で40分50分と話され、その後ろからは小さな赤ちゃんが泣いている声が聞こえるといった状況です。
→(明石真言氏)放射線は目に見えないし味もありません。分かりにくさが怖さにつながっているのではないでしょうか。我々は高い放射線量は危ないということはよく知っていますが、一般の人はどのあたりからが危ないのかを判断する術を持っていません。単位の分かりにくさもあります。自分たちで経験して分かる怖さというものがないので、まずは「危ない」という意識になります。
また、いわゆる専門家でも様々なことを言っているのでどれが正しいのか分かりにくくなってしまっています。ですが、それでは放射線の健康影響に正しく向き合えないので、我々はどのように科学的根拠のある情報を出せば誤解のない理解につながるのかいつも考えています。
→(新山陽子氏)今回行った調査は特別に関心の高い人を集めたわけではありませんが、情報処理能力が非常に高かったという印象があります。対象者に「数値を出して欲しい」と言われたので、細かいデータも提供しました。皆さんはそれを読み取り、大筋を理解されていました。判断の根拠となるものを皆さん求めているのだと思いました。
そうした中で、メディアの報道の仕方について気になることがありました。食品の放射性物質に関するメディア報道は多くありましたが、放射性物質の健康影響のメカニズムなど、ごく基本的なことを解説した記事はほとんどなかったように思います。他の食品の事例と比較してみても今回はその傾向があると思います。例えば、鳥インフルエンザの時は早くから、新聞の科学欄や生活欄で解説記事が出ていました。

●(向殿氏)自然放射線量に比べると規制値はかなり厳しいものだと思いますが、消費者の不安はどのように解消したらいいのでしょうか?
→(明石氏)少し超えたら健康影響が出るようなところに規制値は設定できません。規制値は守らなければならないものですが、それを超えたら健康影響が出るというわけではありません。
→(栗田氏)ひとつは伝え方の問題があります。国が言うことは信頼できないと言われることもあります。我々の組合員には福島のグループもあり、彼らは原発の安全教育を受けてきたということがあります。彼らは「安全だと言われていた原発がこれほどの事故を起こした。これで信用できるのか?」という立場から情報を判断しています。より安全で安心だと思えるような政策を進めるしかありません。農産物については検査で不検出のものも多くなりましたが、水産物についてはまだ検査が十分ではないと考えています。

●(新山氏)今回の調査結果で挙げられた、消費者が理解につまずいている点について解説してください(*)。まず、100mSv以下で「影響が分からない」とはどういうことでしょうか?データがないのか研究されていないのか、どちらでしょうか?
*詳しくはこちらをご覧ください。
→(明石氏)「影響が分からない」というのには三つの観点があります。まず、明らかに被ばくしている人の方でがんが増えたというデータがないということ。次に、ヒトでのデータがないということ。そして、動物試験で差が出ていないということ。
研究されていないのではなく、差があるデータがないというのが正しい認識です。なぜデータの差が出ないのかというと、差が小さすぎて見えないからだと思います。
→(新山氏)科学者が正確を期するための表現は意図が伝わりにくくなってしまうことがあるので、工夫が必要だと思います。

●(新山氏)半減期があっても少しずつ体に溜まっていくのではないか、という点についてはどうでしょうか?
→(明石氏)確かに、1/2、1/4、1/8、1/16・・・と永遠にゼロにならないのではないかと思われる方もいるかもしれません。ですが、生物学的半減期は「こういう減り方をしていく」という概念です。体内では代謝されるので、永遠に残って溜まっていくということはありません。ただし、放射線防護上は、放射線は溜まると仮定して足して計算しています。安全側に立って評価するためです。
→(新山氏)そうした考え方も図示などをして分かりやすく伝えてもらえればと思います。


***


会場から集めた質問票への回答もありました。


●(質問票から)長期間の低線量被ばくと短期間の高線量被ばくで、影響は違うのでしょうか?
→(明石氏)確定的影響は異なります。がんの治療で放射する場合は、高線量を一回で当てると皮ふに傷害が出てしまうので、二十回に分けて当てています。それに対して、確率的影響についてはどの程度違いがあるのかは分かっていません。ただ、全体のリスクが低い線量では、その違いは気にする必要がないと思います。

●(質問票から)給食を自主的に停止していることがあります。どのようにリスクを理解してもらえばいいのでしょうか?
→(新山氏)調査で「自分はいいけど子どもが心配だ」という声を聞きました。今は各々の親が自分で情報を収集して、リスクを判断しているという状況です。シビアに感じている親に強制的に給食をとってもらうようにすることは難しいと思います。
全ての学校で実施することは難しいかもしれませんが、今日のようなお話を聞いてもらうことはひとつの方法です。調査によって、情報さえあれば専門家がいなくても議論できるということが分かったので、クラスや学校で議論してもらうといいと思います。その中で給食についても話し合えばいいのではないでしょうか。
ただ、給食の実施者の立場からはまた違う考えがあると思います。小学校で給食を停止する動きが広がれば、海外からは日本の農産物が使えないように見えてしまいます。そうすると、事態が復旧したときに産業に大きな打撃が残ることになるので、冷静になることは大切だと思います。

●(会場から)今回取り上げられた質問票は二枚だけです。後日で構わないので、皆さんが出した質問に対して消費者庁のホームページで回答をいただければと思います。他人の意見を聞くことは、私たちの理解を深めることにつながるのでぜひお願いします。

消費者庁意見交換会「食品と放射能について、知りたいこと、伝えたいこと」(2)

傍聴記録(1)に引き続き、8月28日に開催された消費者庁意見交換会「食品と放射能について、知りたいこと、伝えたいこと」の傍聴記録です。

今回は京都大学大学院農学研究科教授の新山陽子氏の講演内容をご紹介します。
新山氏は消費者庁の委託により、消費者が食品中の放射性物質のリスクをどのように認知しているのかについて調査研究しました。今回はその結果についてお話されました。

この結果はリスクコミュニケーションの仕方について示唆を与えるとともに、消費者にとってはリスクの捉え方のクセのようなものに気づくきっかけになると思います。


☆「消費者のリスク認識〜食品を介した放射性物質の健康への影響〜」(京都大学大学院農学研究科教授、新山陽子氏)
【これまでの研究で分かっていること】
以前のリスクコミュニケーションは「一方向」「説得」「選択された情報」というものでしたが、現在では「双方向」「相互理解(一致しなくてもよい)」「可能な限りすべてを共有」というものになっています。
消費者のリスク認知は、将来を予測するためのデータが乏しい不確実性のもとではズレが生じます。たとえ何かの専門家であっても、その人は別の専門分野においては非専門家であり、ズレが生じるということも分かっています。
このズレは、目立つ情報や負の情報に注目し、データの有意性に注意を払わない、確率や用量-反応の認識を苦手とするといった状態として現れます。


【リスクコミュニケーション調査について】
小学生の子どもを持つ親を対象にリスクコミュニケーション調査を行いました。
調査の目的は、消費者のリスク認知や求める情報を知ること、効果的なリスクコミュニケーションの方法を探索することです。
対象者(東京の男性・女性と京都の女性、全部で95名)を少グループに分け、次のような流れで調査を行いました。
●第一回調査・情報提供
(1)面接調査、(2)第一回情報提供、(3)グループディスカッション
●第二回調査・情報提供
(1)第二回情報提供、(2)グループディスカッション、(3)専門家との質疑(半数のグループのみに実施)、(4)面接調査、アンケート

調査でのコミュニケーションは説得を目的とせず、双方向の密なものとしました。
対象者に提供する情報は、専門家の協力のもとで作成しました。科学的に解明されたメカニズムや判断の根拠となるデータ、データが不足しており分からない部分はどこかなどについてまとめました。


【第一回調査・情報提供】
第一回情報提供をする前に、四つの危険因子別(環境中の放射性物質、食品中の放射性物質腸管出血性大腸菌残留農薬)のリスク認知を面接調査で調べました。その結果、東京の男性と女性は腸管出血性大腸菌のリスクをもっとも高く認知し、京都の女性は環境中の放射性物質のリスクをもっとも高く認知している傾向があることが分かりました。

また、東京の男性と女性に対して、食品中の放射性物質のリスク認知に影響を与えている要因を調べました。リスクを高く捉えている人は、「メディアの情報での怖いイメージ」「病気の原因になる」「将来重大な影響が現れる」「死に至る」がもっとも大きな影響を与えていました。その他に、「目に見えない」「データがない」「知識がない」「子供への影響」も大きな影響を与えていました。
リスクを低く捉えている人は、「落下地域は限られている、一過性、放出量が少ない」「ある程度検査されている・出荷停止措置がある」「規制値が安全側に取られている・規制値がある」「健康に大した影響がない」がリスク認知に大きな影響を与えていました。

第一回目の情報提供では、前の講演者である明石真言さんが話されたような内容(*)に加えて、福島第一原発事故の状況も含めました。
傍聴記録(1)をご覧ください。
この情報提供の結果、特に理解が進んだ部分は、「原子炉事故の原因」「摂取量・影響の程度は小さい」「食品を介した影響(小計)」「人体への影響(小計)」などであることがアンケート調査により分かりました。

情報提供の後はグループディスカッションを行いました。今回分かったことや新たに知ったこととして、原子炉の仕組みや自然放射線を受けていること、確定的影響や確率的影響などが挙げられました。
同時に、多くの疑問点も出てきました。例えば、事故収束の見通しや根拠データについて、実際の総被ばく線量についてなどです。


【第二回調査・情報提供】
第一回調査で出た疑問点について情報提供をしました(事故収束の見通しを除く)。
その結果、「一回目の疑問に答える資料により理解が深まった」「人体への影響(小計)」「根拠データ、数値、グラフで理解が深まった」「除染方法」などの理解が進んだことがアンケート調査で分かりました。

その後、面接調査を行い、四つの危険因子別(環境中の放射性物質、食品中の放射性物質腸管出血性大腸菌残留農薬)のリスク認知を再度調べました。放射性物質(環境中と食品中)のリスク認知の度合いは、東京と京都の男性と女性で当初より低下していました。ただし、個人レベルでみると、リスク認知の度合いが高くなった人もいました。リスクについてよく分かったという人は多かったけれど、その認知の仕方は様々でした。時間をかけて議論していく必要があります。


【調査結果から分かったこと】
第二回情報提供を経ても理解につまずいている点には以下のようなものがありました。
●少量の放射線を浴びた場合のリスクはどのくらいか。
●100mSv以下で「影響が分からない」というのは、データがないのか研究されていないのか。
半減期があっても少しずつ体に溜まっていくのではないか。
●実際の被ばく量はどのくらいか。
チェルノブイリ事故の影響が少し分かりにくい。
●検査でサンプルはどのように取っているか。

今回の調査によって、消費者がリスクを判断する際に必要な情報は何であるかが示されました。
消費者は、事態の生じた原因や収束の見通し、健康影響の判断の基盤となるデータ、現実の状態、事態への対応措置と実施状況に関する情報を求めています。健康影響の判断の基盤となるデータには、過去の事例との比較も含みます。消費者は、「過去の事例とは異なる」と言われても、どのように異なるのか自分で確認をしたいと思っているのです。

今回の調査で行ったような双方向のコミュニケーションとグループディスカッションの組み合わせは、情報を多面的に捉え、異なる意見を知ることができるという特徴があります。この特徴により消費者は、より深い理解が得られ、自らの妥当性を確かめることができます。

情報提供で求められるのは、結論ではなく、科学的な考え方や、物事のメカニズム、判断を導くプロセスを示すということです。その際には、詳しいデータや情報を提供し、データソースを明確にすることが必要です。


***


新山氏の発表の後にディスカッションが行われました。ここで、新山氏が挙げられた、消費者が理解につまずいている点について、明石真言氏から解説がありました。
この続きは追ってご紹介します。

サイエンスカフェ「体細胞クローン牛とは?」

普通の焼肉に見えるかもしれませんが、これはただの焼肉ではありません。



先日、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の畜産草地研究所によるサイエンスカフェ体細胞クローン牛とは?」に参加してきました。


サイエンスカフェとは、飲み物などを片手に、気軽に専門家や研究者と科学のおしゃべりをするというイベントです。今回は体細胞クローン牛がテーマということで、試食があるサイエンスカフェだったのです。


まずは、畜産草地研究所の渡邊伸也上席研究員から、体細胞クローン牛に関する簡単なお話がありました。


【クローンとは?体細胞クローンとは?】
クローン技術とは、ごく簡単に言うと、遺伝的に同一な個体(コピー)を作ることです。
クローンを作りたい個体から細胞(ドナー細胞と呼ぶ)を採り、核を除去しておいた未受精卵に入れます。このようにしてできた胚(赤ちゃんのもとになるもの)を仮親の子宮に移植し受胎させて子を産ませます。

ドナー細胞は、受精卵から採ってくる場合と、体細胞から採ってくる場合があります。
体細胞とは筋肉や皮ふなどの細胞であり、受精卵の細胞とは異なり、無数にあります。従って、体細胞クローンでは、理論上は無限にクローンを作ることができます。

クローン技術というと最新のもののように感じますが、植物に対しては古くから行われてきました。品質のそろった野菜や花を作るために行う挿し木や取り木がそれです。


【日本における体細胞クローン牛の歴史】
日本で最初の体細胞クローン牛が生まれたのは平成10年の7月で、その年は57頭が出生しました。
当時は世界的にも体細胞クローン牛の生産が始まったばかりで、リスク評価が行われていませんでした。このため、平成11年には農林水産省による体細胞クローン牛の出荷自粛があり、出生数は減っていきました。

その後、平成20年に厚生労働省から食品安全委員会へ、体細胞クローン牛のリスク評価の要請がなされました。
そして、翌年の平成21年にはリスク評価結果として、体細胞クローン牛と豚、そしてそれらの子に由来する食品は、従来の繁殖技術による牛と豚と同等である、との見解が出されました。詳しくはこちらをご覧ください。


このように現在ではリスク評価は終わり、安全性についても確認されたのですが、出生数はやはり少ないままで、昨年はわずか6頭でした。
畜産の鍵をにぎる農林水産省の対応はどのようになっているのでしょうか?

農林水産省は平成21年に「体細胞クローン家畜等の取扱いについて」という通知を出しています。
これによると、現在の技術水準では生産率が極めて低いため(*)商業的な利用は見込めない、現状で体細胞クローンは研究機関のみで生産されている、生産率の向上に向けて研究開発を進める、クローン技術について国民へ情報提供を行うなどといった対応方針を打ち出しています。
*生産率は通常の1/5〜1/10。

研究機関で生産された体細胞クローン牛を食べることができるのは、今回のようなサイエンスカフェの場が唯一です。


体細胞クローンのメリット】
体細胞クローンの一番のメリットは、優良品種の家畜を短期間で確実に作ることができる、ということです。もともと優良品種を作るためには、候補となる多くの子の中から優れた個体を選抜していくという方法をとっており、この作業にはかなりの時間と労力を費やしてきたのです。
また、体細胞クローンによって複製した優良な個体を、肉の性質や様子などをチェックする検定に活用することもできます。


***


一通りのお話の後、体細胞クローン牛の試食がありました。(試食をしたいかどうかは事前に希望を聞かれていました。)



国産のバラ肉とモモ肉です。色が少し黒っぽいのは、真空パックで保存していたからとのことです。
初めて体細胞クローン牛を目にしましたが、当然のことながら見た目は普通の牛肉です。



ホットプレートで焼いて、塩コショウでいただきました。



味やにおいも普通の牛肉と変わりません。柔らかくおいしかったです。


焼肉をほおばりながら、渡邊上席研究員に素朴な疑問をぶつけてみました。
植物では当たり前のように行われている挿し木などと同じような技術で、リスク評価の結果、従来の牛と同等とされているのに、なぜ体細胞クローン牛は流通されないのですか?との疑問に、次のように答えてくださいました。

「まだまだ消費者の皆さんの理解が得られていないということと、精神的・倫理的な部分の問題が大きいのではないでしょうか。最終的に決めるのは消費者の皆さんですが、その前段階である『安全性に対する理解』『味に対する理解』を得てもらえるようにがんばっていきます。また、技術的には、生産効率を高めて、畜産業に大きなメリットをもたらすような技術にしていきたいです。」


畜産草地研究所では、体細胞クローン牛について色々な取り組みを行っているそうです。研究の現状はこちらで公開されています。


今後、体細胞クローン牛の研究はどのように進み、流通はいつ頃実現するのでしょうか?注目していきたいと思います。

消費者庁意見交換会「食品と放射能について、知りたいこと、伝えたいこと」(1)

8月28日、消費者庁による意見交換会「食品と放射能について、知りたいこと、伝えたいこと」が開催されました。
当日は、放射性物質による健康影響と消費者のリスク認知に関する講演、ディスカッションがありました。注目度の高いテーマであり、また、土曜日の開催ということもあってか、200〜300名と多くの参加者がいました。

今回は、放射性物質による健康影響を解説された放射線医学総合研究所の明石真言氏の講演内容をご紹介します。
京都大学農学研究科の新山陽子氏によるリスク認知に関する講演とパネルディスカッションの内容は、次のブログ記事でご紹介します。)


☆「放射性物質が健康に及ぼす影響」(独立行政法人放射線医学総合研究所理事、明石真言氏)
放射性物質とは】
放射線にはX線ガンマ線ベータ線、電子線、アルファ線など様々な種類があり、種類によって透過力が異なります。人間の身体を例にとってみると、アルファ線は皮ふで遮られ透過できませんが、ベータ線は皮ふを透過でき、ガンマ線は身体を透過できます。

放射線は自然界にも存在し、人間は宇宙や大地、食べ物などから被ばくをしています。自然放射線の年間平均は2.4mSvであるとされています。自然放射線の量は地域によって異なります。イランのラムサールは年間平均で10.2mSvという高線量です。
なぜ被ばくをしても大丈夫なのかというと、たぶんこの程度の線量に耐えられる生物しか地球上には存在していないからだろうと思います。
体重60kgの日本人は体内にカリウム40を4,000Bq、炭素14を2,500Bq、ルビジウムを500Bq、鉛・ポロニウムを20Bq含んでいます。何年か前にロシアのスパイがポロニウムで殺されたということがありましたが、そのくらい物騒なものも常に体内にあるのです。

病気の検査や診断で放射線を受けることもあります。例えば胃部X線は3.3mSv、上腹部X線CTは12.9mSvです。


【健康影響の考え方】
放射線による健康影響には、確定的影響と確率的影響があります。

●確定的影響・・・一度に大量の放射線を浴びた場合の影響で、急性障害(皮ふの紅斑、脱毛など)や白内障がある。遺伝はしない。ある一定の値(しきい値閾値)以下では症状は現れない。
●確率的影響・・・少量の放射線を浴びた場合の影響で、がんと遺伝病がある。がんは遺伝せず、遺伝病は人間では観察されていない。しきい値を持つかどうかは明らかでない。線量が多ければ多いほど症状が出る可能性が高くなるが、必ず出るというわけではない。

確定的影響や確率的影響の出方は、被ばくをした際にできたDNAの損傷が修復できるかどうかによります。一度に大量の放射線を受けるとDNA損傷により細胞死が起こり、確定的影響が出ます。それに対して、少量の放射線を受けてできたDNAの損傷は、修復できることもありますし、完全に修復できないこともあります。修復が完全にできなかった場合、がんの発生確率が高まることになります。
100mSvの被ばくでがんの発生確率は0.5%増加します。100mSv以上では、線量が多ければ多いほどがんの発生確率が高くなる線量-効果関係が実証されています。100mSv未満では、放射線による影響が小さく、他の要因による影響と区別がつかないため、線量-効果関係は実証されていません。
ただし、放射線防護上は、被ばく線量は少ない方がいいという考え方をします。


【食品を介した健康影響について】
放射性ヨウ素はほとんどが甲状腺に溜まります。1988年にWHOが甲状腺等価線量として50mSvという制限値をとるとの見解を出しました。今回はこの制限値に基づいて放射性ヨウ素の暫定規制値が設定されました。
放射性セシウムは全身に広がります。自然環境下において年間10mSvの被ばくがある地域が存在することもあり、10〜20mSv程度であれば健康影響は考えられません。こうしたことなどから、さらに安全側に立って、5mSvという制限値に基づいて放射性セシウムの暫定規制値が設定されました。

放射性物質はウイルスなどとは異なり、放っておくと減っていきます。半分の量になるまでにかかる時間を物理学的半減期といいます。また、体内に入った放射性物質は、代謝や排せつにより体外に出ていきます。体内で半分の量になるまでにかかる時間を生物学的半減期といいます。
物理学的半減期と生物学的半減期の二つを足した概念を実効半減期といいます。放射性ヨウ素の実効半減期は約7日で、放射性セシウムは約70日です。

食品に含まれる放射性物質はBq(ベクレル)という単位で表されますが、人間への影響はmSv(ミリシーベルト)という単位に換算して表します。換算をする際には実効線量係数(mSv/Bq)を用います。実効線量係数は年齢層ごとに設定されています。例えば、ヨウ素131の実効線量係数は成人で4.3×10^-4(10のマイナス4乗)、幼児で2.1×10^-3、乳児で3.7×10^-3です。
事故後一年間、流通している食品を摂取し、一日10時間外にいた場合の総放射線量を推定すると、東京在住者では0.5174mSv/年、京都在住者では0.2504mSv/年でした。


【リスクをどう捉えるか】
機能障害を示さないとされている放射線量は100mSv/年です。
日本の自然放射線量は平均1.55mSv/年、ブラジルのガラパリは平均5.5mSv/年です。また、欧州のパイロットが受ける放射線量は平均2mSv/年です。
ICRP放射線防護の基準では、平常時は1mSv/年、事故後の復旧時は1〜20mSv/年、緊急時は20〜100mSv/年と設定されています。

野菜の放射性セシウムの暫定規制値は500Bq/kgです。暫定規制値の放射性セシウムを含むキャベツを毎日2kg(中くらいの大きさの玉を二個分)食べ続けると、制限値である5mSvに達することになります。

事故の深刻さを表す尺度(INES)では、残念ながら福島第一原発事故チェルノブイリ原発事故と同じレベル7(「深刻な事故」)となっています。ただし、この尺度においてはレベル7までしか設定されていません。もし、レベル8というものがあるのなら、チェルノブイリ原発事故はレベル8に分類されているでしょう。
チェルノブイリでは原発の周囲60kmを超えた範囲でも強い汚染が確認されていますが、福島では確認されていません。